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第50話 反撃


 街の中心を貫く、巨大な大通り。

 普段なら商人や旅人、馬車でごった返すこの道が、今は大量の魔物が闊歩する人外魔境と化していた。

 そしてその中央で、裕真の仲間たちが魔物の大群に包囲されていた。


 《貪狼星(どんろうせい)》を持つイリスと、《フォローリング》で強化されたアニー、ラナンの三人が円陣を組み、その内側のモモ、茜、セランの三人を守る。


「畜生!! ぞろぞろ集まって来やがった!!」


 ラナンは自分の体より大きいハンマーを振り回し、押し寄せる魔物を片っ端から弾き飛ばす。


「ああっ、もうっ! ユーマを探さないといけないのに!!」


 イリスが歯噛みしながら魔物を斬り裂く。

 いくら倒しても数は減らない。むしろどんどん集まってくる。

 ふと見上げると、咆哮と共に一体のレッサードラゴンが上空から急降下してきた。

 その視線の先には、モモの姿が。


「あぶない! モモさん!!」


 アニーがとっさに手を振る。

 次の瞬間、彼女の傍らに立つエリンギの巨人が、ドラゴンを巨大な腕ではたき落とした。



 精霊属【新菌類エリンギリオン】 推定討伐Lv80



 それはアニーが『キノコの精霊界』から召喚した英雄ユニットだった。

 術自体は以前から知っていたが、裕真から貰った1,000MPのおかげで初めて召喚に成功したのだ。


 その背後で、セランが申し訳無さそうに歯噛みしていた。

 国王直属の親衛隊である彼は、その役目を全うするに足る武技を修めている。だが、目の前の魔物軍団を相手にするにはまったく力が足りない。

 せめて何か役に立てないかと観察していると、あることに気付いた。


「こいつら、モモさんを狙ってるような……」


 その言葉に皆はハッとする。

 言われてみれば、先程のレッサードラゴン以外も彼女を狙っている気がする。


「もしや、あの邪教徒の仕業か? 夢に入られたのが、よっぽど癪やったんやな……」


 茜の推測に、イリスは敵に目を向けたまま補足する。


「いえ、多分それだけじゃないわ! 奴はモモちゃんの力を恐れているのよ! 迷宮の守りを無視して自分を攻撃出来るモモちゃんを!!」


 モモはギョッと目を見開いた。


「攻撃って……。私の力、そんな危険な力じゃないですよ〜!」


 などと言ってる間にも、再びレッサードラゴンが急降下してきた。

 イリスは素早く身を翻し、その首を撥ねる。

 落ちた首がモモの足元に転がり、モモは思わず「ひえっ」と呻く。


「あなたの力が実際どれだけかは知らない。でも奴があなたを消したがっているのは間違いない! ……と思う」


 イリスたちの周囲には、返り討ちにした魔物の亡骸が山のように積み上がっていた。

 にもかかわらず、魔物たちは怯むことなく執拗にモモを狙い続けている。


 そんな最中、ラナンに異変が起きる。

 その手に握るハンマーが急に縮んだのだ。


「やべぇ……ユーマから貰ったMPが無くなる……」


 彼女の武器は『石の精霊』を実体化させたものなのだが、MPの枯渇により形を維持できなくなったのだ。

 そして同様の異変がアニーにも起きる。

 エリンギリオンの姿が次第に薄れ、消えていったのだ。


「私も魔力切れです……。はは……ここまでですかね?」


 アニーは引きつった笑みを浮かべ、それは次第に泣き顔へと変わっていった。


「イリス、あなた一人なら逃げられるでしょ? ここは脱出して下さい! 皆が犠牲になることは――」

「馬鹿! なに弱気になってるのよ!! もうじきユーマが来てくれる! それまで耐えるのよ!」


 アニーを励ましながらも、イリスの胸中にも焦燥が広がっていた。

 もうダメかもしれない――


 その時、イリスの耳に風を切る音が響いた。


 次の瞬間、押し寄せていた魔物の群れが一瞬で斬り裂かれた。

 風切り音はなおも続き、音が走るたびに魔物が切断されていく。


「な……なんだ? 何が起こったんだ!? 魔物たちがあっという間に!?」

「そんな……嘘でしょ? あの人は……」


 イリスの視線の先に、目を疑うような人物がいた。

 丁寧に撫でつけた白髪に、穏やかな笑み、濃紺の外套をまとった品の良い老人。

 それは――


「伝説の大剣豪、(つるぎ)の賢者『イルマリネン』様!!」

「……え? うそ!? イルマリネン! 世界に七人しかいない、『Sランクハンター』の!?」

「な……なんでここに!?」


 皆が次々に驚きを口にした。

 

