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オススメ事故物件、今ならサービスで異世界ワープお付けします。  作者: 枝久
2ー5 

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のそのそと帰宅

 トンッ……トンッ……トンッ……


 (なまり)のように重い重い足をようやく一段一段持ち上げて、不動産会社『ワープルーム』のビル、狭い鉄筋コンクリートの階段をのそのそと上がる。

 

 このビルの最上階の四階は、居住スペースとして内装がリノベーションされていた。

下手なモデルルームよりも超広くて綺麗!

ここを格安で貸してもらえるなんて……やっぱり、バッチリ裏があったんだな、社長め。


 派遣社員って……まだバイトに籍が残っているし、今月のシフトも消化し終えていない……Wワークは可能ですか?

…気が重いけど、明日改めて聞いてみなきゃ。


 戻りが遅くなると予測していたのか、会社の自動ドア前シャッターはしっかりと閉められていた。

今日はもう、社長は直帰かな?


 ……果たして……だ、大丈夫だったんだろうか?


 ………………


 聞くのが超怖ぇ‼︎ 

いや、むしろ聞きたく無いっ‼︎



 ガチャ……


「ふぅ……よっこいしょっと……ただいま」


 誰もいない殺風景な部屋に帰宅を告げる。

インテリアと呼べるのは、テーブルの上に一つだけ置いてある写真立てくらいか。


 本当なら部屋に辿り着いた瞬間、速攻でお布団ダイブしたかった……。

だが、傷ついた身体を(いた)わるよう、よちよちと四つ這いになってから、コロンと右向きに寝転んだ。


 チラリと布団隣の目覚まし時計を見遣る。

時計は……20:35、か。


 ……つ……疲れたぁぁぁぁぁぁっ……。


 もはや、手洗いうがいをする気力など微塵(みじん)も残っていない。


「はぁ……」


 呼吸の一手順のように溜息を吐きながら、ゴロリと仰向けになり、ぼんやりと天井を見上げる。

……ん? 

なんか天井の模様が段々と……人の顔に見えてた⁉︎


「ひっ‼︎」


 パ、パレイドリア現象だと頭の片隅では分かっているのに……怖くなって、またすぐに横向きに戻り、ばさっと布団を被った。

こ、怖くない、怖くない……。


 掛け布団に包まれながら、さっきの診察室でのやりとりを思い返す。




 診断結果は……左肋骨の一本にヒビが入っただけだった。


 そう……たった一本。


 しかも、ヒビって……。


 ………………


「え? ちょっと先生……俺、めっちゃくちゃ痛いのに……これで骨、折れてないんですか⁉︎」

「いや、ヒビも立派な骨折だよ?」

「いや、あの……そうじゃなくって……なんか、こう……もっとバッキバキのグシャグシャに折れているのを想像していたもので……」

「レントゲンはこれね。これだけだと骨折線がちょっと分かりにくいかな? 内臓損傷も心配だったけどMRIの結果はこれ、こっちの方が分かりやすいかな? ほら、ここ」


 マウスをクリックし、モノクロな画面を拡大して見せてくれた。


「傷めていると、ここの骨の部分、白く写って見えるでしょ?」


 先生の指し示す肋骨の部分だけが白っぽく見えた。

それ以外の他の部位、俺の身体中どこにも異常は見当たらなかった。


 ………………


 なんか……ぎゃーー痛い痛い痛い! ……ってやたら大騒ぎして……どうもすみませんでした!

そういや、俺……人生で一度も骨折したことなかったわ。

銃弾を喰らったことも、脇腹をお姉さんに蹴り飛ばされたことも、顔面をボッコボコに殴られたこともない。

全部、初体験づくし!


 一つ分かったことは……思ったよりも俺の身体は頑丈だったってこと、か。


 しかし……骨にヒビ入っただけで、こんなに痛えんだな……。

たしかに柱の角に足の小指ちょっとぶつけても死ぬ程痛いもんな。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……」


 今日だけで色々あり過ぎて……溜息しか出て来ねぇよ……。


 一瞬、ソラさんのクローゼットの映像が頭を(よぎ)ったが……考えはとっ散らかって、まるでまとまらない。

 

 ん? 

あぁ……そうか、今まで気を張ってたんだな、俺。


 ようやく帰宅し、ほっと安堵したことで、身体と脳味噌は副交感神経優位にぱちっと切り替わり……急激な睡魔に襲われた。


 うっわ……ね、眠っ……。


 ………………





 コンコンッ! ガチャガチャ、ガチャッ!


「おう、お疲れハル。帰ってたか」

「⁉︎」


 半分、寝落ちかけていた俺が反応する間も無く、ドアがバンッと開かれ、さっき別れた社長が玄関に立っていた。


 ………………


 え? 

何で、鍵開けて入ってこれるの?

マスターキーとか? 

プライバシー侵害上等ですかい?

ま、まぁ……この部屋は社長の持ち物だから……当然か?


 俺もだんだんと色んなことに驚かなくなりつつある。

あぁ、人間の適応能力って素晴らしく、そして、同時に恐ろしいものだ。


「なぁなぁ、小腹減らねぇか? なんか出前取ろうぜ! ラーメン食いてぇな! あ、あとハル。ちょっとこれ頼むわ」

「?」


 そう言って、社長は『何か』を後ろから引き摺り出して、俺の方へと放り投げた。

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