表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
3ー1

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/166

管轄外

 五時間前、上り満員電車にぎゅむっと乗り込んだ竹ノ塚駅のホームに、あっという間に舞い戻った。

駅の時計は13時55分、不動産会社の入るビルまで駅徒歩1分だから、約束の帰宅時間、ほぼピッタリ。


 比較的空いてる時間帯だが、それでも一定数の利用者が駅前を行き交う。

人を避けながら、すっと小道を曲がった。




 ウィーーンッ……


 自動ドアが開き、不動産会社『ワープルーム』の真っ白な内装が俺の目に眩しく映り、俺は思わず顔を(しか)めた。


「おぅ、時間通りだな。どうした? 捨てられる直前の紙屑(かみくず)みたいな顔して……昼飯は水しか飲んでなくて腹が減ったか?」


 社長よ!

相変わらず失礼な言葉しかそのお口は発せられないんですかい?

そして、俺の昼ごはんが学食の無料飲料水だけなんて……ねぇ、当てないでよ! どっかから見てたんですか⁉︎


「ハルさん、ざんね〜ん! ほんとついさっきまで、川志田様がいらっしゃってたんですよ」

「川志田……? えっ、ソラさん⁉︎」

「ご丁寧に引っ越しの挨拶だとよ。わざわざ、菓子折り持ってきてくれたってのに……間が悪いな、お前は……」

「……その紙は?」


 図星を突いてくる社長の言葉はスルーし、彼の指先でヒラヒラ揺れるメモ紙を尋ねる。


「あぁ、彼女の引っ越し先の住所だ。このまま向かうとよ、仙台だとさ」


 宮城県か……ちょっと遠いな。

東北新幹線に乗るなら……ここから上野駅に戻るか、埼玉の大宮駅に進む。

ソラさんはどちらを選んだんだろう?


 さっき降り立った駅のホームは一つだけ。

どこかで、すれ違……いや、入れ違いか。

近距離にまで近づいていたとしても互いを認識し、出会えなければ意味がない。


 そう思うと、偶然バッタリ誰かと出くわすことは……どれほど運命的な確率なんだろう?


 生きてて、縁があれば……また会えるかな?

『肋骨一本で済みました!』って、俺まだ貴女に伝えられていない!

え? それはあんまり、伝えなくていい?


「なんだ、ハル。別れが寂しいのか?」

「なっ⁉︎ ……さ、寂しい? ……そっか……そうみたいだ」

「おぉぅ、随分とまぁ素直じゃねえか……気持ち悪ぃっ」

「……」


 無礼者(ぶれいもの)社長をじとっと睨み返す。


 まぁ、でも俺自身も……ちょっと驚いている。

極力、人との関わりを持たずに19年、ここまで生きてきた。


 だけど、マサさんの異世界に行ってから……俺は知ることになったんだ……この感情を。

ふっと、チャルやウルエさん達が順に頭に浮かび、最後にばあちゃんの顔が出てきた。

あの時ちゃんと、ばあちゃんとの別れを悲しむことが出来なかった。

ごめんな、俺が欠陥人間で……。


 知っている相手が居なくなるのは……俺にとって『嫌なこと』なんだな。


「そうだ、社長! ちょっとタブレット貸して下さい」

「なんだ? 気になる引っ越し先でも出来たか? 生憎(あいにく)だが俺の方もハルに用件がある」

「いや、物件を借りたいんじゃなくって……」


 タブレットで掲載物件に検索かけていくが……さっき大学で教えてもらった賃貸物件は見当たらなかった。


「『ワープルーム』って、未公開物件とかってあるんです?」

「いや、無い。うちは全部オープンだ。隠さなきゃいけないもんなんて何もないからな」


 ………………


 いや、アダルトなモザイク並に、もっと隠しといた方がいいもんだらけだと思いますけど?


「何かあったか?」

「ハルさんと同じ大学の学生さんが消えた物件は、うちの管轄外ですね」


 おおぅっ!

セバメさんがさらりと俺の脳内読んで、ショートカットで話をぶっ込んでらっしゃった。


「あぁ? どこの建物だ、それ?」

 

 社長は一瞬だけ眉を動かした後、俺のタブレットをひょいと取り上げた。


「あぁ、ここ。千住曙町(せんじゅあけぼのちょう)の……あれ? ここって……」


 何かに気付いた彼女の指先の動きが止まる。


「ははっ! おい、ハル! 前言撤回だ。お前はナイスタイミング野郎だなっ!」


 そう言うと社長は嬉しそうに、ニヤリと邪悪に笑った。


 ……え? 

嫌な予感しかしないんですけど……うーん。

とりあえず……話長くなりそうなら、その箱に入っているお菓子、食べていいですかね?


 俺は無言で腹を(さす)った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