 Sランク。

 

 それは、ハンターギルドが認めた世界最高峰の証。

 その名を冠するハンターは、世界にわずか七人しか存在しない。


 群れは標的をイルマリネンに変えたようで、急遽そちらに殺到する。

 だが、その一体たりとも彼に触れることは敵わない。

 音と共に刻まれ、細かな断片となって大通りに散らばった。


 それはまるで魔法のような光景だった。

 だが魔法ではないことをイリスの視力は捉えていた。

 イルマリネンは自分の周囲に、常人の目では見えないほど薄く透き通る帯状の刃を展開させ、それを鞭のように振るい敵を斬り刻んでいたのだ。

 その極薄の刃は《サンパス》という神器だった。

 神々が作った万能工具であり、使用者の望む形状に変化する機能を備えている。

 既存の道具や武器はもちろん、“目に見えないほど極薄で自在にしなる剣”という物理的に無理がある形状にさえ変化できる。

 もちろんそんな奇っ怪な武器、普通はまともに扱えない。敵を斬るどころか、刃を自分に巻きつけてしまいかねない。

 世界中のあらゆる剣術、武器術を収めたイルマリネンだからこそ使いこなせるのだ。

 彼が“(つるぎ)の賢者”と呼ばれる所以である。


 ものの数分で、何百という敵が一掃された。

 魔境と化していた大通りに静寂が戻る。 


「あの……」


 イリスは礼を言おうとしたが、禍々しい気配が再び迫るのを感じた。

 敵のおかわりだ。

 

 現れたのは、レイス、ファントム、スペクターといった悪霊の群れ。

 敵の意図は明白だった。これらの魔物は物理攻撃が効かない。

 イルマリネンにとって相性が悪い相手を集めたのだ。


 怨嗟の咆哮を上げ、悪霊たちが老剣士に殺到する。


 だが――



「レーヴァテイン!」


 気合の籠った少女の声と同時に、紅蓮の波があたりを飲み込んだ。

 業火が奔流のように広がり、悪霊の群れを焼き尽くす。

 次の瞬間、そこには灰一つ残っていなかった。


 熱気と黒煙の中から、声の主が姿を表した。

 膝まで伸びた紅蓮の赤髪に、強く輝くルビー色の瞳――


「獄炎の大剣、《レーヴァテイン》……。そして『紅蓮の戦姫』レギンちゃん! うわっ! 噂通り可愛い♪」


 イリスの声が弾み、目を輝かせる。

 こんな時に……と普通なら突っ込むところだが、他の仲間たちも感激した様子で、誰も止めなかった。

 確かに可愛い。全体的に小柄な体型で、少し吊りあがったアーモンド形の目と小さなお鼻は、まるで子猫のように愛らしかった。

 史上最年少、15歳のSランクハンター。

 実力のみならず容姿でも多くのファンを獲得し、彼女の姿を描いた絵札、木版画、ぬいぐるみ、耳かきASMRなどといった関連グッズは飛ぶように売れ、ギルドのちょっとした副収益になっている。


