表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/66

第3話 緊急クエスト発生! 目撃者を消せ!!

 大変おまたせしました、第3話です。やる夫スレ版では第2話の前半部分ですね。


 少女の反応は早かった。裕真が振り向くと同時に踵を返し、森の奥へと駆けていった。


「あっ、ダメです。見失いましたーっ」


 我ながら白々しいと思った。

 見失ったと言ったが、元から追う気は無かった。このまま逃げ切ってくれれば良い、と。

 だがそんな思惑など、冥王にはとうに見透かされている。


「白々しい、見えぬなら森ごと吹き飛ばせばよかろう。貴様の魔力なら出来るはずだ」


 裕真が命令を躊躇うことも、冥王は織り込み済みだった。だからこそ、冷静に諭すように続ける。


「貴様が今、どれほど危うい立場か教えてやろう。あの娘が街に辿り着き、目撃したことを吹聴すれば、貴様は邪教徒に命を狙われるようになる。寝る時も風呂の時も暗殺者の影に怯えて暮らすことになるぞ?」

 

 あの少女が目撃したのは森ごとトロールを消し飛ばした一幕だけだ。

 それで分かるのはせいぜい「凄い力を持った魔法使い」という事ぐらいで、実は冥王に選ばれ、邪神を倒しに来た勇者ということまで知るはずもない。

 だが冥王はあえてその点を伏せた。裕真に決断を迫るために。


「杖を起動する際、『範囲最大』と付け加えよ。さすれば森ごと吹き飛ばせよう。急げ、貴様の命が懸かっているのだぞ。言っておくが、二度目の蘇生は無い」

「ま……待って! なにも殺さなくても――」

 

 その時、裕真はハッ!と閃いた。

 そうだ、殺す必要はない。確か初期装備の中に“非殺傷兵器”もあったはず!


 大急ぎでマジックバッグに手を突っ込み、黒い杖を取り出す。

 闇の力で対象の精神を攻撃し、気絶させる魔道具、《シャドウボルトの杖》だ。

 殺すつもりはないが、口止めしなければならないのは同意だ。そのためには彼女と話し合う必要があるし、このまま逃げられたら困る。


 森に入った彼女の姿はもう見えない。

 だが冥王の言葉が正しいなら、杖が壊れるギリギリまでMPを注ぎ込み、効果範囲を最大まで広げれば届くはず!


「範囲最大! MP2,999! 《シャドウボルト》!!」


 次の瞬間、少女が逃げ込んだ森全体が、闇の力に包み込まれた!!




    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




 裕真は少女を探して森の中に踏み込んだ。道中には気絶して倒れた鹿やウサギの姿がいくつも転がっている。

 森の動物達には申し訳ないことをした……。

 だが、自分が生き残る為には仕方なかったのだ。ごめんなさい。

 などと良心の呵責に苛まれながら歩き回ると、案外あっさりと倒れている少女を見つけた。思ったより遠くに行ってなかったらしい。


 少女は長く伸ばした蜂蜜色の髪を緩く三つ編みにしていた。

 その綺麗な髪が、地面に伏したせいで土と落ち葉に塗れているのを見て、非常に申し訳なく感じる。

 革の防具を身に着けており、かなり使い込まれている様子だった。

 そしてその上からでも、スタイルの良さが伺い知れた。

 しばし観察してみると、かすかに胸が上下しているのが分かった。

 良かった、生きている。


「何をしている。早く止めを刺せ」


 安堵する裕真に、冥王はあくまで冷酷に決断を迫る。


「可哀想だと思ってるのだろうが、心配いらん。その娘の魂は我が責任を持って天国に送るからな」


 裕真は唖然とした。

 天国だって? 天国に送るなら何をしても良い、全て解決だとでも!?

 この子がそれまで生きてきた思い出とか、将来の夢とか、残された家族や友人とかの悲しみは? 

 冥王の“死”に対する価値観が、自分とは決定的にかけ離れている事を知り、眩暈がした。だから気軽に“消せ”などと命じられるのだろう。


「……命令に従えぬなら貴様に用は無い。代わりなどいくらでもいるのだぞ」


 やはりそうきたか……と溜息が出た。

 人の命を大切と思わないなら、当然裕真の命だって大切にしない。いつでも切り捨てるつもりなのだろう。


 ここは覚悟を決めるしかない。


「あーはいはい、ではそうして下さい」

「……は?」

 

 今度は冥王が唖然とする番だった。


「罪の無い人を殺せとか……そんな胸糞悪い命令に従って生きるぐらいなら、地獄に落ちた方がマシですよ!」


「な……!? 貴様、正気か!? 我に逆ら――」

「それじゃ後任の人によろしく!!」

 

