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第49話 迷宮都市


「いたた……。いったい何メートル落ちたんだ? 俺じゃなきゃ死んでいたぞ」


 霞んで見えるほど高い天井を見上げながら、裕真は呻いた。

 ガードバングルに守られているはずなのに、腰に軽い痛みを感じる。

 もっとも、それは魔道具の不具合ではなく、高級品だからこその仕様だった。

 戦闘中に痛みを感じないのは、逆に危険である。例えば背後から奇襲を食らっても気付かない恐れがある。

 なので、活動に支障が出ない程度の痛みを伝える機能が備わっているのだ。


「え? なに? 天井から急に降って来た!?」

「あの高さからゴーレムと衝突して無事って!?」

「な……なんでユーマさんがここに!?」


 騒がしい声に振り向くと、三人の少女がこちらを見て大騒ぎしていた。

 突然現れた裕真に驚いているらしい。だが、次の瞬間、彼女たちの視線は裕真の背後へと移った。

 つられて振り返った裕真の目に、白銀の巨体が映った。

 八メートルはあろうかというゴーレムが、鈍い光を放つ巨大なメイスを構えて迫ってくる。


 振り下ろされる一撃。

 裕真は咄嗟にバリアを展開し、衝撃を受け止める。


「うおっ!? なんだこいつは!?  ロボ? いや、ゴーレムってやつか!?」

「陛下、あれは古代エルフのゴーレムです! 下手なドラゴンよりも強いので、ご注意を!!」


 スマホの中からアコルルの声が響く。

 裕真は戦闘用の杖を構えたが、すぐには動けなかった。ひとつ気になることがある。


「アコちゃん! 『ガーディアン』を倒すと、中の魂はどうなるんだ!?」


 以前聞いた“魔物に人の魂が使われている”という話が頭をよぎる。

 そのためらいを察したかのように、アコルルが即答した。


「ダンジョンに還るだけですので、倒しても大丈夫です!!」

「よっしゃ! それなら遠慮なく! 《サンダーミサイル!!》」


 杖の先端から、数十発の雷球が放たれた。

 自動追尾型の雷撃弾を放つ《サンダーミサイルの杖》。

 賞金首狩りで何度も活躍した、頼れる一本だが――


 ミスリルゴーレムはその巨体にもかかわらず、驚くほど軽やかに右へ左へと身を翻し、全弾回避してしまった。


「うっそだろ!? あのデカさで逃げ切るのかよ!? なんちゅー素早さだ!!」


 唖然とする裕真。しかし同時に直感した。

 この異様に広い空間は、こいつが自由自在に動き回れるように用意されたステージなのだと。


 なお避けられた雷球は、周囲にいた別の魔物を追尾し命中。

 これによりミスリルゴーレム以外の魔物は壊滅した。


「陛下! こちらも素早さを上げて応戦を!!」

「分かってる!」


 言うが早いか、複数の魔道具を起動させる。


 《ハヤブサの腕輪》 動体視力・反射神経強化。

 《セブンリーグブーツ》 移動力上昇。

 《ゴリラ巨人のベルト》 筋力上昇。


 力が全身にみなぎる。

 裕真は大剣を抜き放ち、ゴーレムへ突進。地面を蹴るたびに衝撃が走る。

 ゴーレムは分厚い盾を構えるが、振り下ろされた剣はその防御ごと左手を粉砕した。

 《アダマンブレイカー》。物体の分子結合力……この世界では“防御力”と呼ばれるものを弱める力を持つ魔剣。


 左手を失ったゴーレムは、一瞬動きを止めた。

 まるで驚いているように、あるいは何かを思い出したかのように。

 次の瞬間、こちらに視線を向けたまま素早くバックステップ。

 ……そして、そのまま姿を消した。


「……え? 逃げたのか?」


 反撃を予想していた裕真は、拍子抜けした。

 恐れを知らないゴーレムは、主人の命令を遵守して壊れるまで戦うものじゃないだろうか?


