トラブル発生
「うん、うん、うん、え? ……無理? なんだ? 希望通りだっただろ? ん? 数が多過ぎる? そりゃそうだ、うちの会社管轄物件の中でも一、ニを争うルームメイト数だからな。……わかったわかった。今、助けをそっちに送るから、まぁ……死なないようにとりあえず頑張れ」
プツッ……。
………………
つ、通話内容が不穏すぎる‼︎
特に最後の一言……激励のつもりなんだろうけど、俺の耳には死亡フラグに聞こえたぞ⁉︎
立てちゃダメだろ、おい‼︎
社長は素早くスマホを操作して、どこかへと電話をかける。
「あぁ、もしもし、暇だろ? ちょっと頼みが……そうそう、あの物件だ。じゃあよろしくな」
プツッ……。
くるっと振り向いた社長がいつも通りのテンションで声を掛けてくる。
「悪い、悪い。同居者の多いルームシェア物件でちょっとトラブルあってな。俺も行ってくるわ」
………………
それは……ちょっとどころの話ではないだろう⁉︎
ルームシェア物件って……おいおいおい、アレじゃん‼︎ ①出る物件‼︎
凶悪殺人事件が発生した物件は①確定だろう⁉︎
亡霊ルームメイト達が、うっじゃうじゃ⁇
ひぃぃぃっ! 怖すぎるっ‼︎
「あ、ちなみにトラブルの内容ってのが、最初に風呂場の排水口から手が……」
「いや、いいっ! 言わなくていいからっ‼︎」
「そうか? まぁいいや。おいハル、お前、通学定期券持ってんだろ? それでビルまで帰って来い。ここから小菅駅まで歩いて10分……くらいだ。じゃあな。川志田さんも失礼するよ」
「あ、色々とありがとうございました!」
ソラさんは深々と社長にお辞儀をした。
「あ! 社長! す、すいません!」
「ん? 何だ⁇」
「……病院代、貸して頂けませんか?」
「ったく、しょうがねぇな。ほらよ」
黒い某高級ブランド財布から五万円をがさっと取り出して、俺の目の前に突き出す。
いや、こんなにかからないでしょ⁉︎
……え? そんな金額がかかりそうなほど重体に見えるの、俺の身体?
「じゃあな」
パタンッ……。
社長は静かに部屋を出て行った。
駅まで10分……か。
不動産あるある『どんな速度で歩いたらこの距離を10分で移動出来るんだ、超人だろ⁉︎』だな。
たぶん早くても20分、今の俺の足じゃ30分かかるかも……。
「自費じゃなけりゃ、五万もかかんないでしょうよ。ハル、学生さんだっけ? 保険は何? 社保? 国保?」
亡くなったばあちゃんから『保険には入っとかんと、身体壊したとき困るぞ。そこはケチるな』と言われていたからな。
言いつけ……守っておいて良かった。
「えぇ、国保で……ってあれ? そういえばソラさん、会社員さんだって聞いたけど、一体何のお仕事なんですか?」
「あれ? 言ってなかったっけ? 今はまだ専攻研修中だから『会社員』の項目で賃貸契約書類には丸しといたんだけど……」
「専攻研修?」
「そう。私、医者なのよ」
「……え?」
「研修先の病院が今ゴタゴタしちゃっているから、こんな中途半端な時期に別な病院に移動なのよ。本当、嫌んなっちゃう」
けらけらと笑うソラさん。
………………
俺のことをバイオレンスに殴りつけた彼女……何科の医師なの?
……ねぇ俺の傷、診てもらえませんでしょうか?




