Dragon School
現在時刻 9月
「拓海!!もう朝だよ!!大学は今日無いの?」
「……おかしいな。俺は確かに昨日3つ目覚ましをかけたはずなのに全て破壊されてる」
「朝ごはんは出来てるから早く食べちゃってね。洗い物できなくてごめんね」
「……もういいや。分かった。あと大学の夏休みは9月まであるんだぞ。皿は洗っとく」
「へー小学校よりも長いんだね……ってそうだった」
ドラコはスク水からワンピースに着替え、黄色いランドセルを背負って玄関から出た。
「行ってきまーす!!お昼は冷蔵庫にあるからねー!!」
「あーいってらー……」
ーーー
現在時刻 冒頭より数日前 8月終盤
「……あと10日切ってしまった」
ドラコが来てから警戒していたことだが遂にこれと向かい合わなければならない。ズバリ、彼女をどうやって小学生に見せるかだ。
ドラコは人ではなく竜だ。それも山に籠もって人との関わりを断っていたのだ。戸籍は当然存在しない……と思う。その弊害は多分俺が思っている以上に重い物だろう。……あ、それを逆手に取って犯罪なんてしないからな。
で、それよりも現実的な問題として、近いうちに9月になってしまうのだ。それに何か問題でも?うん問題。小学校の新学期が始まってしまうのだ。
考えてみよう。夏休みが終わっても家で大学生の代わりに家事をしてる小学生がいたら。うん、通報されてもおかしくないしそうで無くとも怪しまれる。
「はぁ……」
なお当の本人はというと……
「……小学校、義務教育においての最も初歩的な学問を行う教育機関。日本において誰もが一度は経験する……んー」
数日前からパソコンのウィンドにチラチラ小学校の生活について調べた資料がある。それを今も真剣そうな表情で見つめていた。どうやら近所の小学校のHPの様だ。
「拓海、相談があるんだけど」
「何だ?」
「私、学校に行きます!!」
「……あのなあ」
「『山に籠もっていた上竜だから戸籍もないじゃぁないか?』」
「話が早くて助かる。……え?お前」
「はい、諸経費手続き引っ括めてどうにかなります。欠点はありません」
「お願いします!!是非とも小学校に通っていただけると助かります!!」
俺は人生で初めて幼女に向かって五体投地した。本来であればこんなプライドを捨てるような真似はしたくない。しかしここ数日これで悩んでいたからもうどうでも良くなった、神でも竜の幼女でもすがれる物にすがってやる。
彼女は俺の返事に嬉しそうに反応してやった!と声を上げる。
「それじゃあ今から儀式しますね!!」
彼女は何処からともなくピンポン玉サイズの青い水晶玉を取り出した。
「これは竜秘宝といって竜が生まれながらに持つ願いを叶えるチートアイテムです。人間界には似たようなもので装備の強化に使われたり7つ集めたりするものもあるそうですがそんな事しなくても竜の願いならば何でも叶えられます」
「えそんな貴重そうな物を使っても平気なのか」
「平気だよ、そうなったら解決策はあるから。元々竜の力は物理特化だからこうゆう事もあるって事で存在する……らしい。どうしょうもないときの救済だよ救済」
「だとしてもそんな貴重なもの……」
「それじゃあいっきまーす!!」
彼女はどの言語ともとれない呻き声で呪文のようなものを唱える。詠唱をすすめるにつれて水晶が光り輝く。
「〜〜〜……〜っ!!」
そしてフィニッシュと思われる節を言い終わった時水晶玉が強く光り輝いて消滅した。
「……はい。これですべての処理が終わりました」
「……何か変わったようには見えないが……うおっ電話だ」プルルルルル
「……あーもしもし……うん、うん……あーわかったよ母さん」
「んー……あー……あ!?……いや何でも無い。ドラコ……義妹の学校の運動会の日付?後で調べる。じゃ。…………おいドラコ」
「ね?」
こうして、彼女は不思議な力により俺の義理の妹として無事に小学校に通えるようになった。
なお前の親の名字は黒姫らしい。嫌な予感がするが、まさか……
ーーー
「〜〜という訳で、滝沢ドラコです!!みんなよろしくね!!」
「好きな食べ物はなんですか?」
「魚類!!具体的に言えばもうすぐ旬で安くなるな秋刀魚とか!!」
「(主婦かな?)好きな本は?」
「たく……お兄ちゃんの持ってる難しい本!!微分方程式って書いてあるやつ」
「(びぶん……?)」
「前の学校は何処でしたか?」
「……秘密で!!」
「「(えぇ……)」」
「ドラコさん自己紹介ありがとうございます」
現在位置 小学校
転入生としての挨拶と簡単な自己紹介をして一つだけ空いた席に座る。青髪を追う目線が少し痛い。
私が竜秘宝まで使用して小学校に来た理由。それは単に世間体や学習の為ではない。学力の方は拓海の大学の教科書を読みすすめる過程で大体やり進めたし小学校なんて最早やるまでも無かった。国数社理英と第二言語だけなら私にはネットで十分だった、すごいでしょ。
「それじゃあ皆、滝沢さんと仲良くしてくださいね」
「「はーい」」
そして休み時間になった。……で
「水色の髪ってアニメみたいだね」「ねー」「前の学校でもあんなのだったのかな?」
「頭の角ってなんの動物の角なのか……というかどうやってつけてるのあれ……」「おいおい角より尻尾だろ!!ちょーかっけーじゃん」
……アニメや漫画等で転校生は質問攻めに合うのはお約束である。現実も然り。
それはさておき、小学校へ来たのは同年代と精神年齢を合わせる為だ。