「普通ゴーレムは、壊れるまで戦うものじゃないの?」


 裕真の疑問を、オレンジ髪の少女が代わりに口にした。


「ふふふ、エルフ製のゴーレムは賢いの! 状況を判断して、臨機応変な対応が出来るのよ!!」


 薄紫のロングヘアーを揺らしながら、エルフの少女が誇らしげに胸を張る。


「なんでのんちゃんが自慢気なのさ」


 明るい金髪を長めのおかっぱにした少女が呆れ気味に突っ込む。

 のんちゃんとよばれたエルフの耳が、かすかに赤く染まった。

 たとえ敵であっても、ミスリルゴーレムはエルフ族にとって誇らしき祖先の遺物なのだ。


「あの! ありがとうございますっ! 危ないところを助けて頂いて!」


 オレンジ髪の少女が勢いよく頭を下げた。

 二つ結びにした長い髪が、ぶわっと持ち上がる。


「あ、いやいや、お礼なんて良いんです。偶然鉢合わせただけですし……」


 裕真は何気なく三人を見つめ、そして目を見開いた。


「もしや、スリスさんと、テイルさんと、ノウトさん?」


 指差しながら言うと、今度は彼女たちが目を見開く。


「え? なんて私たちの名前知ってるんですか?」

「お会いするの初めてですよね?」

「え~? やだなぁ、私ったらいつの間にか有名に――」


 呑気なスリス以外の二人は、露骨に警戒の色を見せた。


(やっぱり! マーニ姫から聞いた通りの容姿だ!)


 マーニ姫に頼まれていた、三人の仲間の救出。

 それがこうも簡単に解決したことに、裕真は思わず笑みを浮かべた。

 その笑顔が、より女子たちの警戒を深めてしまうが、裕真はそれに気付かないまま思考を巡らす。


 彼女たちがここにいるということは、例のダンジョンがトリスターの地下にまで伸びていたということだろう。

 なんてことだ……知らぬ間に自分たちは《巨門星》の攻撃範囲に入ってしまったんだ!

 アコちゃんがあれほど「入ってはいけません」と注意していたのに……。

 とにかく、地上に戻って皆と合流しなくては!

 自分一人なら《ペガサスのマント》で飛べば良いけど、彼女たちはどうしよう?

 抱えて飛ぶのは危険だし、魔物に襲われるかもしれない……。 


 焦る裕真の視線が、ふと腰の《どうぐぶくろ》に止まった。

 この魔道具は物だけでなく、生きた生物も収納できる。これまでも魔物の生け捕りに大活躍してきた代物だ。

 もちろん人間だって入る。まだ試したことはないが。


 ……いや、それは違法だった。

 誘拐、密入国、死体遺棄といった犯罪に利用されるので、人間をマジックバッグに入れるのは国際条約で禁止されている。

 なので正規品にはプロテクトがかけられ、その機能は封じられているのだが、《どうぐぶくろ》にはそれが無い。

 非合法品と知られたら、間違いなく没収だろう。


 ……いやいやいや! 今はそんなことを気にしてる場合じゃない! この人達の安全が第一だ!


