第19話 初ダンジョンは死の香り 後編
なぜこんなものがここに? と訝しみつつも、不思議な眼鏡を拾い上げ、皆に見せる。
するとアニーが驚きの声を上げた。
「……あっ! それは!! 『スペクトラルグラス』!!」
「なにそれ?」
「通常は目に見えない霊的なもの……例えば『魔力』とか『呪い』を視認できるようにする魔道具です!!」
その言葉に、今度は裕真が驚いた。
「呪い!? それってまさか、ラビィくんの呪詛攻撃も!?」
「おそらく……。ただ、現物を見るのは私も初めてなので、絶対とは言えませんが」
スペクトラルグラスは希少で高価な魔道具なので、アニーもこれまで図鑑でしか見たことがなかったのだ。
裕真は思わず眼鏡を見つめ直す。
それは、自分が今まさに最も欲していた魔道具だった。
「そんなものが偶然落ちてるなんて! なんて幸運!!」
パッと顔を輝かす裕真。
だが、それとは対照的にイリスは眉間にしわを寄せ、警戒の色を浮かべた。
「いやいやいや……いくらなんでも都合が良すぎる……こんなの小説にしたら読者から総ツッコミよ!」
都合が良すぎる出来事には大抵裏がある。何者かの罠ではないかと疑った。
「なに言ってんだ。ここは魔法の研究所なんだから、こういうのがあっても不思議じゃないだろ?」
「そうです、考えすぎですよ。何かの罠だとしても、どんな意味があるんですか」
ラナンとアニーはイリスの疑念を一蹴した。
仮に誰かの罠だとしても、こちらは元々絶体絶命の状況なので、仕掛ける意味がない。逆に手助けだとしたら、正体を隠す意味がわからない。
「え……う〜ん……そうかな? そうかも……」
2人の反論にイリスは言葉に詰まった。よくよく考えると、自分も同じ結論に至ってしまったからだ。
黙って考え込むイリス。その間にも裕真は眼鏡を装備し、少し興奮気味に能力を発動させる。
「MP100! 《スペクトラルグラス》!」
すると壁の向こうに、いくつもの動く光点が現れた。
「なんか動く光が見える……これってもしかしてラビィくん?」
「なるほど! ありえますね!! ラビィくんはたっぷり魔力を蓄えてますから。なるほど、魔物の発見にも使えるのか……高価なのも納得です!」
アニーは少し勘違いをしていた。
壁の向こうの魔物が見えたのは、裕真が100MPも消費した成果であり、普通の魔力しか持たない一般人が使った場合、そこまで見通せない。なので図鑑には「魔物発見に使えます」と記されてなかったのだ。
それはさておき、このおかげで物陰からラビィくんに襲われるような事態は避けられる。作戦の成功率がぐっと上がった。
「じゃあ行ってくる。皆はここで隠れてて」
「うん、気を付けて。……ゴメンね、一番危険な役を押し付けて」
申し訳なさそうに言うイリスの顔は、どこか気弱で、普段の彼女とは違う印象を受ける。それを見た裕真の胸がちょっと痛くなり、思わず言葉を返す。
「気にすんな! そもそも邪神討伐は俺が受けた使命、危険な役目を引き受けるのは当然さ」
「は? 邪神?」
ラナンは怪訝な顔をして、裕真をじっと見つめる。
おっと、いけない。邪神討伐のことは彼女に内緒なのを忘れ、うっかり口にしてしまった。
裕真は動揺を悟られぬよう表情を引き締め、何事もなかったかのように部屋を出ていった。
◇ ◇ ◇
倉庫を出た裕真は、足音を立てないよう抜き足差し足忍び足で通路を歩いていた。
眼鏡のおかげでラビィくんに出会わないルートを選べたものの、問題は隠し部屋の前に広がる大広間だ。ここだけはどうしても避けて通ることができないのだが、数十体のラビィくんがたむろしている。
戦闘は避けられない。攻撃手段は足りているが、問題は防御だ。
呪詛攻撃を一発でも受けたら死ぬ。全てを躱さなければならない。現状は対抗手段を見つけただけで、危機的状況なのは変わらないのだ。
だが、それにもかかわらず、あまり恐怖を感じていない自分に気付いた。
これは自分が一度死んだ経験があるから……だろうか?
