某所団地に住まうもの
先日、20年以上住んでいた多摩の某団地から引っ越すことになったので、
そこで見たり聞いたりした話をいくつか。
所謂「都市伝説」の寄せ集めであり、原因は最後まで不明、事件は未解決のまま。
たぶん、まだそこにいる。
美容師をしている地元の後輩Aが、こんな話をしてくれた。
8月ある日の開店早々、常連であるBさんが予約も無しに飛び込んできて、
「スポーツ刈りにしてほしい」と言う。
いつもとはあまりにかけ離れたオーダーに驚き、何度か念を押したが、
泣き腫らしたであろう真っ赤な目で「いいから早くしてほしい」と答えるばかり。
尋常では無い様子だし、それなりに気心のしれた間柄だったので、
「失恋でもしたのか」と聞いたところ、「実はこんなことがあった」と
事情を教えてくれたそうだ。
昨日、Bさんは仕事が忙しくて、帰りが終電になってしまった。
いつもだったら、惣菜を買うためにスーパーマーケットに寄ったり、
それも面倒くさかったらファミリーレストランに寄ったりで、
基本、大通り経由で帰宅するのだが、その日はすでに夕飯を済ませていたため、
最短のルートで帰ることにした。
その場合、団地を突っ切ることになる。
もちろん、ちゃんと街灯も整備されているし、深夜とはいえ、各棟の窓には
ちらほら明かりが見えるので、特に怖いことはなかった。
そのまま何事もなく、団地の外れの公園に差し掛かった。
そこは、木々が生い茂り、昼間でさえ薄暗い場所である。
熱帯低気圧が近づいているとかで、生温かく湿った風がビュウビュウと枝葉を
揺らしている。
「痴漢に注意」の朽ちかけた看板を見て、急に心細くなったBさんは足を止め、
無意識のうちにスマートフォンの画面を開いたそうだ。
その途端、何かが音もなくBさんの頭に覆いかぶさってきた。
反射的に身をかがめ、スマートフォンを持っていない右手を伸ばすと、
なんだかふかふかした手触りがあったという。
夢中ではたき落そうとするが、それは髪の毛にしがみついて
なかなか離れようとしない。
それでもなんとか引きはがすと、Bさんは後ろも見ずに、
家までの道のりを全速力で駆け抜けた。
帰宅後、とにかく気持ちが悪かったので、すぐにシャワーを浴びることにした。
そこで気が付いた。
櫛が通らないほど髪が絡まっており、どうやっても解けてくれないのだ。
恐怖と混乱と悔しさで、その晩は眠れなかったのだという。
「本当です、嘘じゃないんですよ…」
Bさんは、泣きそうになりながら、そうAに伝えたそうだ。
現実味が無い話なので、とても信じてもらえないと思ったのだろう。
だが、Aは疑いもしなかったと言う。
「だってね、よく見ると後頭部一帯の髪の毛がそれぞれ隣の髪の毛と固結びに
なっていたんですよ。
根元からだいたい4・5cmくらいのところで、ずらっと結び目が並んでいるわけ。
ビジュアル的に表すなら、こう、
XXXXXXXXXXXXXXX
って感じ、わかります?
自分で結ぶのはまず不可能。仮に誰かの手を借りたとしても、どれくらい
時間がかかるか見当もつかない」
一本一本ときほぐすのはとても無理。
だが、スポーツ刈りはさすがに思い切りが良すぎるだろうと判断したAは、
結び目より上の3cm程度を残し、どうにかベリーショートにまとめたそうだ。
「いやあ、今回のは相当な力業でしたよ。それに、猛暑が続いていたので、
短いのも悪くないですよってね」
幸いなことに、Bさんも最後には笑顔で帰って行ったという。
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「もちろん、この団地ってのは吉田先輩が住んでいる団地のことです。
絶対に何かいますよ、そこ」
Aはうれしそうに笑った。
「関係がありそうな妖怪で、野衾とか髪切とかは聞いたことがあるけど、
髪結ってのは聞いたことがないなあ」
私がそう答えると、Aは、
「ノブスマ?カミキリ?鬼太郎にそんなの出てきましたっけ」
などと言いながら、スマートフォンで検索を始めた。
「ふーん。野衾も髪切も、今でいうと都心に出た妖怪なんですね。
ここから位置的に近いといえば近いですかね?」
「都心が明るくなりすぎたから、郊外に流れてきたとか?」
「脅かすことが目的として、覆いかぶさるとか、髪を切るなら
何となく理解できるんですけど、わざわざ結ぶってのが偏執的ですよね」
「由来も縁起も分からないのに、そんな職人芸を見せつけられても、意図が
伝わらないから困るよ」
「Bさんは常識的ないい人なので、恨みつらみで祟られたり呪われたりはしないと思います!」
「そうすると無差別の愉快犯か」
「何がしたいんでしょうねえ…」
「何がしたいんだろうなあ…」
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Aから聞いた話は初耳だったが、この団地には、どうも怪しげなものが居るようだ。
