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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
2ー5 

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108/166

これ。

「で、ハル。病院は間に合ったか? 怪我の具合はどうだ? 金は足りたか?」


 土間玄関に置かれたベンチに座り、背中から取り出したラーメン屋のメニュー表を眺めながら聞いてくる。


「……え、えっと……」


 思ったよりも100倍優しい社長の言葉よりも、たった今、放り投げられた『これ』と呼ばれたものに俺の視線は釘付けとなっていた。


 リノベのせいか、この物件は玄関土間が広々とした設計になっている。

六畳くらいはありそう。

その無機質コンクリートの三和土(たたき)へと無造作に放り投げられ、横たわった『これ』……口から泡を吹き、白目を()いたままの人間……の男だ。


 大家の山吹さんといい、まさか一日に二回も気絶した人を見るとは……。


 ………………


 あれ? ピ、ピクリともしないけど……?


 い、生きてるよな……?


 じーーっと目を凝らすと、浅い呼吸で(かす)かに身体が上下しているのが見えた……よ、良かった!


「し、社長! こ、こ、この人は……?」

「ん? あぁこいつは、なぁ……お〜い、起きろ! ラーメンの出前頼むけど、お前は何がいい?」


 いやいやいや、起こす理由が……何か違う!


 社長が出前のメニュー表で突っついて揺すっているが、意識を取り戻す様子はない。

ねぇ、なんか可哀想だから、ツンツンするのやめてあげてーー!


「そうそう、こいつがさっきの電話の主だ」


 うん、でしょうね。


「貸した物件でプチトラブルがあってな」


 ……とりあえず死亡フラグは回避できたんですね。


「③修行クソ野郎であり①貧乏人な②メンヘラ男だ」


 わぉ! トリプルコンボな借り主⁉︎

俺は①なだけ……比較するのも恐れ多いぜっ!

社長の言い方にも、なんだか(トゲ)があるな。


 ………………


 ん?


「ちょっ、ちょっと待って社長……さっき『これ頼む』って……聞こえた気がするんですけど……言った?」

「あぁ、言った、言った! こいつの住む処はまた明日探すから、とりあえず今日はここ泊めてやってくれ」


 ………………


「……はい」


 『いいえ』という回答権はこの場に存在致しません。

ねぇ、泣いてもいいですか?


「あ、さっき借りたお金は使わなかったんでお返しします。ありがとうございました」

「ん? あぁ、彼女から慰謝料でも貰ったか?」

「えっ⁉︎ えぇ、まぁ……」


 俺の負傷具合は詳しく説明していないのに、やたらと察しが良い。


 ……社長はソラさんの事情、どこまで知っていたんだろう?

彼女が一体何をしたのか……とか。


 パタン!


 急に手に持っていたメニュー表を勢いよく閉じて、裏面を一通り眺めた社長が口を開く。


「よっし! とりあえず、もう夜の9時近いから……あっさり中華そばと焼豚炒飯に餃子もつけよう。お前らも同じでいいか?」

「思ったより、ガッツリいきますね。小腹じゃなかったんすか?」

「まぁ、そこそこ動きゃ腹も減るからな」


  ………………


 ①出る物件で何があったかは……あえて聞かないでおこう、うん、それがいい。

世の中、知らない方が幸せなことだらけだからな。


 ガチャ!


「はいは〜い! 私はこってり背脂マシマシ豚骨ラーメンにライス大盛り、トッピングで明太子がいいなぁ!」

「⁉︎」

「よぉ、遅かったな、セバメ」


 可愛い声のする方を振り返ると、ツナギ服からいつものメイド服に戻った美少女事務員ちゃんが、挙手をしながらドアを開け入ってきた。

……ここの洗面所のドアを開けて。


 ………………


 異世界の往来は洗面台の鏡で永年フリーパスって訳ですかい?


 セバメさんがオーダーしたヘビー級ラーメン、彼女の異世界にとって膨大なエネルギー源になりそうだなぁ、とぼんやり思ったのだった……。

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