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女王の惑星(ほし)  作者: 現王園レイ
◆Secret 03◆ ざわめき
18/30

017   今のあなたは


 ドカドカと音がして、いつも一定のスピードでしか開かないドアが随分速く開いた、と思った。

 それだけジョットが勢いよく飛び込んできたからだ。

「ジョット軍曹、なんだね」

「キアラ様が、いなくなりました」

 ダニロバは動揺した。

「なに?」

「今しがた『城』から連絡がありまして、交代のものが」

「一ヶ月も間を置かずに、四度目だぞ!」

「ただいま捜索隊を編成して出動準備に」

「何てことだ!」

 上着を椅子から引っ張って袖を通し、モールレ司令に連絡するよう秘書官に命じた。

 時間は夜も更けて繁華街が人で賑わしくなる頃。

 山陰から遠くに、タウンの光が明るく見えるスタウト基地は、密かに俄かに忙しくなった。

 可能な限りの人数とアンドロイドを動員して、サイボーグ犬と共に森へと捜索に入る。

 上空にも数人が乗り込める滞空装甲機を飛ばして、森をスキャンさせることにした。

 そうして基地周辺を彼らに任せながら、ジョットとダニロバは、前回の騒動の件から想定して、タウンの方向へと道を辿りながら出動することになった。

「いいか! この少女を何一つ怪我無く保護することが最優先である! 彼女に関し、危害を加えようとするものがいたらスタンガンで捕獲しろ! なるべくなら血も死人も出ないようにしなければならないが、万が一、死者が出てもそれは仕方が無い!」

 キアラ最優先―――

 危険な目に遭うくらいなら誰かが死んだほうがマシと言う、どのような事態においても彼女は最高の重要人物である。

 どんな事があっても、身柄を確保せねばならない。

 ダニロバが先頭のエア・モーターに乗り込むと、隊列は周囲を警戒スキャンしながら動き出した。

「―――このところ体調が優れないと聞いているが?」

「はい。出産後の肥立ちが悪いのか、ほぼ毎日下血があって貧血気味だとは思うのですが、あまり物を口にしないようで……最近は殆ど横になってお休みになっていました」

「それでよく今夜は出ようと言う気になったな。……結局、彼女がどんなマジックを使って脱出したのか、まったく対処できずに徒労に終わっているわけか」

「IDカードを携帯していないようです。これでどこかに倒れられたら……」

「そういや、デジレの姿が見えなかった。別の医者が乗り込んでいた」

「最近のドクター・デジレは、赤ん坊に付きっ切りになってるか、宇宙港の軍に頻繁に連絡を取っているか、どちらかです。彼としてはキアラ様を見切ったのかもしれません」

「主治医の仕事を放棄したか。これだから研究者は冷血なのだ。しかし己の関心の赴くままでなくては学者も成り立たんからな」

 前の座席に座っていた士官が、アタッシュケースを膝に置いて片側を開く。

 スイッチに触れると立体ビジョンが起ち上がって、タウンが小さな陽炎のように揺らめいた。

「まだ、動いた様子は無いか」

「外に出た形跡はありません。スパイ・アイを飛ばしますか?」

「それが確実だろう。二機だ、彼に付けておけ」

「了解」

 士官は口元のマイクで、小型カメラを搭載したロボットを飛ばすように指示を出す。

「例の少年かね」

「そうです。“タグ”を打ち込んで(インプラント)ありますので、スパイ・アイも直ぐに行けるでしょう。それから……IDもチェックしてあるので、使用した場所が赤く点滅するようにしてあります」

「つまり、彼女はそこに行くと踏んでいるのだな?」

「接触する可能性を考えれば、彼に会うとしか。今のところそれしか理由がありません」

 ジョットは繰り返した。

「今のところは」

 そう強調して言ってはみたが、それはジョットの直感とは少し違う見解だった。

 少年と会う。

 仮に会わなくても、キアラには他の理由もある。

 それが何なのか、ジョットはダニロバにははっきりと言えなかった。



 基地では、四角い顔をグイと上げると、デジレがモールレ准将に進言した。

「別に捜索隊を出すほうがよい」

 半ば越権行為のようなセリフである。

「なんだと」

「彼女は『自然(ナチュラル)』ではなくて『超自然(スーパーナチュラル)』なのです。この惑星そのものなのですよ。だから地上の情報だけでは彼女を取り戻すことは出来ません。話は付けてありますから、航路管理宇宙港からこの島の監視をしてもらうしかない」

「先日聞いた“周波数の同期(シンクロ・ウェイブ)”のことか?」

「そうです。モールレ司令、彼女がいったい何処から来て、ここで何をしているかは、歴史をご存知なら理解は早いですよね?」

「勿論だ。私もその恩恵に預かっているのは間違いない事実だからな。しかしダニロバ大尉たちが出ているのに、彼らだけでは駄目だとはどういうことだ」

「簡単ですよ」デジレは目の前の小男を見下ろしながら、軽く言ってのけた。

「彼らは“周波数”の話を知らないだけのこと」

「あれだけ彼女の傍に居ながら、なんら情報を有していないというのか」

「身近に居すぎるから、秘する必要があると。それに―――」

 少しだけ言いよどんだので、モールレは黙って次の言を待つ。

「それにですね、どうせなら宇宙港のほうが中間点に位置しているから、現状を把握しやすいと思うのです。なにしろ…アレ……あの亡霊の噂が口の端に上がっているとなれば」

 モールレの顔に鋭い緊張が走った。

 それだけで基地司令たる彼には、どれほど重要なことか理解できたのである。

「彼女が脱走した以上に、はるかに重い事件になったと言うことか。―――それで情報収集の」

 一旦、言葉を切った。「これは貴殿に聞くことではないかも知れんが、一つ訊ねてみよう」

「結構ですが、私に判断はさせないで下さい」

「当然だ。オブザーバーの意見だからな。―――戦争は起きるのか?」

「戦争は終わっていると宣伝しています」

「終わった事を聞いてはおらんぞ」

「時間が経ちすぎて判断材料に欠けています」

「よし、しかし可能性として動きは」

「第一惑星と第三惑星から艦隊の一部が、その空域に展開しつつあるとだけ」

 そこまでだった。

 モールレはやおら手元の通信機に触れると、自ら別働隊の命令を下したのである。

 基地内に残っていた一つの部隊は、ジョットたちが持っている追跡装置と同じ装備を換装、そして警官のグレーの制服に着替えて密かに基地を出て行った。

 そこにはベテランのデ・パロ中佐が据え付られ、デジレは赤ん坊の傍に居ると言って残ることにはなったが、情報はリアルタイムで回収できるように準備を整えたのである。

 モールレも全く知らなかったわけではない。

 デジレが自分の研究に絡めて黙っていても、これほどに大きな動きがあれば外から働きかけがあるのだから、薄々と臭いは嗅ぎつけていたのだ。

 だから反応は早かったのだろう。

 作戦行動の途中、ジョットやダニロバとの合流も示唆しながら、モールレ基地司令は「上」への報告も怠らなかった。

 有り得る事態ではあったが、これが今後の『全軍待機』になる大事おおごとになるとは知る由もなかった。




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