優しかった幼馴染の彼と優しい人になりたい私
続編希望の読者様が多かったため、考えて書いてみました。
ご期待に応える事が出来るかどうか不安ですが、お読み頂けると幸いです。
「おはよー、麻衣子!」
「おはよう。」
「どしたの?元気ない感じ?なんかあったの?」
「う、ううん。大丈夫だよ。」
「そう?何かあったら言ってね!」
「ありがとう。」
私の名前は井田麻衣子、高校二年生。
私には幼馴染の彼氏がいた。
斎藤圭太。幼稚園からの幼馴染。
最近別れたばかりだ。
別れた原因は私にある。
圭太とのデートの日、駅に向かう途中の公園で同い年くらいの男の子を見かけた。
落ち込んでいる様子だったので、思わず声を掛けた。
「あの、何かお困りですか?」
「…いえ、彼女に浮気されて…。」
「え?」
「あ、すいません、見ず知らずの子にこんな事…………。」
「いえ、良かったらお話聞かせてもらえますか?」
「いいんですか?」
「はい、人に話して楽になる事もありますよ?お話聞かせて下さい。」
「ありがとうございます!」
それから事情を聞いた。
「もう、俺なんか生きていたくない…。辛すぎて耐えられない…。」
どうしよう。どうにか元気にしてあげられないかな…。
あ、もうすぐ圭太との待ち合わせの時間だ。
圭太に連絡する。
圭太から返信があった。圭太も来てくれるらしい。
「私に何か出来ることないですか?」
「え?」
「何かあなたを元気付けられる事ありますか?」
「…………温もりが欲しい。彼女と触れ合っていた時凄く幸せだった。」
「温もり?えっと、どうすれば?」
「キスしてくれませんか?」
「えっ?そっ、それは…。」
「一回だけでいいんです!生きる気力が湧いてくる気がするんです!」
どうしよう。圭太とだってまだキス止まりなのに…………。
「…そうですよね、僕なんかとじゃ嫌ですよね。彼女に浮気されるような男ですから…。」
「あっ!そ、そうではなくて…。」
「いえ、無理しなくて大丈夫です。こんなんだから、浮気されるんですよね…………。」
「き、キスしたら元気出ますか?生きていたくないなんて言わないと約束してくれますか?」
「!は、はい!約束します!」
「わ、わかりました…。」
そうしてその男の子にキスをした。
キスをした瞬間、胸を触られた。
えっ?なんで?呆然としていると
「麻衣子!!!!!!!!」
圭太の叫び声が聞こえた。
圭太に事情を説明していると、いつの間にかその男の子は居なくなっていた。
「他人には優しいのに俺にはちっとも優しくないよな?」
「逆に俺を優先したことなんてあったか?」
「他人優先だよな?麻衣子は優しいから。」
自分の行動を思い返してみる。
そうだ、私はいつも他人優先だった。
心の中では圭太の事が一番大切なはずだった。
でも、行動ではいつも他人優先だった。
わ、たしは、間違っていた…………?
圭太は傷ついていた?私が傷つけていた?
圭太が私にとって他人よりも下なんだとずっと突き付けていた?
私が大切にしたかったのは…………。
後悔と罪悪感が押し寄せる。
圭太の顔が見れない。
結局別れを受け入れた。
もう…圭太と一緒に居られない…。
もう、圭太とお話も出来ない…………。
そう思うと立っていられなくなった。
声を上げて泣いてしまった。
もう…………戻れない…………。
圭太との出会いは幼稚園。
私は引っ込み思案で友達がいなかった。
そんな私に声を掛けてくれたのが圭太だった。
「ぼくといっしょにあそぼう?ひとりであそぶよりたのしいよ!」
「…うん。」
圭太は優しかった。
小学校に入ると、私は気が弱く、いじめの対象となった。
「やめろよ!ひどいことするなよ!」
圭太は強かった。
友達が作れず、遠足のバスの席決めで孤立している子がいれば、
「ぼくのとなりにしなよ!きっとたのしいよ!」
圭太は優しかった。
おばあさんが横断歩道をゆっくりと渡っていると、
「ぼくが、にもつ持つよ!まだしんごうはだいじょうぶ!」
圭太は優しかった。
圭太は優しかった。
圭太は優しかった。
私は圭太に憧れた。そして恋をした。
私も優しい人になりたい。圭太のような。
そうしたらきっと、圭太も私の事を好きになってくれる。
小学校5年生くらいの頃に、そう思い、人に優しくしようと行動した。
困っている人を見つけたら躊躇なく助けに入った。
友達からの相談や、お願いも率先して引き受けた。
そうしていると、引っ込み思案もなくなった。
人から感謝されると嬉しかった。
圭太に近付いていると実感できた。
でも、気がかりな事が一つあった。
圭太が人に優しくなくなった。
私がお願い事を引き受けた人たちと揉め事を起こすようになった。
どうして?あんなに優しかった圭太が?
度々私に注意してくるようになった。
私がいい様に使われてる?困っているんじゃなくて、面倒事を押し付けてるだけ?