次は、私自身が体験した話を一つ。
季節は変わって冬のことである。
当時、業務上の一大イベントを抱えていた私は、「残業、残業、また残業!」の
日々を過ごしていた。
月月火水木金金、もちろん、休みも満足に取れたものじゃない。
幸か不幸か自転車通勤をしていたので、終電も関係ない。
ある日、区切りのいいところまでと思って頑張って仕事をしていたら、
午前0時を回ってしまった。
(もう帰らないと、明日の朝が厳しいぞ…)
朦朧とした頭で、のろのろと身支度をすませると、ようやく家路についた。
さてさて、急ぐ気力も無く、ゆっくり30分ほど自転車を走らせると、
件の団地が見えてきた。
自室のある○号棟の角を曲ると、入り口まであと30~40mといったところ、
そこで私は反射的にブレーキをかけた。
毎日目にしているはずの光景の中に、ものすごい違和感が存在していたからだ。
その原因は、スーツを着た男性だった。
階段灯に照らしだされたそいつが、その、何と言うか、
べらぼうにアクロバティックに動いているのだ。
その様子を具体的に説明するとこうだ。
まず、ジャンプで1階と2階の間の踊り場の手すりに飛びつき、
そのまま足を引き寄せて壁を蹴り、その勢いで空中後方一回転をきめて着地。
この動きを、体操選手のように鮮やかに、かつ機械のように休み無く
繰り返している。
着地の際には、「ドン!」と表現するには大きすぎるが、
「トン…」よりは少し大きいような音を立てる。
深夜、たまに車の音が聞こえるか聞こえないかくらいの静寂の中、
それだけがリズミカルに響いてくるものだから、
なんだか、催眠術にかかったようにぼおっと見とれてしまった。
しばらくして、ふと気が付いた。
そいつは、よりにもよって私の部屋へ続く階段の踊り場を使っているのだ。
このまま帰宅しようとすると、この一連の行為を邪魔することになってしまう。
(それはマズいんじゃないか?)
と直感的に思った。
さりとて、このまま真冬の寒さにさらされ続けるのは体に良くない。
この時、急に閃いたことがあった。
この時間になると、音が御近所の迷惑になるので、晩飯を作ることも憚られる。
近所のコンビニで弁当を買って来たほうがいいのではないだろうか、と。
…きっと、とても疲れていたのだろう。
根拠も無いのになぜかそれが「途方もない名案」だと感じ、自転車の首を返して
そのままコンビニに向かった。
弁当を買って戻ってくると、その男はいなくなっていた。
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オチもなくて申し訳ないが、この話は「これでおしまい」となる。
後日譚なども存在しない。
思い返してみると、明らかに異常事態なのだが、遭遇した段階では特に怖いという気持ちはなかった。
それは、その怪異がスーツを着ていたことが大きいと思う。
そのせいで、相手を「常識的な人間」として記号的に認識してしまったため、
恐怖が薄れたように感じたのだ。
人を脅かすことが目的なのであれば、もっとおどろおどろしい恰好で出現するべきではなかったか。
或いは、純粋に遊んでいたのだろうか?
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その他、人の姿をしたものが怪異を為したケースとして、こんな話を耳にした。
近所に住むCさんは、最寄りのスーパーマーケットへ買い物に出かける際、
いつも団地構内の細い道を通ることにしている。
他と比べて車の交通量が少なく、抜け道として快適なのだそうだ。
ある昼下がり、Cさんは3歳になる娘さんをつれて買い物に出かけ、やはりその道を歩いていた。
朝は散歩をするお年寄りや通学中の児童生徒、夕方は仕事終わりの人々で
それなりに混み合う道なのだが、真昼は逆にすれ違う人も無いほど閑散としている。
そんな折、ふと視界の端に引っかかるものがあった。
30mほど離れた団地の壁に目をやると、ちょうど3階と4階の間くらいに、
迷彩服を着こんだ人影が、頭を下側にしてヤモリのように張り付いていた。
(自衛隊の訓練?こんなところで?それとも何?泥棒!?)
Cさんは、その場で携帯電話を使って警察に通報した方がいいかとも思ったが、
距離もあまり無く、何より幼い娘を連れていたため、目を付けられて
追いかけられでもしたらどうしようと心配になった。
なので、気付かないフリをして、まずはその場から離れることにした。
(どうか、娘があれに気づいて大声とか上げませんように…)
ただ、その思いは杞憂だった。
間もなくその人影は、Cさん達に興味を持つこともなく、
U字を描いて壁をヒタヒタと這い上がると、屋上へと消えていったからだ。
その明らかに人間離れをした動きをみて、Cさんは逆に落ち着いたという。
(なーんだ、風にあおられた洗濯物か何かを見間違えたかな?)
