表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
58/59

第58話 助命嘆願


 マリクは作戦の前段階として、手駒となるガーディアン作成から着手していた。

 ガーディアンには素材として生物の魂が必要だが、無差別に集めればいいというものではない。

 その強さは、素材とした魂の質――すなわち生前の力量に左右される。

 例えば、ごく普通の一市民を素材にしても、討伐レベル一桁の雑魚が出来上がるのが関の山だ。

 加えて、作戦はあくまで秘密裏に進める必要があった。

 トリスター在住のハンターが次々と姿を消せば、街はすぐに騒ぎになる。

 そのため、マリクは市内のハンターを意図的に避けた。


 代わりに彼が取った手段は、ダンジョン内に大量の財宝をばら撒き、その噂が街の外にまで広がるよう仕向けることだった。

 そうして誘い込まれた市外のハンターたちを捕らえ、次々とガーディアンへと変えていったのだ。


 ここでひとつ疑問が浮かぶ。

 ハンターが市外の人間かどうかを、マリクはどうやって見分けていたのか?




 【 裕真の屋敷(借家) リビング 】



「――それに協力していたのが、あなたの兄、アントニオさんってわけか」

 

 裕真の問いに、ソファに背筋を伸ばして腰掛けていたバサーニオが、こくりと小さく頷いた。

 目の前に出されたお茶には、いまだ手を付ける様子がない。


 アントニオ・ベルモント。

 二十代という若さで通商ギルドを束ねる、やり手の豪商。

 彼はその情報網を利用し、街に集まるハンターの素性を調べ上げ、マリクに流していた。

 そしてそれが発覚した今、捕らえられ、処刑を待つ身となっている。


「そりゃ処刑されて当然だなぁ」


 手を組んだまま、ラナンが感情を挟まずに言い放つ。

 それにバサーニオが、目を見開いて反論した。


「違うんです! 悪いのは俺なんです! 俺が邪教徒に捕えられ人質にされたせいで、兄は奴の言いなりに……せっかく築いた今の地位を台無しにしてまで……」


 そう言い切ると、ついに堪えきれなくなったように泣き崩れる。

 一人称が「私」から「俺」に変わっていた。おそらく、これが彼の素の部分なのだろう。


 裕真は、ふうっと小さく息を吐いた。


「マリクの奴、ろくでもない置き土産を……。それにしても脅迫されてただけなのに、処刑は重すぎないか?」

「いや、それを考慮した上で減刑されてるんだよ」


 ルナが軽く手を振りながら答える。


「本来なら、一族郎党処分されるほどの重罪だし」

「連座制とか、江戸時代かよ……」


 露骨に眉をひそめ、嫌悪感を隠さない裕真。

 それを見て、篤志が補足を入れる。


「一応、連座制が適用されるのは、よほどの重罪に限ります。国家転覆とか、大虐殺とか」

「……なるほど。今回、どっちも当てはまっちゃうわけか」


 ここで、イリスがバサーニオに視線を向けた。


「……ていうか、何でその件でウチに来たの? 私たち、ただのハンターなんだけど」

「失礼ですが、皆様のことを調べさせて頂きました! この街を本当に救ったのは皆様なんでしょう?」


 一同、ぎょっとする。

 表向き、今回の事件を解決したのは四人のSランクハンターということになっている。

 真相を知るのは、裕真たちと、この国の首脳部だけのはずだった。


「ユーマさん! 救国の英雄である貴方様なら、兄を助けて頂けるかと、藁にも縋る思いで参りました!!」


 バサーニオはソファから降り、両手をついて跪く。

 裕真が言葉に詰まる一方で、ルナの目つきが険しくなった。


「なんで、そう思ったの?」

「その……商人は情報が命でして……」

「……王宮内に内通者がいる訳ね」

「あわわ……ご堪忍を! 平に! 平にご容赦を!!」


 今度は床に額を擦り付けるバサーニオ。

 その必死さに、裕真はさすがに哀れみを覚えた。


「う~ん……。確かに処刑は可哀想だ。そんな兄弟思いの人を……」


 裕真は一人っ子なので、兄弟というものにどこか憧れを抱いていた。

 自分を命懸けで守ってくれる、頼もしい兄がいたら……。そんな想像が頭によぎる。


「よし、なんとか頼んで――」

「いやいや、止めといた方が良いよ!」


 ルナが慌てて裕真を静止する。


「今でも破格の温情なのに、これ以上減刑しろなんて、温厚なち…国王陛下でも怒るって」

「せやな、事情があるとはいえ、しでかした事の責任は取らなあかん」


 茜も同意する。

 もし自分たちが計画を阻止してなかったら、100万人の命が犠牲になっていた。

 なあなあで済ませていい問題ではない。


「そこを……そこを何とか!! 商会も個人資産も差し押さえられて大したお礼は出来ないのですが……代わりに俺が何でもします!」


 必死の形相で、バサーニオが食らいつく。


「犬のフン食えって言うなら、食いますから!」

「ちょ!? やめて! そんなの見せられる方も罰ゲームじゃん!」


 ほとほと困り果てた裕真。

 だがその時、ふとある考えが脳裏を走った。