そんな事ない!だってみんな凄く感謝してくれるんだよ?
中学2年生の時に圭太から告白された。
最近はあまり人に優しくはないけど、ずっと憧れていた圭太に告白され、即答でOKした。
圭太と一緒に過ごす時間は幸せだった。
だけど、一つだけ不満がある。
圭太は私が人助けするのをあまり良く思っていないことだ。
どうして?昔は圭太の方が優しかったくらいなのに。
そう思いながらも高校2年生まで付き合って来れた。
「麻衣子、今日は斎藤君と一緒じゃないの?」
友達が気付いてしまった。…隠せることじゃないか…。
「うん、圭太とは別れたの。」
「「えぇっ!!」」
「私が悪かったの。だからしょうがないの。」
「で、でも、すごくお似合いだったのに。」
…………そうかな?ホントにそうだったのかな?
「何か私達でも力になれない?」
「そうだぜ!俺たちの仲を取り持ってくれたのは井田さんなんだからさ!」
この2人は、女の子の方から恋愛相談を受けて、私が仲を取り持った形になる。
「ありがとう、心配してくれて。でも、大丈夫。」
「そ、そう?何でも言ってね?」
「うん。」
私がやっていたことは間違っていたのかもしれない。
でも、全部が全部間違っていたわけじゃない、と信じたい。
圭太と別れて一か月程が経った。
ある日、廊下を歩いていると、
「あ!井田さん!この間はごめんね?そして、ありがとね!」
!!!!この人…………あの公園の…………!
「おかげで元気をもらえたよ。それで、彼氏と別れたんだって?」
「どうして…………?同じ学校だったの?」
「俺も驚いたんだ。こんな偶然あるんだって。」
偶然…………?本当に?
「私の事知ってたの?」
「いや、本当に偶然だって!それでさ、彼氏と別れたんなら、俺とかどうかな?」
「え?何言ってるの?あなたとの事圭太に見られたから別れたんだよ?」
「だからだよ。責任は取らなきゃね。悪いことしたなって思ってるから。」
「…………あり得ないです。さよなら。」
私は騙されたんだろうか。騙されて、圭太と別れたの?そんなのって…………。
「ちょっと待てよ。キスした仲だろ?」
「!!!!!それはあなたが」
「いいからこっち来いよ!」
腕をつかまれ引き摺られるように空き教室に連れ込まれる。
怖い!!圭太!!!圭太!!!!
「せっかく防波堤が居なくなったんだから、楽しませてくれよ!」
「防波堤?何の事?」
「斎藤だよ。アイツが居たら井田を使えないだろ?」
「使うって…………。」
「色々してくれるだろ?困ってる人を放っておけないもんな?」
「…………やっぱり私の事知っててあんな事したんだ…。」
「そういう事!」
制服を無理やり脱がされる。イヤだ!!!!圭太!!!!
「おい!!!何やってんだ!!!!」
…………圭太?
「麻衣子、大丈夫?アンタ絶対許さないからね!!!」
「大丈夫か、井田さん!コイツは俺が押さえておく!先生呼んできてくれ!!」
「わかった!!待っててね!麻衣子!」
圭太じゃなかった。
空き教室に入ってきたのは私が仲を取り持った二人だった。
怖かった…………。
「斎藤と別れたって聞いた時から心配してたんだ。」
「えっ?」
「今までこういう事は斎藤がやってただろ?」
「え?…そうだったの?」
「そうだよ。井田さんを利用しようとしたヤツらに斎藤が睨みを利かせてた。知らなかった?」
知らなかった…………。
「いつかこんな奴が出てくるんじゃないかって心配してたんだ。彼女も。」
そうだったんだ…………。圭太の言う事を信じないで、私は私のしたい様にしてた。
圭太が守ってくれてた?
その後、私を襲った男は、退学となった。
そんな事はどうでもいい。
私は何のために優しくなろうとしたんだっけ?
圭太…………。
圭太に近付きたくて人に優しくしていたのに。
あんな男に付け込まれ、別れてしまった。
でも、それは切っ掛けに過ぎない。
私の優しさは圭太に向けるべきだった。
だけど、今回私を助けてくれた二人は、私の人助けの結果とも言える。
だから、私のやってきた事全てが間違っていたワケじゃない。
人助けをするのは悪くはない。でも、その優しさ以上の気持ちで圭太に接するべきだった。
恋人だったらそれが当たり前だったんだ。
いつからか手段が目的になってしまっていた。
そして、圭太は変わってなんかいなかった。
やっぱり圭太は優しかった。
ずっと私の事を守ってくれてた。
圭太は優しさを彼女である私に向けてくれていた。
私は気付くことが出来た。
まだ、間に合うんじゃないか。
今の私なら、圭太に相応しい彼女になれるんじゃないか?
ちゃんと謝ろう。今までの事を。
もう間違えたりなんかしない。
そう思ったら、じっとしていられなかった。
圭太!
圭太!!