 裕真は吐き捨てるように言うと、勢いよく通話を切った。


 ……景気よく啖呵を切ったものの、これから起こるであろう現実に足が震えてきた。

 これで百億円どころか、自分の命も終わる。トラックに轢かれた瞬間のぐちゃぐちゃな状態に戻るのだ。

 震える足をなんとか動かし、近くの木を背にして地面にへたり込んだ。


「でもこれで良かったんだ……。ゲームの主人公みたいにファンタジー世界で大活躍! なんて俺のキャラじゃなかったんだよ、きっと……」


 裕真は目を伏せ、力なく呟く。

 それは誰かに聞かせる為でなく、自分を納得させる為の言葉だった。


 ……だが、それを聞く者がいた。


「本当に良いの?」

「うわっ!」


 気絶してたはずの少女が急に起き上がり、話しかけてきた。


「な……なんで!?」

「これのおかげよ」


 少女は胸元に手を入れ、首から吊るした十字型のペンダントを取り出した。

 それはなぜか黒く煤けており、女の子がオシャレで付ける物には見えない。


「さっきの攻撃、闇属性の《シャドウボルト》でしょ? それをこの《ホーリーアンク》が防いでくれたの」


 闇属性を防ぐ装備!? 凄くゲームっぽい!

 などと軽く感動したが、なぜそれが煤けてるのか気になった。

 これってもしかして……


「あの……それがそうなってるのは、俺の魔法を防いだせい?」

「そうよ」

「ああっ! ごめん!! 弁償するよ!」


 裕真は財布の中身を思い出す。

 入っているのは、この世界の通貨5,000マナ……日本円にして約50万の価値があるらしいが、足りるだろうか? ゲームによってはマジックアイテムが超高級品だったりするし。


 あたふたする少年の姿に、少女は思わず笑みをこぼした。

 実は彼女、風の神の【祝福】を受けているため、非常に耳が良い。

 少年がトロール吹き飛ばした時の“誰か”との会話もバッチリ聞こえており、こちらに気付いたことも察した。

 その後、魔法を喰らい一旦は気絶したが、ホーリーアンクのおかげですぐに目覚めることができた。

 しかし、このまま逃げ続けても同じ魔法を撃たれたら終わりである。アンクは破損し、もう護ってはくれない。

 だから逃走よりも反撃する道を選んだ。まだ気絶したフリをして、少年が隙を見せたらザックリやるつもりだったのだ。


 だが、それで倒せる保証は無い。優れた魔導士は防御魔法も優れているものだ。懐に隠し持ったダガー程度で仕留められるだろうか?


 そんな不安に怯えていたら、当の少年は自分にトドメを刺すどころか、抹殺命令を拒み、壊れたアンクの弁償を申し込むようなお人好しだったのだ。

 持てる力と人格のチグハグさ……。まるで普通の少年が、神か悪魔から唐突に力を授けられたかのようだ。


 「あの――」


 少女は少年に強く興味を抱き、言葉を続けようとしたが……


 再び裕真のスマホから着信音が響く。

 着信拒否を試みるが、無理だった。

 冥王の通信は通常の回線ではなく、魔力で強引に繋げたものだからだ。

 裕真は眉を顰めながら、仕方なく応答する。


「もしもし?」

「あ~、その……あれだ、人は頭に血が昇ると、思ってもないことを口にするものだ。我にも経験がある。故に先程の暴言、伏して侘びるなら聞かなかったことにしても――」


 裕真はスマホを地面に叩きつけ、思いっきり踏みつけ、粉々にした。


「えーと、いいの? 通話をやめちゃって。相手が誰か知らないけど、あなたの命が危ないんじゃないの?」

「ああ、いいのいいの」


 戸惑う少女に、裕真は自分の事情をかいつまんで説明した。


 自分は「地球人」で、一度死んだところを冥王に生き返らせてもらった。そしてその代わりに邪神討伐を命令された、と。

 秘密にしろとは言われてたが、どうせ自分はもう終わりなのだし、どうでもいい。


「……それってつまり、逆らったら死ぬってことじゃない!?」

「まぁね、でもいいんだよ」


 ハハッと力なく笑いながら続けた。


「冥王の命令通り君を殺せば生き延びられるかもしれない……。でもそれが最後だとは思えない。これからも君みたいに罪の無い人を殺せ!って命じられるのは目に見えている」

「……でしょうね」

「ああ、そうさ。そんな胸糞悪い命令に従って生きるなんて、地獄と同じだ。死んだ方がマシってやつ」


 裕真は、冥王に従った場合の未来を想像してみた。

 邪神を倒し、ご褒美の百億円を手に入れ、ありとあらゆる贅沢を楽しむ自分。

 だが、ふとした時に思い出すのだ。自分が殺してきた罪なき人々の姿を……。

 そんな人生、全然豊かじゃないし、幸せでもない。


 ……などと物思いにふけっていると、壊したはずのスマホが、元通りの姿で宙に浮いていた!