人が死を恐れる理由のひとつに、「死んだ後、どうなるのかが分からない」というのがある。人は未知のものを恐れるからだ。
しかし自分は死後の世界がどんなものかを……異世界の冥界だが、実際に体験したことがある。
それが今、恐怖を感じない理由なのかもしれない。などと考えながら、冷静に次の行動へ移った。
「MP100! 《ハヤブサの腕輪》! MP100! 《カモシカの靴》!」
魔道具を発動した。動体視力、反応速度、移動力が一気に上昇する。
そして勢いよく大広間に飛び込む。
空気がねっとりと絡みつくようだ。まるで水の中を進んでいるような感覚。
ラビィくんの動きが非常に遅く……まるで寝起きの亀の如くゆっくりに見える。これが、スポーツ選手が集中した時に見るという『ゾーン』というやつなのだろうか?
すかさず杖を構え、《ホーリーライト》を放つ。
まばゆい光が炸裂し、群れの半分が消し飛んだ。
生き残ったラビィくんの口から黒い塊が放たれる。もしやこれが今まで見えなかった呪詛攻撃……?
サッカーボールほどの黒い塊が数百発もこちらに向かってくる。速度は遅いが、数が多すぎて空間が埋め尽くされそうだった。
強化された動体視力で呪詛攻撃の隙間を見つけ出し、素早く身を捻って弾幕を潜り抜ける。
そして即座に反撃。《ホーリーライト》で全滅させた。
広間のラビィくんはすべて消えた。だが壁の向こうの光点が、この場所へ集まりつつあるのが見えた。
おそらく先ほどの戦闘を察知したのだろう。一刻も早くコアを壊してしまわなければ。
《ショックボルトの杖》を壁に向け、衝撃波を放つ。
壁は一瞬で崩れ、異様な物体が露わになった。
それは怪しい光を放つ銀色の球体で、無数の透明なチューブで繋がれたまま部屋の中央に浮いていた。
「これがダンジョン・コアか!? とりあえず壊す!!」
貴重なものらしいが、壊さず停止する方法が分からない。今は一刻を争う事態なので仕方ない。
再び衝撃波を放った。コアは激しい光を放ち、砕け散る。
すると、広間に集まってきたラビィくんたちが、苦しみもがき始めた。
コアから供給されていた魔力が絶たれ、パニックを起こしたのだ。
人間で例えるなら、いきなり水中に放り込まれるようなもの。酸欠ならぬ魔力欠乏症に陥ったのだ。
「これで弱体化したのか……? ちょっと試してみよう。MP1! 《ホーリーライト》!!」
すると数十体の群れがたちまち溶けていった。たったの1MPで。
「おお! 本当に弱くなってる!! よーし! この調子で残りも全滅させる!! 1匹でも逃がしたら、また『賞金首』になりかねない!!」
裕真は、今まで追い詰められていた鬱憤を晴らすように、怒涛の反撃を開始した。
◇ ◇ ◇
薄暗い倉庫の中、イリスは膝を抱えうずくまり、小さく震えていた。
裕真ただ1人に自分たちの命運を託さなければいけない状況に無力感とやるせなさを感じていた。
自分にもっと力があれば……と、悔しさに歯噛みする。
一方、アニーとラナンは鼻提灯を膨らませ居眠りしていた。
図太いと言うか、たくましいと言うか……。
などと考えていると、不意にガチャリと扉が開き、裕真がひょこりと顔を覗かせた。
「あらかた片付いた。……でも、見逃しもあるかもしれないから気を付けて」
あのあと裕真はダンジョンの隅々まで探索し、ラビィくんを片っ端から倒していったのだ。
おおよその数だが、千体はいた気がする。
こう言ってはなんだが、このダンジョンを最初に見つけたのが自分たちで良かった。
もし他のハンターだったら絶対に助からなかっただろう。
