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7/12

Dragon play

「拓海ー!じゃじゃーん!!」

 

現在時刻 9月下旬

 

「おーすごいな」

 

ドラコが帰宅していきなり学校のテストを見せてきた。算数、理科、社会の3教科で全てが100点と赤字で書かれている。

 

「全部百点なんて小学校でも相当運が無いとできないのに。よく頑張ったな」

 

「へへへー。でしょでしょ!!」

 

俺が褒めると彼女は自慢気に胸を張る。その笑顔に1ヶ月の文化的な生活を知らない竜の面影はもう無い。それはまさにただの、普通の、一般的な女の子だ。

 

……少々世話好きで、ぶっちぎりで頭がいい事にはまだ慣れないが。

 

「先生からもいっぱい褒められたんだよ。『お前この公式どこで覚えてきた』とか『文章題は日本語で書きましょう』とか!!」

 

「ああ、それでこの前お前の連絡帳に『外国語を使いたいなら和訳しやすいようにドイツ語ではなく英語を使ってください』ってあったのか。もう止めとけよ」

 

「うん!!点はくれたけどスラングが入り気味でめっちゃ怒られたから止める!!」

 

話も済んだことだし俺もドラコにアレを伝えないと……

 

「ね、ねぇ……」

 

ドラコに引き止められた。

 

「拓海……」

 

引き止められたはいいが、ドラコは特に何をするでも無く珍しく恥ずかしそうにしながら何かを言おうとしては続けられずに言い淀んでいる。

 

「どうした?」

 

「ほ、ほら。テストでいい点取ったしさ……なんかこう……無いの?」

 

「お前から何か頼まれた覚えなんて……ああっ!!そうゆう事か」

 

「(そうそう!!恋愛モノでおなじみのギュッて抱きしめたりとか優しく頭をなでたりとか……友達の漫画みたいにこうゆう分かりやすくあざとくすればよかったんだ。拓海は女の子は女の子らしくってのが好みだからきっと分かってくれたんだ。もっと早く気付けば良かったー……て、あれ?)」

 

確かアレは冷蔵庫に貼ってある筈だ。俺は茶色の封筒を取ってきて彼女の目の前でその中身を出した。

 

「……これは」

 

「前お前検索履歴消し忘れてただろ。たまたまそこを覗いた時にやたらレジャー施設とかがあったから頑張ってみたんだ。これはご褒美のつもりじゃあ無かったんだが……

 

今回はそこでドラコに主導権を渡すから大体何でもしていいぞ、それがご褒美だ。」

 

俺がドラコに見せたそれは

 

遊園地のペアチケットだ。

 

「………」

 

「………ドラコ?なんか反応がうs

 

「やったあぁぁぁぁぁぁあ!!(思ってたんと違うけどこれはこれで予想以上でうれしー!!)」

 

……もはや語るまでも無い。彼が知る由もないがドラコが調べたレジャー施設は一般的にデートスポットと呼称される所である。

 

詰まる所……

 

ーーー

現在時刻 週末 朝

 

現在位置 遊園地

 

「遊園地なんて久しぶりだ。もう厨房以来になるな(しっかし、懸賞で遊園地のチケットって当たるもんなんだ。都市伝説か何かだと思ってた)」

 

「うわー……夢にまで見た光景だ。キラキラして……可愛くて……楽しそう!!(拓海とデート拓海とデート拓海とデート拓海とデート拓海とデート……ぐへへ……)」

 

……双方に重大な認識の違いはあるものの彼らは遊園地へと訪れた。

 

俺達が来た遊園地はそこそこ最近できた新しめの所で、休日を楽しく過ごす家族連れやカップルが多く見える。俺達もそこに紛れて兄弟、もしくは親子……それか事案に思われていそうだ。

 

「で、こういう所って初めてなんだけど最初ってどこが良いの?」

 

「知らね?俺も来たことはあるけどそこまで多くないからな。それに今日はお前がすべて決めるんだぞ」

 

「じゃーあー……この地マップに一番人気って書いてあるジェットコースターで!!(初手絶叫系は拓海にはキツイかな?私は竜だから多分平気だけど……でも怯える拓海も可愛いと思うし、いっか!!)」

 

ジェットコースターか。ここの目玉であり最高速度時速150km/hの恐怖的とスピード感が売りらしい。調べた所でよく分からない。しかし絶叫系は好んでは乗らなかったからこの機会にも乗ってみよう。

 

地図をみながら目的地へと向かう。待ち時間も少なくすっと乗れた。列車に乗り込んで安全バーが下がるといよいよ、と感じて緊張して心拍が上がる。

 

「ふー……もうすぐ出発しそうだね」

 

「楽しみか?それとも怖いか?」

 

「激しい動きは慣れてたし楽しみだよ!!」

 

列車が動き出し少しづつ視界が広がっていく。地上からは見えなかった遠くの山々が美しい頭を見せる。……あ、目を凝らしたらドラコがふっ飛ばした山も見えた。

 

「おー結構高いところまで来ましたなー……遠くまでよーく見える。拓海の家もここから見えるかな」

 