 そして着信音を鳴らしながら、ゆっくりと近づいてくる……


 ちょっとしたホラーのような光景だったが、裕真はもう怯えなかった。

 冥王には従わない、あの世に送り返されても構わないと覚悟していたからだ。

 最後にもう一言ぐらい文句を言ってやろうと電話に出る。


「もしもし、いい加減に――」

「おめでとう、合格だ」


 意味不明な発言で先手を取られた。

 裕真はまたしても唖然とする。


「……はぁ?合格?」

「そう、合格だ。実はな、今までのやり取りは君の人柄を知る為の試験だったのだよ。悪しき心の者に神の力を与えたら大惨事だからな」


 試験? 試されていた? 旧約聖書のアブラハムのように?

 ……いや、あれは神様が止めなければ息子を生贄にしていたから、ちょっと違うか。


「君は(われ)の非道な命令を拒否し、少女を救った。君自身の命を賭けてな」

 

 ……呼び方が“貴様”から“君”に変わっている。声色まで妙に柔らかい。

 嘘くさい……。根拠は無いが、冥王の言葉に白々しさを感じた。そう、さっき自分が少女を逃そうとした時と同じように。


 だが裕真も本音を言えばまだ死にたくない。覚悟を決めはしたが、死なずに済むならそれに越したことはない。

 ここは冥王の話に乗っかることにした。


「なるほど、さっきの命令は俺を試す為の嘘で、本当はしてはいけないことだったんですね」

「もちろんだとも。我は冥府の法の番人だぞ?」

「つまり今後、罪も無い人を殺せ!なんて非人道的な命令はしないってことですよね?」

「もちろん」

「万が一、そういう命令されても、無視して良いですよね!?」

「……もちろんだとも、君の判断に任せるさ」


 最後は若干歯切れが悪かったが、とりあえず言質は取った。

 守るかどうかは怪しいが、その時は仕方ない。潔く死のう。



「了解しました、そういう事なら邪神討伐を続けます。次は何をすれば良いですか?」

「おお、そうか! 次は――」

 

 冥王が何か言いかけた時、なにか人の声のような雑音が混じった。


「……すまない、そろそろ仕事に戻らねばならん」

「え?」

「前に言ったと思うが、我はこのカンヴァスの死者を裁く仕事がある。なんとか時間を作って君と話していたのだが、そろそろ限界だ。貯まった裁きを片付けねばいかん」


 裁き? 地獄の閻魔様みたいなものだろうか?

 だとしたら、先ほどの雑音は部下が仕事を急かす声だったのかもしれない。


「仕事が片付き、次に連絡できるのは一週間後になる」


 えっ?と、またしても驚いてしまった。

 そこまで手が回らないほど忙しいのか、と。


「一週間も!? その間、俺は何をすれば良いんです?」

「宿にでも泊まれば良かろう。そのための路銀は渡したはずだ」


 確かに金銭面では問題ないだろう。無駄遣いしなければ。

 だが問題なのは金銭ではなく精神面だ。

 知り合いもいない異世界の街で一週間を過ごすなんて、心細いどころの話じゃなかった。

 ……いや、それ以前に裕真は、街が何処にあるかすら知らないのだ。


「あの、街は……」と訪ねかけたところで通話が切れた。

 かけ直そうにも番号は分からないし、通話履歴にも残っていない。つまりこちらから連絡は出来ないということだ……。


 今頃、貯まった仕事の消化を始めているのであろうか? だとしたら次の連絡が来るのは一週間後。それまで森の中で待機なんて無理だし、自力で街を見つけなければならない。


 そこで初期装備の中に地図があったことを思い出し、マジックバッグを探ろうとした時――


「あの、街に行くなら案内するわ」


 と、少女が申し出てくれた。耳が良い彼女は通話の内容も全部聞いていたのだ。


「え? いいの? 俺、君にめっちゃ迷惑かけたのに……」

「いいのよ。てゆーか、私のホーリーアンクを弁償してくれるって言ったじゃない」

「……あ、うん、そうだった。いやごめん、忘れてた訳じゃないんだ、ただ色々あって頭がいっぱいで――」


 しどろもどろの裕真に、少女はくすりと微笑んだ。

 それは花のように可憐で、野生の豹のように凛々しい笑顔だった。


「自己紹介がまだだったわね。私はイリス、イリス・アーチャー。『ハンター』をしているわ、よろしく」





【RESULT】 今回の成果、獲得物


 初期装備一式


 現地協力者 イリス・アーチャー


 冥王の命令への拒否権




 【 現在の所持魔道具 】


 ショックボルトの杖

  耐久力 2,000/3,000


 ショックボルトの杖(予備)

  耐久力 3,000/3,000


 シャドウボルトの杖

  耐久力     1/3,000


 シャドウボルトの杖(予備)

  耐久力 3,000/3,000


 ガードバングル

  耐久力 1,990/2,000


 マジックバッグ

  耐久力 2,900/3,000



 初めての現地協力者ゲットです。

 もしも命令通り抹殺していたら、しばらく森の中を彷徨うはめになってましたw


 ※ 23/12/24  所持魔道具の一覧を追加しました。 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