「ユーマ! 無事でよかった!!本当によかった……」
涙目で迎えるイリス。
「……あ、裕真さん! おかえりなさい! 無事返ってくると信じてました!」
「……お、おう! あんたならやれると思ってた!」
寝ぼけまなこで賛辞を贈るアニーとラナン。
そういう台詞は涎のあとを拭いてからにしてほしい。
「ごめんなさい……あなたばかり危険な目に遇わせて……」
「だから気にする事はないって。俺ははこういう時のためにチート貰ってるんだから」
赤く潤んだイリスの瞳に、裕真は胸が熱くなる。
こんなにも自分を心配してくれてる彼女に、激しく心が揺さぶられた。
「さっきから邪神だの、チートだの……あんたら いったい何を隠してるんだ?」
熱を帯びた空気を遮るように、ラナンがじりじりと裕真に詰め寄る。
「あ……うん、流石に説明した方が良いか」
この少女が邪教徒だとはとても思えないし、憶測で妙な噂を広められても困る。
正直にすべての事情を説明することにした。
・・・・・・・
「――という訳なんだけど、できれば言い触らさないで欲しい」
かくかくしかじかと説明を終え、裕真は一息つく。
ラナンは目を見開き、ぽかんと口を開けたまま固まっている。
やがて、その顔がみるみる赤く染まっていき――
「すげぇ! すげえすげえ!!」
興奮したように飛び跳ね、両手をバタバタと振り回す。
「神様から使命を授かったって本物の勇者じゃねぇか!! その神様があの冥王ってのが、ちょっとアレだけど!」
まるで子どものようにはしゃぐラナンの姿に、裕真は思わず口元を緩めた。
それにしても、冥王は人気がないようだ。
まぁ、あの三角木馬に跨っている姿を見て、崇めたいと思う者は少ないだろうし。
「俺もぜひ仲間に加えてくれよ!! そういう冒険がしたくてハンターになったんだ!!」
ラナンは満面の笑みを浮かべながら、勢いよく身を乗り出す。
ブンブンと腕を振り回し、その熱意をこれでもかとアピールする姿は、まるで今にも駆け出しそうな子犬のようだ。
「いいの? 命がけの冒険になるんだけど?」
「何を今さら! ダンジョン探索だって毎回命がけだよ! 相手が邪神に変わるだけさ」
「それもそうか……、いやっ! 危険度が段違いだぞ! 今回みたいなピンチに何度も遭遇するかも――」
「分かってるって! これからも『神器』を探すつもりなんだろ!? なら俺の力が必要なはずだ!!」
と、勢いよく言い切ったものの、次の言葉は少し控えめになる。
「……その、今回はあまり役に立てなかったけど」
ラナンの声が萎むように小さくなり、視線を落とす。
今回の探索では、自分の技術も経験もほとんど活かせなかったのを気にしているのだろう。
そんな彼女の様子に、裕真は思わず慌てて手を振った。
「あ、いや! そんなこと無い! コアのことを知らなかったらヤバかったし……。ぶっちゃけ俺は知らないこと、分からないことだらけだ。色々教えてくれる先生が増えるのは有り難い!」
裕真の言葉に、ラナンは一瞬ポカンとした後、ふっと頬を染めた。
照れくさそうに鼻をこすりながら、ちらりと裕真を見る。
「せ、先生って大袈裟な......! まぁ、つまりOKってことだな!? 今後ともよろしく!!」
こうして、トレジャーハンターのラナンが正式に仲間になった。
「あ、そういえば……神器の《どうぐぶくろ》は見つかりました?」
アニーの目に、期待と共に少しの困惑が浮かんでいるのを裕真は感じ取った。
一番の目的である神器が、まさか見つからなかったのか……という不安が籠った眼差しである。