外は暗くなっていたけど、私は圭太の家へと向かった。
圭太の家に向かっている途中で、前から二人歩いてくるのが見えた。
私と同じくらいの年の男女。
仲良さそうに腕を組んで見つめ合って歩いている。
圭太と付き合っていた時、あんな風にしたことあったかな…………。
あんな風にしたかったな…………。
街灯の下でその二人とすれ違う。
……圭、太と…………………
知らない女の子………。
圭太は女の子の方を向いていて、私には気付かなかった。
…………そう…………なんだね…………圭太。
もう、遅かったんだね…………。
「麻衣子ちゃーん、久しぶりだねぇ!!!」
「おいおい、可愛いじゃん!!こいつ好きにしていいのか?」
「おー、マジで可愛いな!ラッキー!!」
横付けされた車から三人の男が降りてくる。
え?この人…………。私を襲おうとして退学になった…………。
「お前のせいで俺の人生滅茶苦茶じゃねーか!!」
「そ、それはあなたが」
「どうしてくれんだよ!責任取ってもらおうか!!」
「いいから早く車に乗っけちまえよ!!」
「オラ!!乗れ!!」
「イヤ!!!!!はなして!!!!!」
「静かにしろってんだ!!!」
「おい!モタモタすんな!!」
「やだ!!!!助けて!!!!!」
「おい!!!!!!!!!!何やってんだ!!!!!」
「あ?テメェ!!斎藤?!!!!」
ドゴッ!!!!!!!
「ぐえっ!!」
私の腕を掴んでいた手が放れる。
「圭太!!!警察に通報したよ!!」
「おう!!サンキュな!」
「な!おい!逃げるぞ!」
「早く車出せ!」
三人は逃げて行った。
「大丈夫か?麻衣子。」
「…………圭太、どうして?」
「すれ違った時は麻衣子だとわからなかったけど、女の横をノロノロ走ってる車に気付いたんだ、恭子が。」
「恭子?」
「あ!あたしです!初めまして!」
「あ、は、初めまして。あの」
「恭子はさ、麻衣子と別れて落ち込んでた俺を励ましてくれたんだ。」
「結構な落ち込み具合だったからねー。何て声かけていいかわからなかったくらい。」
「言うなよ。…まぁ、その…それで今は付き合ってる。」
「そ、そう。」
「あの女の人が危ないかもしれないって、恭子が言ったから戻ってきたんだ。」
「だって、すっごく怪しかったからさ。」
「あ、ありがとうございました!ホントに助かりました…………。」
その後、警察が来て、警察署で事情を聴かれ、解放された。
「圭太!麻衣子さんを送って行ってあげなよ!ちゃんと話してきなよ。」
「いいのか?」
「うん!圭太を信じてるし、力になってあげて?」
そう言われ、先ずは恭子さんを送り、圭太と二人で帰り道を歩く。
私を騙した人の事も、圭太と別れた後の事も話した。
「…恭子さんは優しい?」
「…ああ。俺はそう思う。」
「…そっか。……………圭太、今までごめんね?私色々間違えた。」
「うん。」
「私はね?圭太みたいになりたかった。優しい、圭太みたいに。」
「俺みたいに?」
「そう。小学校の頃から優しい圭太が好きだったから…。圭太に近付きたくて。」
「うん。」
「それで圭太と付き合えたのに、圭太を大切に出来なかった。」
「うん。」
「圭太が優しくなくなったと思って、ムキになってた。」
「うん。」
「だけど、圭太はやっぱり優しかった。ずっと私を守ってくれてたんだね。」
「あぁ、俺はそのつもりだった。」
「うん。なのに私は気付かないで、圭太をずっと傷つけてた。」
「うん。」
「私にとって圭太より他の人の方が大切なんだってずっと突き付けてた。」
「ああ。」
「ごめんね?いっぱい傷つけた。」
「それは、もういい。だけど、別れた理由はそこじゃない。」
「え?そこじゃない?」
「ああ。別れたのは、麻衣子が自分の事を大切にしてなかったから。」
「!!」
「俺がどんなに頑張っても、麻衣子が自分を粗末に扱ったら全部無駄になる。」
「…そう、だね。」
「俺が麻衣子と付き合ってた時にずっと言いたかった事だ。その頃こんな事言っても多分聞かなかったろ?」
「…多分。反論してたかも。」
「だろ?……人に優しくするにはさ、まず自分を大切にする。次に身近な人を大切にする。」
「うん。」
「で、それが出来て初めて他人に優しく出来るんだと思う。」
「…………そうだね。私わかってなかったね。」
「わかれば、本当の意味で優しい人になれるよ、麻衣子なら。」
「…そう、かな?」
「ああ、俺はそう思う。」
「…うん、頑張ってみる。」
「…頑張れ。」
そう言って私を家まで送ってくれた。
家の前で圭太の後ろ姿を見続けた。
圭太は振り向かなかった。
涙で圭太の姿が良く見えない。
…………さようなら、圭太。
……………今までありがとう、圭太。
ーーーーーーあなたは私の憧れでしたーーーーーー
最後までお読み頂きありがとうございます。
作者が納得できるエンドがこれでした。
ガッカリした方がいらっしゃいましたら申し訳ありません。