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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
2ー5 

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110/166

おやすみ、またな。

 テーブルの上に所狭しと並んでいた中華皿達は、全部見事に空っぽになった。


「あぁ、食った食ったーー! もう食えなーーい!」


 満腹になったと同時に、銀髪のお兄さんは長い手足をさらに伸ばしてお行儀悪く、ゴロリと今度はフローリングに寝転んだ。


「ご馳走様でしたーー!」


 俺は手を合わせて、口福の余韻を噛み締める。


 はぁ……幸せだぁ……。


 美味い食い物で胃も心も満たされ、パンパンになった腹をさすさす撫でていると、テーブル向かいの社長が(おもむろ)に口を開いた。


「おい、ノキ! お前から自己紹介しろ。今晩はハルにここ泊めてもらうんだから、粗相するなよ」


 社長に促され、『ノキさん』は横たわっていた身体を慌てて起こして正座し、キリッとした顔でこちらを向く。

俺も彼につられて、姿勢を正した。


「こほん! あらためて、俺は軒原(のきはら) 威武(いぶ)って言います。年は22歳。動画配信チャンネルやってるんだけど……えっと、ハル君は……俺のこと知らないみたいだね」


 自分で言いながら、ノキさんはしょんぼり顔になってしまった……なんか、すんません。


「ははっ。お前のマイナーチャンネルなんて俺も見てねぇよ。さっさとバズらせて、滞納してる家賃払え、こら!」

「そ、そんな簡単に言わんでくださいよぉ! 俺だってこれでも一部で有名になり始めてて……ちょいちょい再生回数伸ばしてるんすよ? でも、ちょっとバズったくらいじゃ、懐が全っ然潤わないんですもーーん‼︎」


 俺はよく知らないが、動画配信って広告収入が柱なんだろう?

何万回再生されると、『やっと収益になった実感がある!』って言えるんだ?


 ただ、今の会話で分かったことが……。


 ちらちらっと社長とノキハラさんに視線を走らせる。

彼が社長から冷遇されている理由……金か。

 

 慈善事業じゃなく、あくまでビジネス。

価値とそれに見合う対価は需要と供給の天秤で成り立つ。

……俺は社長にとって『使える』と思われてるピースなのかもしれない……不本意だけど。


「上手くいかねぇなら、どこかで方向転換とかテコ入れとか、なんかしろよ! じゃなきゃいつまで経っても底辺チューバーのままだぞ?」

「底辺って言わんで! めちゃめちゃ凹むから! メンタル豆腐なんだから!」


 ノキさんは両手で顔を覆いながら、身体をぶんぶん左右に振っている。


 ………………


「そういや……ノキさんのチャンネルって、何系なんです?」


 素朴な疑問を呟くと、俺が興味を示したと勘違いした彼が、ぱあっと目を輝かせて身を乗り出してきた!


「俺さぁ『のっきんハラハラ⭐︎ライブチャンネル』をやってて……」


 ネーミング、クソだせぇな、おい!


「『事故物件住んで、祓ってみた』シリーズが結構、人気でさ〜〜」


 俺は間違いなくその動画、スルーするわ。


「本物を配信してるから『見たら呪われる』って噂が広まっちゃって……」

「有害で危険なコンテンツ配信扱いされて、垢BANくらったことあるもんな」


 呆れながら社長が補足する。


「そうなんすよ! なんとか復旧させたけど、またBANされたら……と思うとびびっちゃって、モザイクばっかの何が何だかわけわからん動画になっちゃうこともあって……」


 そうして閲覧者が激減して、過疎(かそ)ってるわけか。


 ………………


 以前、『ワープルーム』に訪れる客は、①貧乏人 ②メンヘラ ③修行クソ野郎 だけだと社長は言った。

修行……つまりノキさんは『(はら)える人』なんでしょ?


 ………………


 ねぇ、だったら別な収益源を探しませんか?

ゴーストスイーパーのが、がっぽり儲かりそうじゃありません⁉︎




 カチャッ!


 その時、洗面所の方から硬いモノが重なり鳴る音がした。

ガラス? ……いや食器か。


 見に行くと、洗ったように綺麗な皿達が洗面台の上に重ねて置いてあった。

だが、彼女の姿は何処にも無い。


「……セバメなりの恥じらいがあるからな」

「ん? あぁ」


 社長の言葉に思わず納得する。

男女問わず、口からニンニク臭プンプンさせていたら……魅力は半減しがちだ。

見目麗しいなら、尚更イメージダウンは避けられないもんな。

そんな奥ゆかしい所も……素敵だーーっ‼︎




 かちゃかちゃ……


 全ての食器を集め、玄関ドアの外に置く。

そのうちさっきの出前マッチョさんが回収に来てくれるだろう。


「さてと、じゃっ! あとは二人でどうにかしろ。俺は帰る!」


 社長はすくっと立ち上がり、さっさとピカピカの高級革靴を履き出した。


「ちょ、ちょっと社長⁉︎」

「今日はありがとうございました! お陰で助かりました、命が! 編集して『この事故物件はマジでやばくて死ぬかと思った』シリーズで後日アップしますので……」

「せいぜい稼いでみろよ」


 社長がニヤッと笑い、嫌味なのか、激励なのかどっちとも取れる言葉を返す。


 ………………


 おい、ノキさん!

酷い目にあってるはずなのにシリーズもの展開してるなんて……全然諦めねぇな! 

豆腐よりも蒟蒻(こんにゃく)メンタルなんじゃねぇ?


「待て待て、社長! いきなりノキさん泊めろって言われたって……」

「昼間に渡したアレあんだろ?」

「アレ? ……あぁ! あの寝袋か!」


 そういえば、ソラさんの部屋で使わなかったから、そのまま持ち帰って来ていた。


「じゃ、仲良くやれよ。おやすみ、またな」


 そう言って社長は振り返りもせずにさっさと帰って行った。


 パタン……


 ドアが閉まり、俺達は改めて顔を見合わせた。


「とりあえず……ノキさん、先に風呂どうぞ。タオルは適当に使ってください」

「あ、ありがとう、ハル君!」


 パタパタパタ……バタン!


 洗面所に彼の姿が消えると『俺にとって人生初のお泊まり会だなぁ……』と、またどうでもいいことをこの頭は思い浮かべた。

それだけ、疲れてるっていうか……もはやイカれてるってことだろな……。


 そして、今日という長い長い一日がようやく静かに更けようと……


  ガチャ!


「ねぇねぇ、ハル君! 風呂出たら、俺の動画見ようよ〜〜‼︎」

「……いや、寝ろよーーっ‼︎」


 前言撤回。

ぎゃあぎゃあと騒がしく、竹ノ塚の夜は更けてゆくのだった……。

第二部はここで完結です。

お読み頂きありがとうございました。



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