その不安を払拭するように、裕真はふっと笑みを浮かべた。
「ああ、見つけた」
裕真は懐を弄り、少し得意げに、見つけた品をアニーに見せる。
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《どうぐぶくろ》
品質:神器 耐久力 ∞
MPが続く限り、いくらでもアイテムを詰め込める。
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「これが神器? ただの袋に見えるのですが……」
アニーはその品を見つめながら、どこか納得がいかないような表情を浮かべた。
その反応は当然だ。
《どうぐぶくろ》はその名に相応しい簡素な見た目で、一見して麻布の巾着袋にしか見えない。裕真もそう思った。
「間違いなく神器だよ」
裕真はそう言うと、袋の口を開け下に向けた。すると、瓦礫や廃材がドボドボとあふれ出し、あっという間に倉庫の一角がゴミで埋め尽くしてしまった。
「試しに1万MPぐらい使って色々詰め込んでみた。普通のマジックバッグならこんなに入らないだろ?」
「おお……」
言葉もなく、ただ目を見開いて呆然とするアニー。
ちなみに、取り出したゴミはほんの一部にすぎない。この十倍以上の量が、まだ袋に収められているのだ。
「それと、なんでコアと同じ部屋にあったのかも分かった。コアを壊したとき、その中から一緒に出てきたんだ。多分これを動力源として組み込んでたんじゃないかな?」
「神器をですか……。バチあたりなことしますねぇ」
神器は便利な魔道具である以上に、神々が地上に残した歴史遺産であり、重要文化財でもある。それを粗雑に扱えば、世界中の学者や神官を怒らせる。
ましてや薪や石炭のごとく燃料代わりにするなど言語道断である。
なので、コアに神器を組み込んでいることは秘匿されていて、一部の人間しか知らなかったのだと思われる。
冥王が情報を聞き出したという職員も、神器が存在することは知らされていたが、具体的に何に使われているかまでは知らなかったのだろう。
「だから賞金首級のやつが大量発生したのか」
「神々が神器を持ち出し禁止にした理由が分かったわ……日用品ひとつで、こんな大惨事になるんだから」
神器の恐ろしさを垣間見て、思わず深い溜息をついた。
「まぁ、これで悪霊がパワーアップしたのは分かるけど……なんでウサギの姿なんだろう?」
「ああ、それなら多分、これが原因ですよ」
そう言いながら、倉庫の奧に積まれた箱のひとつを開けた。
中には、以前裕真が上の草原で討伐したラビィくんが残したもの――『ラビィくん人形』がぎっしりと詰まっていた。
「うわっ!」
思わず飛び退いた裕真は、反射的に《ファイアボールの杖》を手に取り、焼き払おうとする。しかしアニーが慌てて彼の腕を押さえた。
「大丈夫ですよ! これは呪われていませんから!」
「……マジで?」
以前、裕真が見つけたラビィくん人形は呪われており、その場に放置したはずなのに、いつの間にか自分の袋に入り込んでいた。
盛大にビビッた裕真はギルドに駆け込み、除霊してもらった経緯がある。
「多分、ここに彷徨う霊魂が、この人形に憑依して魔物化したのが『ラビィくん』なんじゃないかな」
イリスの推測を聞いて、裕真は天井を仰ぐ。
そういえば、この上はかつて遊園地で、ラビィくんはそのマスコットキャラだった。
ここに放置された大量の人形に霊が取り憑き、魔物として実体化したから、コピペしたみたいに同じ姿をしていたのか。
それにしても、ここで彷徨う霊とは――?