 裕真は決意を固め、三人の少女たちに向き直った。

 その真剣すぎる眼差しに、三人が一瞬たじろぐ。


「皆さん、ここから脱出するので、ちょっとこの袋に入ってくれ!!」


 ずいと袋を差し出す裕真。

 三人の表情が固まった。


「はいっ!? 袋に? なんです急に!?」

「それマジックバッグですか? 人が入るバッグって違法な品じゃ――」

「ええと…それは遠慮します……」


 のんびりしていたスリスでさえ、さすがに引き気味だ。

 しかし、裕真も引くわけにはいかない。


「いいから入って! 時間が無い!!」


 スリスの肩をむんずと掴み、袋の中に押し込む。

 魔道具で強化された裕真の腕力は、あのミスリルゴーレム以上だ。人類の力で抗うことはできない。

 身長150cmの体が、30cm程度の袋にすっぽりと呑み込まれた。

 テイルとノウトが青ざめて逃げ出そうとするが、裕真が素早く回り込む。


「ちょっ! やめて!!」

「きゃあああっ! お母さ〜ん!!」

「大丈夫! 安全だから!! さぁさぁ入って! 時間が無いから!!」



 トリスター市、午前8時30分。

 統星(すまる)風の若い男性が、少女たちを無理やり袋詰めにする事案が発生。




 ◇ ◇ ◇




 【 トリスター市 中央公園 】


 人気のなくなった公園の地面が、突如として爆ぜた。

 そこはまさに、裕真が落とし穴に落とされた地点だ。

 空いた穴の中から、裕真が勢いよく飛び出す。


「よし! 脱出できた! ……みんな無事か!?」


 呼びかけるが返事はない。

 仲間たちも犯人も、すでにこの公園から離れてしまったようだ。


 ふと、空が妙に暗いことに気づく。

 さっきまで晴れていたはずなのに、まるで日蝕でも起きたかのように光が薄い。

 裕真は《スペクトラル・イーグルグラス》を発動させ、視力を強化する。

 すると街の空が石壁で覆われているのが見えた。

 更に視界を巡らせると、街全体がドーム状の壁で包まれているのが分かる。

 裕真は戦慄した。それは街の地下のみならず、地上まで《巨門星》のダンジョンに呑み込まれたことを意味していた。


 事態の深刻さに冷や汗をにじませるその時、街中からいくつもの悲鳴が響く。


「サイクロプスだぁ!!」

「たすけて! 衛兵さーん!」


  四、五階建ての建物を見下ろすほどの巨体が通りを踏み荒らしている。魔物たちが住民を襲い、逃げ惑う人々の声が街を震わせた。


 そして、住民を襲うのは魔物だけではなかった。

 大通りを走る人々の足元がパカリと割れ、何十人もの人たちが奈落へ落ちていく。

 裕真が落とされたときと同じ深さなら、まず助からない……。


 逃げ場を求めて狭い路地に駆け込む人々。だがそこにも罠が待っていた。

 壁の溝から突き出る槍が通り抜ける者を串刺しにし、回転ノコギリが悲鳴を裂く。

 坂道からは巨大な岩が転がり落ち、水道からは硫酸が、噴水からはマグマが噴き出した。


 目を覆うような光景に、裕真は青ざめ、足がすくむ。


「こ……これは……。 いったいなにが!?」

「おそらく……邪教徒が『収穫』を始めたのでしょう。街全体をダンジョンで包み込み、魔物とトラップで住人を一網打尽に……」

「お……俺がもっと早く敵の計画に気づいていたら……」


 裕真は愕然とした。

 ショックのあまり膝をつきそうになるが、歯を食いしばり、なんとか堪える。


「……いや! 後悔してる場合じゃない! とにかく、街の人達を助ける!!」

「あっ、お待ちください! 陛下!!」


 アコルルの制止も耳に入らず、裕真は駆け出す。

 その先には今にもサイクロプスに踏み潰されようとしている女の子がいた。 ウサ耳のカチューシャにミニスカのメイド服という姿。たしか有名な喫茶店の制服だった気がする。


「誰か〜! 助けて〜!!」


 すかさず裕真は《アイススパイク》を放ち、サイクロプスの頭を吹き飛ばした。


「大丈夫ですか!? お怪我は!!」

「あ……ありがとうございます! ……あっ、貴方はもしかして噂の」


 女の子は言葉の途中で、急に崩れ落ちた。

 その後頭部には一本の矢が刺さっている。

 裕真の死角から放たれたそれが、彼女の命を一瞬で奪ったのだ。


 絶句する裕真の耳に、ひゅんひゅんと風を切る音が響く。

 無数の矢が雨のように降り注ぎ、逃げ惑う人々を次々と貫いていった。


「ああああ......次から次に死んでいく……。手に負えない......いったいどうすれば!?」

「陛下……市民の保護は諦めて下さい。今やこの街全体が殺人トラップになっています。安全な場所などありません!」

「そんな……見捨てろっていうのか!?」


 涙目のままスマホを握りしめる。

 その時、裕真の脳裏にひらめきが走った。


「……そうだ! 《どうぐぶくろ》があるじゃないか! この中なら安全に――」

「!! お止めください!」 


 アコルルが血相を変えて叫んだ。


「そんなことをすれば禁制品を持ってることがバレてしまいます! 先ほどの三人だけなら口止めも出来るでしょうが、不特定多数となると……。バレたら良くても没収されてしまいますよ!?」


 人命よりアイテムを優先するアコルルに、裕真は眉をしかめる。


「構わん! それで皆の命を救えるなら――」

「落ち着いて陛下! 先日お伝えした私の話を思い出してください! 犠牲者の魂は《巨門星》が捕獲しています。つまり《巨門星》さえ奪い返せば、後で犠牲者も復活出来るのですよ!?」

「あ……そうだった……。でも、怯える市民を放っておくのは――」

「……そのお気持ち、非常によく分かります。ですが《どうぐぶくろ》での救助は根本的な解決になりません。一刻も早く邪教徒を見つけ、倒した方が、結果的により多くの市民を救えます」