そうして無事家に帰り着いたとたん、娘さんが興奮した様子で話しかけてきた。
「おかあさん、さっきだんちのかべに、なんかね、くろくてね、
もじゃもじゃのいぬみたいなのがいた!
だだだだだーってかべをのぼっていったよ!なにあれ?おさるさん!?」
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Cさんは言う、
「あの時もし、娘が『かべにへんなひとがいた』とでもいったら、即座に警察を
呼んでいたでしょう。
ただ、自分の見たものと娘の見たものがあまりに食い違っていたので、どうにも
混乱してしまって…
さっきも言ったみたいに、自分にはそれが人間かどうか確信が持てなかったし、
娘は人間ではなかったと言う。
どうにも現実味の無い出来事だったので、茶飲み話くらいにしかできませんよね。
…でも、結局なんだったんだろう、あれ?」
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Cさん親子が「あれ」を目撃した△号棟については、二つの怪談が伝わっている。
「あれ」との関係性も相まって、なかなかに興味深い内容なので、ここに二話とも記すことにする。
まずは、△号棟の4階に住むDさんが遭遇した話。
当時、Dさんは、高校生の息子さんのために毎朝お弁当を作っていた。
その頃、東京都の公立高校には学区制が残っており、その影響で息子さんは
片道1時間以上かかる高校に通っていた。
つまり、Dさんはかなり早起きをする必要があったわけだ。
そうすると、どうしても日中に眠くなる。
なので、夕方の買い物に出かける前の午後2時頃から4時頃まで、昼寝をする習慣がついてしまったという。
その日、いつものようにリビングのソファーで昼寝をしていたDさんは、
目を覚ますと時計を見た。
(まだ3時じゃん…あと1時間は寝られる…)
その時、近くで何かが動く気配がした。
この時間、家には自分のほかに誰もいないはず、そう思って身を起そうとした時、
ベランダにつながる掃き出し窓、そのカーテン越しに
大きな生き物の影が映っていることに気が付いた。
人間と同じぐらいか、もしかしたらそれより大きいかもしれない。
それは、どうやら四足獣のようだ。
ときどき「フッフッ」とか「グッフ」といったくぐもった息遣いが伝わってくる。
北海道に住んでいたことがあるDさんは、そのシルエットからまっさきにヒグマを想起したという。
ヒグマならば、ガラス窓など打ち破るのはたやすい。
とにかく刺激しないよう、Dさんはひたすら息を潜めていた。
どれくらい時間が経っただろう。
そのシルエットが二足で立ち上がったように見えた瞬間、低い衝撃音がした。
どうやら、ベランダの手すりを乗り越えて出て行ったようだ。影も形も見えない。
(助かった…でも、まだ近くにいるかもしれない…)
とりあえず一安心はしたが、どうにも動けない状況下。
そのうち、だんだんと眠くなってきたDさんは、二度寝に突入してしまった。
再び目を覚まして時計に目をやれば、いつもどおりの午後4時だった。
外で子供たちが無邪気に遊ぶ声を耳にして、Dさんは、安全な日常に戻ったことを改めて確信したという。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
Dさんは、あれは夢ではなかったと言う。
「ほら、夢だったら『夢を見ていたなー』って、後になればはっきり分かる
じゃないですか。
例えば、あやふやな部分があったり、過去と現在のことが入り混じっていたり。
でも、細かいところまではっきり憶えているし、もちろん現実と食い違うような
こともなかった。
まあ、何を言っても、『夢じゃなかった』って証明にはならないんですけどね。
あと、本州にはヒグマはいないですしね!」
ちなみに、その日もちゃんと買い物には出かけたそうだ。剛毅なことではある。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
続いて、△号棟に40年以上住んでいるEさんから聞いた話。
これは昭和に起きた事件で、時系列的には今回の話の中で一番古いものに当たる。
1980年代のある日の夕方、Eさんが2階の我が家でテレビを見ていると、上階から何やら音がする。
大勢でドンチャン騒ぎをしているような大きな音だ。
3階には老夫婦(以下Fさん夫婦)が2人だけで住んでいたため、余所で暮らしている息子夫婦が帰ってきたのかなとEさんは思った。
それにしても賑やか、いや、それを通り越して床が抜けそうな勢いである。
もとよりFさん達ともよく知った間柄なので、注意とまではいかないまでも、
様子を見に行ってみようかと思っていた矢先、Eさんの部屋の呼び鈴が鳴った。
玄関まで出てみると、それは1階に住んでいるGさんだった。
「何かすごい音がするから心配になって見にきたけど、大丈夫?」
1階に住むGさんは、2階のEさんの部屋で騒いでいると感じたらしい。
Gさんを玄関に招き入れると、すぐに原因が上の階だと気づいてくれたようだった。
「ごめんなさいね。お宅が騒いでいるのかと思ったけど、3階のFさんのところ
だったのね」
「いつもはとても静かなのだけど、いったいどうしたんでしょう?」
「それにしても、3階の音が1階まで響くなんて、普通は考えられないわよね?