「……少なくとも今お前が見てる方とは真逆だぞ」

 

「ええっ!でもでもここからなら頑張れば……」

 

「位置的には山を挟んでいるから絶対に見えない」

 

「あっそういえば

        そ

 

         う

 

          だ

 

 

 

           っ

 

 

 

            た

 

 

 

 

             ああああ!!」

 

ーーー

 

「うう……まだ脚がガクガクしてるよ」

 

「垂直落下はかなりの落差の恐怖があったけどそこ以外はスピード感で楽しかったな。どうだ?また乗るか?」

 

「もう二度とやらないよ……んく」

 

精神的疲労により、近くのベンチに座って二人で休息中。ドラコは自身が最初に選んだ物が間違いだったと自販機で買ったコーラ片手に酷く後悔している。

 

「そのコーラ飲んだら次はどうする?」

 

「もっと平和な乗り物がいいな……何かおすすめなのあるかな?」

 

「メリーゴーランドか酔い覚悟でコーヒーカップ」

 

「それじゃあメリーゴーランド。レツゴー!!……ゲフッ」

 

ーーー

 

コーヒーカップ

 

「あーっ止まんない、止まんないよー!!」

 

「おいバカやめろこれ以上回すんじゃない止めるのは逆回転だ」

 

 

ゲームコーナー 射的

 

店員「嬢ちゃん……その残り8発でどこまで絞る気かい?流石にこれ以上は出禁にせざるを得ないんだが……」

 

「『偶然』跳弾が連鎖して的に当たり続けてるだけだから、文句はないよね?」←現在2発で16個get

 

「(……発砲音に炭酸ジュースが開く音みたいなのが混じってる。あいつ、銃の中で水気化させて威力増してるな。その上玉に付着した水分を利用して軌道修正……人間やめすぎだろ、竜だけど)」

 

 

お化け屋敷

 

幽霊「ゔぉぉ……」

 

「最近のお化け屋敷って凄いんだな。幽霊とかだけじゃなく温度湿度の管理で不気味さを演出、世界観も所々にある張り紙や看板から考察もできるのか」

 

「(拓海はなんで平気なの!?私はエキストラの人の体液を探知してない怖い。もし死角から突然来られたらチビリそうだよ……)」

 

こうして、俺たちは一日中遊び続けた。ドラコは俺を振り回し、それについていくのは正直きつかった。しかし、今日はドラコの為、彼女が楽しそうであればどうでもいいのだ。

 

そして気が付けばもう夕方。次の乗り物で今日は最後になりそうだ。

 

「拓海、帰る前にあれ乗ろうよ」

 

彼女は指を指した。……ああ、そういえば乗ってなかったな。

 

「観覧車か。あれに乗ったら帰えるか」

 

人もだんだん少なくなってきた、今朝と同じように待ち時間無しでゴンドラに乗り込む。

 

「これは高くなっても安心安全だね」

 

「落ちるのはもう嫌そうだしな」

 

「うん……」

 

遠くに夕焼けが見える。……今日、本当に一日遊び続けたんだな。こうゆう馬鹿な事は馬鹿な男友達と来るのかと思っていたかが、まさか俺がこんな事を主催して、しかも女との二人っきりで。相手が相手だから恋愛的な嬉しさは皆無なことは置いておこう。

 

「拓海、今日は楽しかったね」

 

「そうだな。ドラコも楽しかったようだし今日は成功っていっていいな。テストの点数はいい、家事も万能、ドラコも一日楽しんで。目的達成、オールクリア」

 

「そうそう!!今までにないくらい楽しかったよう!!」

 

「思いの外家族連れが多くて通報される覚悟もしてたけどそれも杞憂」

 

「うんうん!!きっと私達……」

 

「周りから見たら家族連れか兄弟だな、俺ら」

 

「そうだ………?………っ!!……そうだね」

 

「?」

 

今俺を肯定しようとしたドラコの様子がおかしかった。それを問うとなんでもないように彼女は否定した。が、小さく何か呟いて、続けてこう言い出した。

 

「(……この機会にも決めちゃおっか)拓海、成功って決めるのは私の話を聞いてからでいいかな?」

 

何かを覚悟してドラコの雰囲気が変わった。深呼吸をしてから俺の目を見つめる。

 

正直彼女がどのような事を言い出すのか全くわからない。今までもそうだったが、今回は特にだ。

 

 

 

沈黙が続き、彼女が破った。

 

 

 

「拓海は……拓海はさ」

 

「……?」

 

「もしさ、私達が家族連れとしてじゃなくてさ……例えば大学の友達の……」

 

「『恋人』と一緒なら、私と来るよりも嬉しいの?」

 

「俺にそんなもんがいない事はお前がよく知ってるはずだ」

 

表情を変えずにそう彼女に返す。しかし心の内では完全に予想外、というか想定外な状態に驚いている。余りにも唐突な事で逆に反応がしづらかったからだ。

 

普段なら簡単にああそうだ、と肯定するだろう。そりゃ自分が心から望んだ相手と一緒に居れるのなら万々歳なのは童貞の俺でも予想はできる。

 