 裕真は唇を噛み、やがて頷いた。


「……分かった。邪教徒を倒す方を優先する。ところで、奴を見つける策はあるか?」


 邪教徒が造ったダンジョン……。

 トリスターの街の、その地下にまで広がる超広大な空間から、一人の人間を見つけ出すことが如何に困難か、裕真にも分かる。


「はいっ! ございます! モモさんの能力を利用しましょう! 《フォローリング》で彼女を強化し、夢の世界から奴を見つけ出すのです!!」


 裕真は一瞬、希望を見いだしたように目を輝かせた。

 だがすぐに表情が曇る。


「……良いアイデアだ。ただ先に彼女を見つけないといけないけど」

「う……そうですね……。そんなに遠くに行ってないとは思いますが……」


 邪教徒ほどではないが、大騒動になっている街中からモモを発見するのも至難の業だろう。

  服を買いに行く服がない、とはこのことか……と、裕真は苦い思いで空を仰いだ。




 ◇ ◇ ◇




【 喫茶店ムーンラビット ……だった廃墟 】



 店の残骸に、二十メートルの巨体がズシンと倒れ込んだ。

 颯爽と現れた一人のハンターが、サイクロプスを一刀で切り伏せたのだ。

 その人物は長身痩躯で黒髪黒目の生白い肌をした男だった。


 ヒナは呆然としながらも、慌てて礼を口にする。


「あ……あの……助かりました……」

「動けるか? 安全な所まで案内するだろ」


 男は手を差し伸べ、ヒナを立ち上がらせる。

 その手に嵌めた手袋にヒナは見覚えがあった。筋力を大幅に強化する効果があり、それも最高品質の大変な高級品だ。

 どうやら彼は相当な高位ハンターか、大富豪らしい。


「はい、大丈夫です……。ありがとうございます」


 男は短く「そうか」と返し、周囲を警戒するように見渡した。

 そして瓦礫の下敷きになったココロを見つけると、目元を抑え、肩を震わせる。


(泣いてるっ!?)


 ヒナは驚いて、咄嗟に尋ねる。


「あの……どこかお怪我を!?」

「……なんでもない。目に埃が入っただけだろ」


 男はヒナに背を向けたまま言った。ヒナは不用意な質問をしてしまったと気付き、俯く。


「あ……はい……ごめんなさい」


 そうだ、こんな状況、大の大人でも泣きたくなるだろう。

 ヒナは瓦礫の下のココロを思い、自然と涙が頬を伝った。



 ……しかし、男の苦悩は、ヒナの想像を遥かに超えていた。


(違う……違うんだ……。俺に謝らないでくれ……)


 彼の名は『時野忍(ときのしのぶ)』。

 時の神に選ばれた『勇者』であり、与えられたチート能力は『百万通りの未来ミリオン・フューチャー』。

 平たく言うと、未来予知能力である。


 シノブはその力で、この街の惨状を予知していた。

 やろうと思えば事件の元凶を事前に始末し、誰一人も犠牲者を出さずに済んだ。


 だが、それを実行すれば、シノブの存在が邪神に知られてしまう。

 そうなれば最後、邪神はあらゆる手段で予知能力を封じ、全力でシノブを殺しにくる。

 もはやシノブの力では逃げ切れない。確実な死が待っている。

未来がそう告げているのだ。


 だから見捨てた。トリスター100万人の市民を。


(俺は自分の安全の為に、皆を見殺しにしたんだ……。そんな俺に謝らないでくれ……)


 『百万通りの未来ミリオン・フューチャー』。

 それは未来を見通すことで、あらゆることを実現可能にするチート。


 ……ただし、心が耐えられるなら。




 ◆ ◆ ◆



 【 おまけ 前回初登場なのに、紹介し忘れていた魔物 】



邪鬼属【サイクロプス】 討伐Lv 40


とても巨大な単眼の邪鬼。

体長は少なくとも20m以上。100mを超える個体も確認されている。

異常なまでに発達した視力を持ち、山三つ分離れた獲物すら見つけ出す。

その動きは一見鈍重に見えるが、実際には単に巨体ゆえそう見えるだけであり、人間の脚力ではまず逃げ切れない。

顔の半分を占める単眼は弱点のように思われがちだが、実はこの魔物の身体で最も固い部位であり、生半可な攻撃では傷一つ付けられない。

サイクロプスの目玉を潰したという英雄譚も残っているが、それは「弱点を突いて倒した」という話ではなく、英雄の超人的な力を称えた伝承なので、勘違いしないように。



〔スキル〕


〈大巨体〉 すごく大きくなる。筋力・耐久・防御大幅上昇/被弾面積も大幅上昇

〈サイクロプスの目〉 視力大幅上昇/眼球の防御力も上昇

〈筋力上昇(大)〉 筋力が大幅に上昇する

〈耐久上昇(大)〉 耐久力が大幅に上昇する


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