何かおかしくない?」
Eさんは、とりあえずGさんと一緒に3階のFさん宅へ向かった。
すると、Fさん夫婦の家のドアは開けっ放しになっており、やはり上の階から
バカ騒ぎの音がする。
Eさん達がさらに階段を登っていくと、4階と5階の踊り場のあたりに、
Fさん夫婦を含む3階から上の住人たちが集まっていた。
皆の話を聞くに、どうやら不良学生か何かが屋上で宴会をしているらしいとのことだった。
しばらく皆で話し合った結果、まずは静かにするよう注意してみて、駄目なら
警察を呼ぼうということになった。
「警察に即通報」としなかったところに、時代のおおらかさを感じる。
さて、屋上に上がるには、5階からさらに非常用の梯子を登り、下から押し上げるタイプの戸を開ける必要がある。
防犯上の措置として、普段はそこに南京錠が掛かっているのだが、何故かそれは
見当たらなかったという。
それなりに力仕事となるので、4階に住む若い旦那さん(以下Hさん)が
代表として屋上に登ることになった。
皆が見守る中、Hさんが戸を押し上げた。
その瞬間、Eさんは辺りが震えるほどの叫び声を聞いた。
Hさんは、同じタイミングで、「ちょっとまって」と言う男の声を聞いたという。
(後で確認したところ、GさんやFさん夫婦には何も聞こえなかったらしい)
そして、あれだけの騒ぎが一瞬でピタリと静かになった。
Hさんが顔だけのぞかせて屋上を見回すと、そこにはただ、
荒涼としたコンクリート打ちっぱなしの風景だけが広がっていたという。
その後、屋上に向けて何度も呼びかけたが反応が無いため、結局は警察を
呼ぶことになった。
まもなく警官が来て屋上を捜索したが、そこには誰もいなかったという。
宴会の痕跡なども見つからなかった。
ただ、屋上の真ん中に、何者かの大きな糞だけが残されていたそうだ。
警官は帰り際、固唾を飲んで見守る住民たちにこのように告げたそうだ。
「この場所に犬が入ってくることは考えられないので、おそらくは人糞であろう。
空き巣が部屋に入る前に『ウン試し』としてこのようなことをすることが
あるので、しばらくパトロールを強化する」
明らかに肩透かしな回答で、そこにいた皆はもちろん納得しなかったが、
屋上に誰もいなかった以上、文句のつけようも無い。
考えられることとしては、備え付けられた梯子を使わずに、それこそ壁を伝って
降りるなどすれば不可能ではないが、それを目撃した者はいなかった。
結局、屋上にいた者たちのことは何一つ明らかにならなかったわけだ。
また、奇妙なことに、あれだけの大音量が響いていたにもかかわらず、
△号棟以外の住人がこの騒ぎに気付くことは一切無かったという。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
警察沙汰にまでなったということもあるだろうが、この事件については、当時、
団地というコミュニティの中であることないこと様々な噂が飛び回ったと聞く。
ちなみに本団地は、高度成長期である1955年~1973年のちょうど真ん中頃に
建設された。
市史には、その誘致において用地取得等いくらかの「難関」があったことが
記されており、そのことが怪異と関係しているのではないかと団地の住民の一人が教えてくれた。
また、近所の農家のおじさんは、狸の仕業に違いないと言う。
「つい最近だって、団地の床下に狸が巣を作っていたそうじゃない。
それを撤去したのがまずかったんじゃないの?
ほら、あのポンポコする有名なアニメ映画の舞台だって、ここの近所でしょ」
確かに、近所の自動販売機に、
「お札の投入口に葉っぱを差し込まないでください」
と張り紙がしてあったのは私も見たことがある。
結局は、狸の仕業なのだろうか。
先程の話も、満月の下であったら大変趣深いのだが、そこまで憶えている人は
さすがに見つからなかった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
私が聞き集めた話は以上となる。
彼の地から離れてしまった私にはもう知る由もないが、そこに住民がいる限り、
怪異も姿を変え手口を変え、そこに居座り続けるのだろう。
「あれ」はきっとそういうものなのだから。




