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女王の惑星(ほし)  作者: 現王園レイ
◆Secret 02◆ 徴(しるし)
10/30

010   [SCENE1]宙と大地の狭間

 ヤノ星上空の宇宙に浮かぶ、宇宙航路管理港。

 いましがたドッキングしていた地上降下をしない大型船が、乗り換えの客を降ろして離れたばかりである。

『第四惑星からの貨物船687が十五分後にラインFにドッキングします。スタッフは隔壁内へ退避してください―――』

 管制官のよく通る声が響いた。

 窓からも見えるアームは格納せずに、船をいつでも捕まえられるよう広げてある。

 誘導灯がレール状に数キロの長さで点灯され、牽引レーザーが照射されるまでゆっくりと暗い宙空に点滅していた。

 港は中継点の一つとして、宇宙船がひっきりなしに付いては離れ、離れては付く。

 筒のような胴体に、幾つもの平たい串を刺したような形状のドッキング・ゲートを備えたこの大きな施設は、一つの都市のように建造されているために、宿泊やショッピングは当然、中継港はしご観光ツアーが組まれることもある。

 この宇宙港に勤務する職員は、そういう快適さも相まって家族ごと引っ越してくるそうだから、さぞかし居住に優れた環境なのだろう。

 その華やかな面もあれば、その裏には地味に下支えをする影もある。

 宇宙港の下部は、倉庫になっていた。

 倉庫とは総称であるが、実際のところは水分再処理や様々な廃棄物を溜め込む施設もあって、あまり人が好んで行くところではない。ただ、それらに隣接しているブロックには貨物が入るために、荷役のロボットと、時々人間が降りたりもする。

 慢性的に人員ロボット不足と言うのも相まって、管制官の真知村(まちむら)もそこで汗だくで動いていることもあるのだった。

「―――今度の休みはどうしますか?」

 などと急に言われて、危うく入力タッチを間違える瞬間だった。

「休みぃ? 無いよそんなん」

 俯いたまま返す。

「またまた。お子さんが足元で待ってますよ」

 足元とは彼らの足の下、つまり地上のことである。

「いやぁ、そんな暇無いから」

「でもここんとこ、ずっと残業と副業多いでしょ、真知村さん過労で倒られたら私も困りますし」

「困ってんのおたくだけじゃないの」

 まさかぁ、と笑うと資材の入った荷物を抱えたまま、彼女は倉庫から出て行った。

 この宇宙港が宇宙港たる所以(ゆえん)の巨大な倉庫で、荷物の検査(チェック)をしていたのだが、最後の一隻分が終わりそうなので、これで切り上げようとしているところだ。

「―――おい、そこの、そのロボット。そうそう、これを転送しておいてくれ」

 抱えていたボードを、荷揚げをしていたロボットに差し込んで、倉庫のチェックデータを取り込ませた。

「ラインGの7番ゲートにジャンク屋が入るぞ!」

「Gラインってドッグだぞ! デブリ回収の途中でなにやらかしたんだ!」

「知らねぇよ! 船殻に開いた穴にジャンク突っ込んどけ!」

向こうで大声を上げるスタッフを見やって、俺はこれから何も見ないで帰るからな、とロボットに話しかける。

『お疲れサマデス』

 人間の仕草を真似て手を上げた。

「じゃな」

 半ば強引に職場を放棄するが如く、瑞口は倉庫の扉の外へと出た。

 水分がほしかったので、休憩を取りに『社員食堂』に向かう。

 そこにはいっぱしに観葉植物が置かれ、人工太陽光のサン・デッキが備え付けられてはいたが、どう見てもプロのセンスではなく、歴代職員の涙ぐましい努力の痕跡でしかないちぐはぐな構成であった。

 これでも少しは疲れを癒そうとの心遣いであるので、誰も大々的な改造は行っていない。

 その隅にソファのコーナーがあり、誰もいないのをいい事に、カップに入った氷水を手にしたままだらしなく腰を下ろした。

「うぁーっ、疲れたぁ」

 テーブルにカップを置いて、寝転がるように全身を伸ばす。

「部屋に戻って、風呂入って、ビール飲んで、寝るぞ」

 その前にメシだメシ!

