とりあえず……一応、確認してみる。
リンゴーン、リンゴーン……!
高校時代とは違うチャイム音が鳴り、90分の講義時間はあっという間に過ぎてしまった。
きちんと定刻通り。
自分が言いたいことを言い終えて、パタンと教本を閉じた教授は、ひょこひょこと静かに小講堂を出て行った。
……敗北感。
ただでさえ超集中しないと理解に苦しむ難解講義なのに……今日は言葉が右耳から入った途端、左耳から抜けていってしまうような感覚。
老教授の講義内容は俺の脳味噌にこれっぽっちも滞在しなかった。
くそっ! もったいねぇ! なんだか損した気分だ。
授業料が全額免除されているからといって、無駄にしていいわけじゃない。
……俺のこういう思考回路が社長いわく『ドケチ』なんだろうか。
あぁ、それもこれも授業前にあれを聞いちまったせいだ!
おいおいおい、どうすんの、俺?
………………
一瞬、迷ったが……知ってしまったのが、運の尽き。
知らんフリして気になる気持ちをもやもやさせたままいる方が……苦手だ。
俺は自分の心に素直でありたい。
俺は講義終了直後に、さっきの三人組に声を掛けた。
「あ、あの……」
「ん? 何だ、特待生」
「……」
へぇ……。
俺は彼らに『特待生』という名前で認識されていたのか……知らなかったな、うん。
まぁ、俺なんて彼らを名前での識別なんてしていない、お互い様だ。
「ごめん、さっきの会話聞こえてたんだ。『彼』が行方不明って……」
俺の言葉で、三人の顔が一斉に強張る。
さも知り合いのような聞き方になってしまったのはなんだか申し訳ない。
ただ……名前は知らないけど『彼』の顔を知っているのは本当。
「ちなみに……『彼』って……どこら辺に住んでるの?」
「「「?」」」
今度は、怪訝そうな顔が仲良く三つ並んだ。
そりゃそうだな。
『家の場所なんか聞いてどうすんだ⁉︎』って話だ。
三人は互いにちらちらアイコンタクトを取り合うが……目の前の俺を『彼』の知り合いかもと判断した一人が、そっとスマホを取り出した。
「えっと……たしか……この辺の、あぁ、ここ。前に一回泊まり行ったことあんだよ。アイツの誕生祝いやった日にさぁ。俺まだ飲めねぇから、介抱してやって……」
そう言って、スマホの地図アプリ画面を俺に向けた。
「えっと……場所は……京成関屋駅近く、か……あぁ、どうもありがとう」
「「「えっ? えっ? えっ?」」」
俺は頭に住所と建物をインプットし、彼らに礼を告げ、次の講義教室へと一人移動した。
『何なんだあいつ⁉︎』と言いたげな彼らの視線を背中に受けながら……。
「社長に相談してみるか。もしかしたら『ワープルーム』の管轄物件かもしれないしなぁ……」
俺はぽつりと呟きながら、階段をゆっくりと下りていった。




