コマンドウィンドウ
「元気でな……」
メーさんとお別れした俺は、リュックからあのポエム日記、じゃなかった攻略日記を取り出した。
地図が書かれたページを開く。
「うん、変わりは無さそうだな」
日記を持ち上げ、そこから視線を横にずらし、景色を見遣る。
地図と同じ光景が目の前に広がっている……この丘は本当に見晴らしがいい。
地図に書かれていない部分、遠くに見える山脈の辺りより先が日記の主、会社員さんのまだ踏み進んでいなかった領域、か。
で、ここからでも少し見える……山脈裏に分かりやすい禍々しい雰囲気のTHE・魔王城。
空の色から全然違って、『ココだよ!』って主張してるぞ。
結局、会社員さんの日記は5月20日で記録が止まっていた。
5月16日以降、ハイテンションな恋のポエム要素がだんだんと強くなっていき、読み難くて閉じてしまったが……気になる点も多かったので、再度開き、読み直しておいた。
日記の最後はこう締められていた。
『5月20日(月)
日記は今日で終わりにする。
愛するミーフィと産まれてくる僕らの子供の為に、異世界でこれから共に生きていく。』
結ばれて良かったな。
いろいろ恋のお悩み、日記に書き込んでたもんね。
でも……。
……まるで、遺書だ。
「ふーーっ、では、と・り・あ・え・ずーー……」
まずは……
右肩を叩く、っと。
ブンッ!
ステータス画面が目の前にパッと開かれる。
『LV.99 冒険初心者』
初心者なのに無双チートだな、おい。
綾瀬(仮)さんがこの世界の創造主……その人の魂が創り出した異世界、か……。
「えっと魔法は……」
会社員さんはやってなかったみたいだけど、魔法の錬成は出来るのか?
便利機能はどんどん活用せねば‼︎
ステータス画面から操作し、コマンドウィンドウを片っ端からバンバン開けていく!
何がどうなってるか、まず把握するのはゲームの基本だ。
その時、聞き慣れた音が鳴り響く!
ズボンの中のスマホのアラーム。
この世界に渡って来る直前、設定しておいたのだ。
ピッ
アラームを止める。
「なるほど、こいつはちょっとやべえな……」
想像以上だ……時間の流れが大きく違っている。
スマホのアラームは一分後に鳴るようセットしておいた。
つまり、この世界での一時間が、現実ではたったの一分なのだ。
逆を言えば、現実での一日が、異世界では約ニヶ月、現実の一年が…ここでは約60年経過する。
初めて日記を読んだ時、『純愛かと思いきや、出会って数日で、もうやる事やってんじゃん! おいおい、手早すぎ‼︎』と会社員さんにドン引きしたなぁ……。ごめんよ。
「さてと……」
コマンドウィンドウを閉じて、山脈の方を向く。
「絶対、最速で攻略してやるぞーー‼︎」
俺の気合の大声が山間にこだまする。
そして目指すは、平和なマンション生活だーー‼︎