 首を左右に振りながらストレッチで体をほぐしていると、誰かが食堂に入ってくる音がした。

「あっ、真知村さんお疲れ様です」

 奥にいたにも関わらず、目ざとく真知村を見つけて挨拶をしてくる。

「……よう。疲れたよ」

「あれ、今日は管制室にいなかったじゃないですか」

「ずっと倉庫で手伝ってた」

「えーそりゃまた難儀な。管制官がなにしてるんですか」

「お前らだって管制室慣れたら来るんだぞ、ここの伝統だ。それからいいか、俺は、休む」

「そんなに力まなくたって、休んじゃって下さいよ」

「そうします……って、くっそ、休んでやる」

 そうして軽口を叩く職場の後輩たちも、なぜかソファに溜まって雑談を始めた。

 その雑音を子守唄代わりに居眠りでもしようかと思って、腕組みをし壁に寄りかかろうと構えたときである。

「―――その周波数なんだけどさ」

「何人かの船長から聞いてるんなら、事実だろうけど」

「管制室でも計測したほうがいいと思うか?」

「……記録データは貰ってあるよ」

 ここ三日ばかり倉庫に詰めていた真知村には、得体の知れない情報であった。

 これは聞かずにはいられない。途端に目が覚めてしまった。

「なんだ、周波数って」

 二人の後輩がちょっと驚いたように振り返ったが、すぐに説明を始める。

「休み明けにでも聞くかと思ってたんですが……実はここ何日か、不思議な周波数が計測されているという話を、幾つか耳にしまして」

「なんだ、その周波数って」

「いや、話だけですよ」

「構わんよ。誰から聞いたんだ?」

「幾人かのオペレーターとか船長です。彼らが下船した時にたまたま話が出たんです。同じような内容を言うんで、管制でも調べたほうがいいのかと思って」

「それは何処から発振されたものか分かるか」

「特定できないと言ってました。定まった方向からではなく、複数の方向から大きく緩やかに干渉してくるような感じでやってくると」

「……なるほど」

「それで、暇を見ながらドッキングする船にそれとなく訊ねるんですが、周波数自体も安定的ではないのか、数種類検出されることも判明してます」

「いつ頃からか分かるか?」

「そうですね……ええと、いつだったっけ」

 すぐに答えられなかったので、もう一人の方に援けを求めた。

「二週間か三週間ほど前だと思います。それ以前にもあったようですが、この期間が一番顕著に」

「ふーん……これはちょっと考えたほうがいいかな」

「重大なことにならなければいいんですが……」

「そうだな、これは俺も参加してみるわ。アンテナを三本くらいジャックしたら間に合うかな?」

「三本って……大きいのだったりしたら、港のアンテナ全部ですよ」

「冗談です」

 そして怪情報を仕入れた真知村は、それじゃと言って立つと水を一気に飲んだ。

 多少(むせ)んだが、何事も無かったように空のカップをゴミ箱に放り投げ、『社員食堂』を出て行く。

(得体の知れない周波数か……)

 もしかしたらどっかの未知の星が出してる電波かもしれないし、或いは誰かが変なのを発明したのかもしれないし、この広大な宇宙なにが起きてもおかしくは無いのだから、面白そうだったが当面は気にしなくてもいいかもしれない。

 体も頭も疲れていると、ついつい面倒くさがりになってしまう。

(いかんなー……せっかく若い連中がやってくれたのに、放ってもおけんし……)

 倉庫の上階層デッキを歩きながら、漆黒の宇宙空間と紺碧の母星の境目をぼんやりと眺め、それから二日の休暇をとるために、管制室へ申請しに向かった。

 たぶん二日とも食う・寝る、食う・寝るの繰り返しになるとは思うので、働き盛りの頭をムダに停滞させないよう、若い管制官が取っておいてくれてる周波数とやらのデータも持って帰宅することにした。

 それから、倉庫に検疫用ロボットと人員を増やすように、宇宙港管理局へ文句を言ってやろうと思いついた。

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