 そんなアイドルの登場に沸き立つ一同だったが、知ったことかと言わんばかりに敵の増援が湧いてきた。



 造魔属【マグマゴーレム】 討伐Lv88 



 現れたのは、エルフ文明より更に前の、神々の時代に造られた遺物だった。

 煮えたぎるマグマを素材にしたという、とんでもないゴーレムだ。

 どうやって加工したのか、どうやって熱量をキープしているのか。人の知が及ばない神秘の産物。

 そんなものまで製造できるのかと、改めて《巨門星(こもんせい)》の力に戦慄する。

 そして、その性能も恐ろしいものだった。

 高熱のマグマは触れるだけで人体を蒸発させ、流動する身体は物理的なダメージをほぼ無効化。

 更に炎属性の攻撃を吸収し、自らの力に変えるのだ。

 まるで、二人のSランクハンターに対抗するために造られたかのような存在。


 だが、この怪物が活躍することはなかった。


「《シトナイ》」


 澄んだ女性の声が響く。

 次の瞬間、マグマゴーレムは突如現れた氷山に包まれた。

 通常ならば水蒸気爆発を起こすはずの熱量すら、氷山は呑み込み、凍てつかせる。

 後には物言わぬ岩塊が残るのみだった。


「シトナイ!? 雪の大精霊!! まさか――」


 茜は声のした方へ、こわごわと顔を向けた。

 そこに立っていたのは、藤紫の狩衣(かりぎぬ)を纏う女性。

 夜空を溶かしたような長い黒髪が腰まで流れ、切れ長の瞳には虹のような光が宿っている。


「なぁなぁイリス! あの人もSランクハンターなのか!?」

「ええと、あの人は――」

葦原咲夜(あしはらさくや)統星(すまる)を守護する征魔平定軍(せいまへいていぐん)の頭や」


 ラナンの問いに、茜が静かに答える。

 遙か東方にある『統星(すまる)の国』は、大陸外縁部(ワールドエンド)と呼ばれる超危険地帯に存在する。

 出没する魔物は、ミッドランドとは桁違いの強さを誇り、本来なら人が住める土地ではない。

 そんな地で人々を守っているのが征魔平定軍であり、その頭領である彼女がSランクなのは当然と言えた。


 茜は俯き、帽子を深くかぶる。

 その仕草は、まるで葦原咲夜から隠れているように見えたが、イリスは深く言及しなかった。



 ◇ ◇ ◇



 【 ダンジョン最深部 】


 トリスターの街の数百メートル地下。

 そこに事件の首謀者、《巨門星》のマリクが拠点を構えていた。


 部屋の中には、無数の絵画と画材、未完成の彫像が並んでいる。

 どの作品も歪で禍々しく、見る者の心をざらつかせるような瘴気を放っていた。


 その中でマリクは椅子に腰かけ、テーブルの上の水晶球を睨みつけていた。

 それは《物見の水晶球》という魔道具で、地上でSランクハンターたちがマリクの軍勢を蹴散らす光景が映し出されている。


 苛立ちが限界に達し、マリクは立ち上がった。

 手にしていたコーヒーカップを床に叩きつけ、怒声をあげる。


「どういうことだ! 世界に七人しかいないSランクが、なぜ三人もいる!?」


  怒鳴り散らしたあと、マリクは荒い息をつき、再び椅子に腰を下ろした。

 しばし沈黙ののち、唇の端を歪めて呟く。


「偶然……というには出来過ぎている。……娘を助ける為、オリオン国王が集めたのか?」


 ありえる話だった。

 西方大陸最大の権力者である国王なら、Sランクハンターを動かすことも可能だろう。


「くそっ! あの小娘、とことん祟ってくれる! なんで王女がダンジョンに来るんだ!! あいつのおかげで王家に気付かれるわ、夢魔が侵入してくるわ――」


 再び怒りがこみ上げ、今度は椅子を掴んで壁に叩きつけた。

 鈍い破砕音が響き、破片が床を転がる。


 マリクは街の有力者たちの弱みを握り、ハンターの情報を集めさせたり、ダンジョン封鎖を妨害させたりしていたのだが、王族関係者までは手が回らなかった。

 その結果、王族の掟である「五年間のハンター修行」まで知ることができず、一般ハンターとして入場していたルーナ姫を捕獲したことで、計画が露見してしまった。

 最大の誤算にぎりぎりと歯を鳴らす。


「……まぁ良い。Sランクと言えど、我がダンジョンに入ってしまえばこちらのものよ」


 マリクは指を鳴らす。

 すると、テーブルの上に新たなコーヒーカップがふっと現れた。

 それを一口啜りながら、冷静さを取り戻す。


 よくよく考えれば、先程やられた魔物は全戦力の1%にも満たない。

 しかもその戦力は、今もなお増え続けている。

 それらを全て投入すれば、いかにSランクといえど一溜まりもなかろう。


「奴らは強靭な魂を持っているはず。邪神に捧げて点数を稼ぐか、私の『作品』に使うか……悩みどころだな」

 