……彼女の改まった態度でそんな事が言えるのかと言われたら出来ないから困っているのだ。

 

「あえて言うなら考えた事もない……だけどもしかしたらドラコの言う通りなのかもな」

 

取り敢えず無難に返答する。正解かどうかは分からない、ただ自分の思っている事の角を丸めてから放った。気に障ることはあっても直よりは少ないと信じる。

 

「そっか」

 

そう言ってドラコは外の景色に視線を向ける。まるで己の姿を俺から目を背けたいかのように、せめて自分の視線から俺を外して、逃げ出したいかのようだ。

 

「……一つ、聞いていいか?」

 

「うん。私の事は何でも教えてあげる」

 

相変わらずこちらを見ずに、淡々と返された。

 

「ドラコは俺の何なんだ?」

 

「……あーあ」

 

「……」

 

「……」

 

再び沈黙が訪れる。重く、張り詰めた空気に俺も逃げ出したくなる。

 

「……今、初めて拓海を受け入れて後悔したんだ」

 

「気を抜くとどこまでも俺の代わりをしたがるお前が後悔か」

 

「うん。こちらから話すつもりが教えられちゃって」

 

「……俺が何をしたんだ?」

 

「……」

 

「…………」

 

「…………………」

 

「…………………………」

 

言葉はなく、真下からのゴンドラを動かすモーターの無機質さが静寂を満たす。

 

気が付けばゴンドラは観覧車の最高地点になっていた。

 

 

 

「…………ドラコ」

 

「……うぅ……………」

 

 

 

 

「ドラk」

 

「ああ!!もうまどろっこしい!!」

 

「うおっ、いきなり叫n

 

「拓海、覚悟してね!!」

 

「ちょま…………ん」

 

 

 

ーー頭が白く染まり、思考が上手くまとまらない。俺は一体何をされているのか?いや分からなくはないんだ、ドラコの唇と俺の唇が合わさり、舌で繋がっているのだ。

 

なすがままにされる俺など目も向けず、ドラコは己の欲望のまま俺の口腔を漁る。絡まった舌に反抗と焦りで脳の処理が追いつかなくなるのが分かる。しかしそれに抗おうにも適わない。振り払おうにも力でも勝てず、いつの間にか俺はドラコに座席の上で乗られていた。

 

「……ぷはぁ!!」

 

「……おま……これは……」

 

「拓海!!これで分かった?」

 

ドラコは今までに無く真剣な顔で叫ぶように心の内を俺に明かした。

 

「私はね、拓海が大好きなの!!拓海がどう思ってるか分からないけど私にとって拓海は全てなの!!人生の13年と最後の竜秘宝まで使ってまで……運命を捻じ曲げても拓海と家族になりたくて……」

 

「ドラコ……?」

 

「そして……拓海と一緒に生活して、一緒に起きて、食べて、遊んで、寝て……そして生きて!!私は拓海と生きたいの!!拓海の為に、人生を全部使ってみたいの!!」

 

「……ドラコ!?」

 

「だから拓海の為なら何でもしてきた、何でもできるようになったの!!人間の生活について勉強した。竜としての戦う術も研究した。……望む事なら汚い事もするつもり……なのに」

 

「……」

 

「なのに……拓海は私をどう思ってるの?友達なの?手のかかる妹なの?家族?それとも他人?ねえ……」

 

「……ドラコ俺は……」

 

「拓海、今は決めなくていいよ。ただ……早く決めてね。そろそろ結論が無いと……」

 

「……ごめんな」

 

「それじゃあ最後に。……拓海!!私は今までも!今も!これからも!!」

 

「『拓海と結ばれる』事を望んでる!!今は妹でも何でもいいけど拓海といたいの!!たがら私もその気にさせるから覚悟してね!!」

 

ーーー

 

……思った以上に情熱的な告白になってしまった。帰り道で一人、その事を思い出して顔が熱くなる。

 

でも……ナツメさん。私、やりました。正しい解釈かは分からないけどこれでいいんですよね。

 

伝える事は伝えた。あとは彼がどう動くか……早めに動いてもらわないとそろそろ『私がまずい』。

 

「拓海、トイレってどこ?……ちょっと吐き気が」

 

「2両前だ。電車が動いてるから気をつけろよ」

 

拓海に私の荷物を任せて一人でトイレに行く。ドアを開けて鍵を閉めて……

 

そして、私はトイレの洗面台の水を飲んだ。

 

「(ヤバイヤバイヤバイ……もう駄目だのどが渇いて仕方ない……)」

 

飲まないでください、という警告文を無視して一心不乱に喉を潤そうとする。しかし圧倒的に水分量が足らない。飲んでも飲んでもまた喉が渇く。

 

昼間に買った飲み物は全て飲みきり、これ以上ドリンクに使うのもとそこから我慢していたツケがやってきた。

 

「(このままだと……持って1ヶ月。でも多分能力での消費も考えると……)」

 

彼女は人の姿をしていても元は水辺の生物。巨体で水分を必要とする彼女には人の生活で関わる水分量では足らなかったのは初めから分かっていた。

 

「ははは……10年近く備えてたのに……クソっ!!」

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