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女王の惑星(ほし)  作者: 現王園レイ
◆Secret 04◆ 別れの再会
25/30

024   α-バトリク

 

「エネルギー値が上がってきてますね」

「この周辺の磁気嵐は凄まじいようだな。ぜひ現場に行ってみたかったものだ」

 スタウト基地で、デジレが巨大なモニターを眺めて満足そうに笑う。

「だが、ここには大事なモノがあるから仕方の無いことだ。赤ん坊の周波数とも完全一致は見るまでもない。さすがに母なる惑星だよ」

 出現した惑星周辺に展開していた探査機が、磁気嵐に巻き込まれてしまった。

 厳戒態勢で待機していた艦隊は、後退をかけて安全圏に退避した。

 天体は徐々に形を整えて実体を現し始めている。

 さすがにメディアを完全にシャットアウトできなかったため、アッペリウ星系全土に映像が配信され始めていた。

 特にヤノでは真正面で見えないために、より関心が高いようだ。同じ軌道にある天体の正体がどのようなものか、この壮大なショーを見ないわけには行かないだろう。

「母なる惑星ですが……」

「君は知らんのかね」

 若者研究者は照れ笑いをする。

「こういう研究にでも携わらないと、こんな話なんて聞けませんよ。それでもドクター・デジレの知識に比べたら、まだまだ……」

「―――物事は、森羅万象全ての面から考えねばならん。一つの情報と一つの固定観念で思考することは、ただの偏執狂しか生まんのだ。疑ってかかってもいいが、途中で妥協せねばいつまでも停滞したままだ。多くを抱え込めば荷が重くなって頼らざるを得なくなる。そうした依存心を取り払うために、私はこれでも色々と棄ててきたのだけれどね」

「それでご家族もですか……あ、ええと」

「ん?構わん。何しろ人類に彼女が必要である以上に、私も彼女が必要だからな。私は欲しいものを得たのか、それともとり憑かれたのか、分からないが」

「その彼女と、この惑星『α‐バトリク』は、どういう関係なんでしょう?」

 若者の問いに、デジレはモニターから視線を動かすことなく暫く黙っていたが、思考の整理でもついたか、口を開く。

「―――七百年前に、内戦があった。それは知っているな」

「はい」

「あれは、人類の存亡を賭けた大戦だった。何故ならアッペリウ星系の人間はその殆どが死に掛けていたからだ。戦った相手は、この星系に我々より先に住んでいた先住民だったのだ。ヤノ人になるまえの移民が入植してきたとき、彼らは既にバトリクとヤノに居住していた―――」

 そこへ大量に移住してきた人間が、恵まれた環境のもと大いに人口を増やしたのである。

 国家として体を成すには、異質なものは時として排除される。

 寛大な意思により存在の自由を許されても、結局は意図せずとも同化は自然発生するのだ。

 しかしその同化は、先住民に拒絶された。理由は入植者の欠陥である。

 文明や文化、遺伝子の優劣をつけたわけではない。しかし本能はそれを知る。

 根本に潜む病理の臭い―――

「それは長い年月をかけて、徐々に進行していたから、新ヤノ人としても焦っていただろうよ。バトリク人としてはそれが嫌だと同族結婚しかしなかった。しかし、どの時代も研究者はいる。それが薄汚(マッド)科学者(サイエンティスト)だとしてもね」

「―――つまり、掛け合わせたのですか」

「そういうことだ。異種配合。もともとはるかな太古の人類と発祥は同じくしているから、多少の問題は抱えていても受精は成功する。ところが、それが期待以上の大成功を収めてしまったらどうするかね」

「私が為政者なら、同化を政策化しますね。政治的にもそれは大いに意義のあるものですから」

「そうだ。我々の欠陥が修復されることが発見されると、それはアングラで進められることになったのだ」

「表立っては……無理ですし」

「表立って、嫌がられていたら仕方あるまい。全ては犯罪認定されるだろうよ」

「すると、我々は犯罪者の子孫と言う事に」

「そのせいか、業が深いのだろう。その償いをいつどこで払うべきかは知る由もないがね?」

「その犯罪は成功したと思っていいのですか?」

「いや……」

「失敗ですか?」

「―――厳密に言えば失敗だった」

 フーっと鼻から息を吹く。

 あたかも今見てきたかのような感じだ。

「それじゃ、犯罪者な上に失敗作品なんですか……」

 なにやらワケもなく落胆してしまいそうだったので、その若者の背中を軽く叩いて宥める。

「そう落ち込むんじゃない。いちいち落ち込んでたら、我々は本当に滅びてしまうぞ。……まぁそれも一興ではあるが、本脳が許してくれんがね」

「その失敗の原因って何です」

「一代しか持たなかったのだ」

「一代?」

「バトリク人と新ヤノ人の混血により遺伝子欠陥を補うことは出来たが、それは一世代だけだった、と言うことさ。つまり後代まで期待できるものじゃ無かったってことだ」

「どんどん病み衰えていきますね、ご先祖様」

「困ったものだね。だから相当焦ったんだと思うがね。―――そこで研究も同化政策も迷走する。しかし混血が進むにつれて、実はバトリク人たちも深刻な問題を抱えていることが判明した」

「え? それまで分からなかったんですか?」

「かなり閉鎖的な人種だったそうだから、あまりいざこざも起こさないようにと、気を遣ってたんだだろうよ。腫れ物に触るように、何しろ先にそこに居たってだけで遠慮してしまったりするだろう?」

「ええ、まぁ」

「うまくだまくらかして混血をしたもんだと、感心してしまうものさ」

「気をつけます」

「君は、もうすこし騙されて勉強したほうがいい、リョーコくん」

「そんな……」

「賢者は歴史に学ぶとは言うがね……愚者でも賢者でも、自分で得たものでないと分からんのさ……」

「はぁ」

「とは言っても、賢者は一つの経験を元に十を聞いて識る、だがね」

「じゃあ愚者はリピーターってことで」

「そういうことだ。これはエネルギーの燃費にも応用できるな。あとでちょっと考えておこう」

 真剣な話の途中でネタを思いついてしまったデジレは、学者らしくそれをメモにとった。

「―――で、続きなんですが」

「ん? どこまでだったかな」

「バトリク人の欠陥まで」

「ああ……、それで、バトリク人にも生命危機が訪れるような遺伝子欠陥があるのに、回復している人たちが多かった。自分達は病んでいくのに、文明や産業までも衰えていくのに、バトリク人の生命力は何処から湧いてくるのかと」

「源泉があるんでしょうねぇ」

「その通りだ。生命の泉がね。それも発見してしまった。と言うより時間の問題だった。安定した人口を保っていたバトリク人は数の増減が殆ど無い。しかし新ヤノ人は移民で開拓者だから人手も必要で爆発的に増えていた。次第に大人しいバトリク人たちは、自分達が住んでいたバトリクにだけに集まるようになり、ヤノと同じ軌道上にありながら境界線を設けて、交易を行っていたのだ」

「少数民族の典型的な例ですね」

「いつの時代も、どこでも同じものさ。そして新ヤノ人は気がつく。文化の違いはあっても文明に大差が無いのに、なぜ彼らは人類の危機を寸前で回避できているのか、とね」

「それはいつの話です?」

「今から八百年ほど前だろう」

「戦争直前じゃないですか」

「そうだよ。それで戦争が起きたんだから」





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