 などとほくそ笑んだ、その瞬間――


 部屋の扉が轟音とともに吹き飛んだ。


「こんちゃ」


 気安い挨拶と共に、一人の女が現れた。


 ウェーブのかかったセミロングの髪はエメラルドのように艶めき、瞳もまた同じ色で輝いていた。

 エルフほど長くはないが、耳の先は尖り、側頭部にはヤギのように捻れた角。どうやら魔族のようだ。

 白のカットシャツに赤いベスト、それと同色のロングスカートに、手には白の日傘という、普通の街娘のような出で立ち。

 だが、マリクは彼女が只者ではないことを知っている。というか、かなりの有名人だ。


 彼女もまた、Sランクハンター。

 自称“フラワーハンター”、お花大好き『ヘカーテ』さんである。


「な……なぜだ!? 何処から入ってきた!?」


 この部屋への入口は、自分でもやり過ぎと思えるぐらい巧妙に隠していた。

 初めから場所を知らない限り辿り着けるわけがない。

 だがヘカーテは、マリクの問いに一切答えず、ただ静かに口を開いた。


「ねぇ貴方、知ってる? この街の植物園で『月光草』が展示されていたの」


 彼女は目を細め、天井を仰ぐ。

 その横顔には、どこか悲しみの色が宿っていた。


「月光を浴びて百年に一度だけ花を咲かせる植物でね……。それがもうすぐ開花する予定だったの。でも、どこかの“馬鹿”のおかげで植物園ごと潰れちゃったのよ……」


 “どこかの馬鹿”を、ぎろりと睨む。

 その視線に射抜かれ、マリクは一瞬呼吸を忘れた。

 冷や汗が頬を伝う。


「ねぇ、あなた想像出来る? 百年に一度の機会を奪われたお花の無念を? ねぇ、お馬鹿さん?」


 マリクの顔から血の気が引いた。

 この女はイカれている。

 数十万の虐殺された市民より、お花のために怒っているのだ。

 事件を起こした自分が言うのもなんだが、正気ではない。

 

「それがなんだというのだ! このイカれ女め!!」


 怒鳴りざま、マリクが指を鳴らす。

 すると天井のハッチが開き、体長2mほどの黄金に輝く甲冑が、二人の間に降り立った。



 造魔属【ロイヤル・ガード】 討伐Lv105



 それは古代エルフの魔法技術の粋を集めて製造された、王族護衛用のゴーレムだ。

 アダマンタイトのフレームにミスリルとオリハルコンの合金装甲で形成されたそれは、物理、魔法ともに無敵に近い耐性を持ち、人間大のサイズでありながら、体長10mのドラゴンを凌駕する戦闘力を誇る。