「そうだ! 俺はまだこの件で、御褒美を貰ってなかった。それと引き換えなら、なんとかならないか?」

「……は!?」


 その場にいた全員が、一拍遅れて驚きの声を上げた。

 表向き、邪教徒を倒したのはSランクハンター達という扱いになっているが、それに協力した功労者として、裕真にも相応の褒美が約束されていた。

 にもかかわらず、裕真はそれを捨てようとしているのだ。


「褒美の価値分かって言ってるの!? お金なら一千万マナ(約十億円)ぐらい、望めば爵位だって貰える功績だよ!?」


 ルナは眉を逆立て、語気を強めてまくしたてる。

 だが裕真は、微塵も動じなかった。


「お金も功績も、また稼げば良いだけだ」


 涼しい顔で断言する。

 それは強がりでもハッタリでもなく、実際にそれを成し得る実力があるからこその発言で、ルナは思わず気圧されてしまう。


「う……いや、貴方の褒美だから好きにすれば良いけど……。なんでそこまで? 会ったこともない人の為に」

「アントニオって人の為じゃない。マリクの為だ」

「へ? マリクって、邪教徒の?」


 目を丸くするルナに、裕真は静かに頷く。


「最後、マリクは改心して消えていった。……まぁ、それを差し引いても地獄行きなんだけど、せめてこれ以上、罪を重ねさせたくない」


 その言葉に、皆が思わず「ほぉ……」と息を漏らす。


「だから代わりに後始末してやりたいんだ。あの事件のせいでこれ以上犠牲者が出たら、マリクも悲しむ」


 茜が、呆れ半分の溜息をついた。


「はぁ……敵の為に……。あんたみたいなお人好し、見たことないわ」

「そうか? きっと鳥◯明先生だって同じ事をするはずだ」


 ……ト◯ヤ◯ア◯ラ?


 え? 誰?


 突然飛び出した聞き慣れない人名に、モモ以外のカンヴァス人が揃って戸惑う。

 だが裕真は、そんな反応などお構いなしに続けた。


「◯ラゴン◯ールは敵を許す寛容さも大事だって、教えてくれた……」


 裕真は目を閉じ、記憶の奥をなぞる。

 まぶたの裏には、◯空と死闘を繰り広げた強敵(ライバル)たちの姿が浮かび上がる。


 砂漠の盗賊、◯ムチャ。

 魔族の王、◯ッコロ。

 戦闘民族の王子、◯ジータ。

 最強の敵、魔人◯ウ。


 彼らは皆、激しく拳を交えた末に和解し、やがて仲間となった者たちだ。


「そうですよね! ト◯ヤ◯ア◯ラ先生なら、そうしますよね!」


 裕真と一緒に◯ラゴン◯ールを読んだモモも、興奮気味に頷く。


「ええっ! 鳥〇明先生ですもの!」


 同じく熱心な◯ラゴン◯ールファンである篤志も、目を輝かせて賛同した。


「いや誰やねん!? ト◯ヤ◯ア◯ラって――」


「「「“先生”を付けなさい!!!」」」


 三方向から鋭い声が飛び、茜は思わず「ひぇっ」と呻く。


 その様子を見たルナは、このパーティに入ったことを、ちょっと後悔するのだった。




 【 翌日 王宮・謁見の間 】



「ほう、なるほど。それで褒美と引き換えにアントニオ・ベルモントを助命してほしいと……」


 急な申し出にも関わらず、国王はすぐに謁見の機会を設けてくれた。

 裕真は深く感謝し、ペコリとお辞儀する。


「君の功績を考えれば、それぐらい容易い御用……と言いたいが、周囲の目もある。まったくの無罪放免というのもな……」


 顎髭を撫で、しばし思案する国王。

 裕真は、ごくりと喉を鳴らした。


「……よし、ではこうしよう。アントニオ・ベルモントを奴隷とし、君への“褒美”として授けよう」

「ど……ドレイ!?」


 思いがけない提案に、裕真は目を見開く。


「左様。支配階級だったものが奴隷の身分に落とされるのだ。それは死に勝る屈辱……と周囲は捉えるじゃろう。無論、自分の奴隷をどうするかは君の自由じゃ」


 国王の意図を察し、裕真は「おおっ」と声を上げた。


「なるほど! そういうことですか! さすが陛下! ありがとうございます! このような我儘を聞いていただいて!」

「いや、いいんじゃよ。むしろ礼を言うのはこちらの方じゃ」


 お礼? なんのことだろう? 

 今回の件は、迷惑をかけたという自覚しかないが。


「ワシも七人の娘の父じゃ……。家族を人質に獲られたアントニオの苦悩も分かる。だが立場上、裁かぬわけにもいかん。親族に累が及ばぬようにするのが精一杯じゃった」

「……陛下!」


 裕真の胸に、熱いものが込み上げる。


「そこへ来て、君の提案じゃ。処刑せずに済んで心底ほっとしておる」

「陛下……なんとお優しゅう……」


 国王の言葉に、裕真は思わず感激の涙を流した。



 だが実は――


 嘘 で あ る !!



 本心では、アントニオのことを心底嫌っていた。

 評議会で何度もルーナ姫の捜索を妨害してきたからだ。

 むしろ処刑の日を、ウッキウキで待ちわびていたほどである!


 だが、ここは私情を抑え、裕真の好感度稼ぎを優先した。


 人心掌握の機会を見逃さない!

 それがオリオン連合王国の盟主、ケダリオン十三世である。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