さようなら
昨日、洗面台の鏡にかけておいたタオルは床に落ちていた。
メーさんが異世界から渡って来た衝撃で飛んだんだな。
……タオルかけた意味ないじゃん!
スマホを操作し、ズボンのポケットに捩じ込む。
洗面台の鏡の前に立つ俺と小脇に抱えられたメーさん。
あーー鏡に映った俺の顔……ちょっと緊張してるな。
寝不足のクマもくっきり、社長のこと言えない酷ぇ顔だ。
「さてさて、鏡っと……」
パーカーのポケットに手を突っ込み身体を少し捻った瞬間……また、カッと眩い光が包み込む!
「えっ?」
………………
徐々に光が落ち着いていき、この前と同じ丸太小屋に俺らは立っていた。
「あーー……メーさん、そういえばピカピカだったね」
鏡いらず。
「ぷるんぷーー!」
何だか誇らしげな様子、可愛い。
「はぁ、のどかだなぁ……」
窓を開け、外を眺める。
爽やかな風が通り抜け、青空と遠くまで続く緑の草原が目を癒してくれる。
……この異世界には現実世界に帰る気持ちを失わせる力が働いてるのかもしれない……なんて、考えすぎか?
冒険者の家は小高い丘の上。
某活発な少女がブランコ乗ったり、ヤギと走り回っていそうな斜面だ。
眼下には村が広がり、遠くには雪の山脈が見える。
ドアを開け、一歩、草を踏みしめる。
本当に異世界なんだな……。
まだ実感が湧かない、夢の中にいるよう……。
重力が少し弱いのか?
身体が軽い……動きやすいなぁ。
「ぷるーーぷるるん!」
「お帰りなさい、メーさん」
そっとメーさんを地面に下ろし、頭を撫でる。
ん? 頭なのか身体なのか、境目がよくわからん。
「そして、さよならだよ、メーさん」
俺はしゃがみ込み、お別れを告げる。
たった一晩だけだったけど、癒しをありがとう。
最初、全力で壁にぶん投げてごめんね。
「ぷる?」
不思議そうに首を傾げるように揺れ、俺を見る。
……首も目も無いが、な。
「ぷるーー!」
そしてぷるんぷるんと跳ねながら、メーさんは遠くへと跳ね去っていった……。
「さようなら」