「私を追い詰めたつもりだったろうが、甘かったな! 我がダンジョンに死角はない!」


 マリクの合図で、さらに三体の黄金甲冑が降り立つ。

 計四体のロイヤル・ガードが、一斉にヘカーテへ襲いかかった。



 ◇ ◇ ◇



 シノブが避難のためヒナを連れて行った先。それはトリスターの王宮だった。

 見慣れたはずの城門の前で、ヒナは思わず足を止め、目を丸くした。


「ここが安全な場所ですか!?」

「そうだ、ここはディアナ様の力で護られている。巨門……邪教徒の力が及ばない領域だ」


 そうなのかと、ヒナは改めてディアナ様に感謝した。

 だが逆に言えば、王宮以外のすべての場所が侵食されるぐらい敵の力が強いということで、あまり安心などできない。


「早く入って!! 魔物が来る前に!!」


 僅かに開いた城門の前で、衛兵が焦った様子で叫んだ。

 ヒナたちは急いで中に駆け込む。


 城内の庭には、同じように避難してきた市民たちが集まっていた。

 誰もが顔を青ざめさせ、膝を抱えて項垂れている。

 その重苦しい空気の中で、ヒナは衛兵に声を掛けた。


「あの……衛兵さん。街に何が起きたのですか?」

「そんなの、こっちが聞きたいよ!!」


 即座に苛立った声で返される。

 その剣幕にヒナは思わず肩をすくめたが、何度も同じ質問を受けているのだろうと察した。


「衛兵さん! うちの家族が外に取り残されてるんだ!!」

「助けに行ってくれ!!」

「はぁ!? ふざけんな! 死にに行けっていうのか!?」


 城内のあちこちで、市民たちの怒声が上がる。

 衛兵もまた苛立ちを隠せず、互いの焦燥がぶつかり合う。


「なんだと! 市民を守るのがあんたらの仕事だろ!」

「何の為の衛兵よ!!」

「税金泥棒!!」


 その罵声に、衛兵はたじろぎ、力なく呟いた。


「勘弁してくれ……こちらも大勢死んでるんだ……」


 そう言うと、彼は頭を抱えてその場に座り込んだ。

 他の衛兵たちも、同じように疲弊しきっている。


 衛兵たちの弱気な態度……。理屈で言うなら責められて当然なのだろう。

 だが、ヒナにはそれが出来ない。

 何故なら、彼女もまた同じだからだ。

 命欲しさに王族の試練を放棄し、一市民として安寧を得ようとしたのだ。


 そう、魔物と戦うというのは恐ろしいこと。

 戦った相手が人間なら命までは取られないかも知れない。捕虜にされたり、見逃してもらえたり……。

 だが、多くの魔物にとって人間はエサでしかない。命乞いなど何の意味も無く、捕食されるのみだ。

 それも楽な死に方ではない。

 生きたままはハラワタを貪られたり、耳の穴から脳を吸われたり、丸呑みにされ胃の中でゆっくり溶かされたり、卵を植え付けられ身体の内側から幼虫に蝕られたり……。


 想像するだけで鳥肌が立つ、凄惨な最後が待っているのだ。

 そんなのに立ち向かえと誰が言えるのだろうか?


 などと、ひとり懊悩していると、城門の外から声が聞こえた。


「門を開けて下さい! 魔物に追われているんです!! 」

「早くしてくれ! もうそこまで迫ってるんだ!」


 必死の声が、城門を震わせる。

 だが、衛兵は門を開こうとしなかった。


「衛兵さん! なぜ開けないのです!? 避難してくる人達が!!」

「ダメだ! 魔物の群れが近すぎる! 今開けたら、奴らも雪崩れ込んでくる!!」

「そんな……」


 ヒナの目に涙が滲む。

 脳裏にオティフに溶かされた仲間たちと、瓦礫に押し潰されたココロの姿が浮かんだ。

 自分はまた、絶望を見なければいけないのか。


 ――そのとき、声が響いた。



「門を開きなさい」



衛兵「はあ!? だからダメだって――」


 反論しかけた衛兵の言葉が途切れた。

 彼だけじゃない。その場にいる全ての者が絶句した。


 白銀に輝く甲冑。口元に三日月の飾りが逆立つ髭のように付けられた兜。そしてそれらと対比するかのように、光を吸い込む漆黒の羽で編まれたマント。

 それはオリオン王家に伝わる伝説の武具、『大英雄オリオン』の装備だった。


 そして、それらを身に纏うことを許された者は、この世界にただ一人。


「こ……国王陛下!?」


 兜の下の表情は見えない。

 だが、その威厳ある声は間違いなく、オリオン連合王国国王、ケダリオン十三世陛下のものだった。


「魔物はワシが引き受ける。だから門を開きなさい」


  力強いその言葉に、民衆がどよめく。


「おおっ! 国王陛下のご出陣だ!!」

「あれが伝説の大英雄様の装備!!」

「なんと神々しい!!」


 沸き立つ歓声の中、ヒナだけは青ざめていた。


「そんな……ちちう……陛下が戦うなんて! 無茶です!!」


 ヒナは、父が戦う姿を見たことがない。

 だが、どれだけ強かろうと、一人の人間にどうにか出来る事態とは到底思えなかった。


 そんな彼女の肩に、シノブが静かに手を置く。


「心配はいらない。国王陛下はこの大陸で、最強のハンターだろ」



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