「今まで倒してきたラビィくんって、実は犠牲になった子供の霊だったのかな……?」
胸の奥がざわつく。
この場所では、かつて攫われた子どもたちが人体実験の犠牲になったと聞いた。
そんな哀れな霊たちを、炎や雷撃で薙ぎ払ってしまった。
こちらも自分の命を守るためだったとはいえ、なんとも言えない後味の悪さを感じた。
「私達が気にすることはないわ。死者の魂の救済は冥王と冥界のお仕事だもの」
イリスは淡々と答えた。可哀想な霊とはいえ、人を襲う魔物と化したのなら討伐するのがハンターの仕事。必要以上に感情移入すれば、戦いの覚悟が鈍る。
しかし裕真はそこまで割り切ることは出来ず、胸にモヤモヤしたものが残った。
今はただ、冥王が死者を救ってくれることを祈るのみである。
「それで結局、『神器』以外のお宝は無しか? ……まぁ、最初に言われた通りだし、別に良いけど」
ラナンが頭の後ろで腕を組み、口を尖らせた。言葉とは裏腹に不満そうだ。
「いや、そんなこと無いよ」
裕真は袋から真っ赤な石を取り出す。それを見た瞬間、ラナンは目を見張り、驚きと興奮が顔に現れた。
「ラビィくんのドロップアイテムだ! 全部集めれば結構な額になるはず!!」
以前倒したラビィくんの魔石は、1個で3万マナ(約300万円)もの値がついた。
今回見つけた石も同じようなサイズだから、、それに近い額は期待できそうだ。
「おおっ! すげぇ!! やった〜!!!」
思わず小躍りして喜ぶラナン。皆も興奮が隠せない様子だ。
「回収は任せて下さい!!」
アニーは嬉々としてマイコニドの群れを召喚した。以前、オオネズミ回収で活躍した魔法である。
――2時間後――
回収終了。
裕真たちの目の前に魔石の山が積み上がった。その数はおよそ千個。
これを全て換金できれば、一気に大金持ちである。
沸き立つ一同だったが、ひとつ不安材料もあった。
それは――
[ラビィくん人形(呪われてる) ×1,000]
倉庫の人形とは違い、倒したラビィくんからドロップしたもの……悪霊の怨念がたっぷり染み付いた呪物である。
マイコニドたちは、それも拾い集めてしまったのだ。
「呪物まで拾ってきたの? ……まぁ、捨てていけば良いか」
イリスの判断は、ハンターとしては妥当だった。
自分たちには呪いを浄化するような技術はないし、焼いてしまえば解決、というほど呪いは生易しいものではない。放置するしか手がないのだ。
が、しかし、裕真はそれに異を唱えた。
「は? 何言ってるんだ! ちゃんと持ち帰らなきゃダメだろ! 知らずにここに来た人が呪われちゃうだろ!!」
「えっ!? いやいやいや……持ち帰ったら私達だって呪われるわよ!?」
イリスが困惑する中、裕真は自信有りげな笑みを浮かべた。
「大丈夫! その為の《どうぐぶくろ》だ!! 『神器』だから呪いぐらい平気だろ! 多分!!」
「そ……そうかな~」
得意げに袋を掲げる真。そんな彼を前にイリスの困惑はさらに深まる。
「いやいやいや! 多分じゃなくて、ちゃんと冥王様に確認とって下さいよ! まだMP残ってるでしょ!?」
「む……。それもそうだな」
アニーのツッコミに一理あると感じ、懐からスマホを取り出す。
裕真のMPはまだ68万以上残っている。
ダンジョンに入る前の『冥王コール』で30万MP、《どうぐぶくろ》の試運転で1万MP、そのほか戦闘などでは数千MPほど消費した。
つまり、あと6分ぐらいは会話できるわけで、袋の性能について尋ねるには十分な時間がある。
―― 冥王コール開始 ――
例によって、冥王の青白い顔がスマホの画面いっぱいに映される。
「どうだ、神器は見つかったか? 簡単だっただろう?」
簡単……?
冥王は地下施設の異変について何も知らないらしい。
どこが簡単ですか、死にかけましたよ……などと文句の一つも言いたいところだったが、1秒につき約1,666ものMPが消費されているためグッとこらえ、要点だけを伝えて質問する。
「ええ、見つけました。それでこの袋に呪物を入れても大丈夫ですか?」
「呪物だと? 愚問だな。神々が創った神器が人間の怨念ごときに負けるとでも?」
「おお、つまり問題ないと」
「無論だ。千でも二千でも好きなだけ詰めるがよい」
―― 冥王コール終了 ――
冥王のお墨付きを貰った裕真は、さっそく呪いの人形を収納することにした。
直接触れるのはヤバそうなので、袋の口を人形の山に近づけ、周囲の空気ごと吸い込む。
よし、これで呪物の被害に遭う人はいなくなるな――と、一安心。
……だがしかし、結論から言うと、それは間違いだった。
冥王は基本的に神々以外の存在を見下しており、人の怨念を甘く見ている。
それゆえ、呪いが実際にどのような影響を及ぼすかなど、冥王には測りかねぬのだが――
だが、そんなこと裕真が知るよしもない.
そして後々、誰もが想像していなかったとんでもない事態を引き起こすのだが……
それは、もう少し先のお話。