私が今まで関わってきた人間は拓海のみ。拓海は態度こそ辛辣な時もあるが基本的には誠実な人だ。その人を支える為に私は色々と努力している訳なのだが……前にも語ったように、最近の彼は子供の姿の私が母親の様な振る舞いをするのに不満のようだ。つまり子供らしく振る舞えば、となるのだ。
そこで改めて子供らしい行動とは、を考えるのに資料を漁った結果、どうにも判断しにくい事になってしまった。曰く彼らは一般的に未熟とされているがその要因で自己を客観できない点が大きかったのだ。私の解釈ではあるが自身が何ができないのか知らずに行動するのが子供らしさ、と。
……つまりそもそも子供とは何なのかは子供自身には分からないので、私が大人なのか子供なのかは当人には定義できないとなる。
私自身、精神的に成熟しているかと言われればそうではない。竜での成長度は人に換算するとまだまだ少女カテゴリ程度でありお世辞にも大人とは言えない。しかし、幼体のような本能のみで動くような無知ではない……なお、彼の世話は例外とする。
「(だからせめて、私は同年代に囲まれ彼らの観察して、私が何をやるべきで何をする事が正しいのか学ばなけれならない、その筈)」
「んー……みんな色々聞いてくれるのはありがたいから一つづつ答えさせてね!!」
取り敢えず眼の前の男2女3の男から片付けよう。
「尻尾がかっこいいって不思議な趣味してるね。でもありがと、初めて言われ……あれ?」
そういえば彼からは私の身体の評価があまり言及はされていない。いつも私から質問しようとすると大抵は私から離れた選択をした後それっきりで私についてどう思うかまで聞いていなかった。まあ多分彼のことだ、私に性的な視線を向けるのを意図的に避け続けるのにもそうする必要があったのだろう。……でも私になら何でもしていいのに、勿体ないな。
「えっと……もしかしてその尻尾って自前?ちょこちょこ動いているような……もしかして角も?」
「……!そんなわけ無いじゃん!!気のせいだよ」
もちろん嘘である。私は生物だ、無意識に尻尾が動くことくらいある。次から気をつけないと。
「(角とか尻尾とか消滅させる方法あるのかな。他の竜との関わりが無かったから本能的な体の使い方以外分かんないし……ま、いっか)それより二人共、名前は?」
この男2名は今後の足がかり的な意味で仲良くしたほうがいいだろう。拓海からしてみれば子供と言われ想像するのはより自分に近い方、彼がどんな子供だったのかは私には知り得ないがネット曰く「男の考えることは大体同じ」という法則のもとに彼らを研究対象にさせてもらおう。これを元に私の行動ルーチンを修正するつもりだ。
そして、それとは別の傾向で目的の為に……
「〇〇と✕✕ね!よし、ありがと!!」
「ねぇねぇ、その青いのって染めてるの?それとも……」「うーん、ちっちゃくてかわゆいですなー」「私達も質問していい?」
残りの女3人、彼女らは男よりも丁重に扱わなければ。
「いいよ!あとこれは地毛だよ!!」
彼女達も私の行動ルーチンの修正の為の研究対象なのだが彼ら男性とは用途が違う。
「アニメのキャラみたいだね」「ほんとにこんな髪の人いたんだ……」「その髪色でツインテール……髪型で遊んだりしないの?」
かかった。
「あんまりそうゆうの詳しくなくて……今度教えてくれる?」
彼女達には年相応な少女の行動を学ぶ為に観察させてもらう。
いくら彼の思う子供の像に己を近づけようとも私は女児の姿であり彼とは性別が違う。男の行動をすることが間違いなのは明白である(恥さえ捨てればそんな事簡単にできるが)。
それにしても、人間はここまで未発達な状態でも己の美醜を気にするものなのか、これは意外な事であった。そもそも竜は美の概念が未発達な為清潔さは気にしても美容については知らない場合が多い。実際自身をキレイにしなければと考えたのがナツメと出会った13年前からだった。
「(あ、逆なのか……こんな小さな頃から気にしだすからそれが当たり前なのか)」
当たり前のことは誰も文章には残さない、道理で話を聞かないわけだ。盲点だが私はそれでいい。私からしてみれば、私以外の人間は拓海かそれ以外だから彼がよければそれが全てなのだ。
「いいの!?ありがとう。私▲▲、よろしくね」「私は⊿⊿でい」「ΔΔです。よろしくお願いします」
「うん!!……て後ろに回り込んで何を始めるんです?」
彼女達は男二人を強引に押しのけて私の後ろを陣取る。そして怪しく手を動かしながら私の髪に手を伸ばした。
「それは……」「今度なんてまどろっこしいし……」「今やっちゃいますね」
「人生で初めて狩らるる者の気持ちをわかったかもしれないよ私。ここまで恐怖が止まらないものなんだね」
キーンコーンカーンコーン
「ちっ……」「あーあ、休み時間終わっちゃった」「楽しみに待っててね」
「う、うん。分かったよ!!」
……救われた。
ーーー
その後、授業を普通に受けた。
国語
「この感じはなんて読むかわかる人〜」→彁
「(は〜早くお家に帰って拓海のお世話しないとな〜)セイかな?」
すう……算数
「至急この図形の面積を求めてくれや」
「(えーと定積定積……あ、直角三角形だから普通にした方が早い)」
理科
「ここに塩酸と水酸化ナトリウムがあるじゃろ……ゴクッ」
「(先生の血中には不純物が多いな。体型も酷いし……拓海がああならないように気をつけないと)」
前言撤回、授業はつまらない物であり拓海の管理について考えていた方がずっと有意義であった。
予想外の収穫といえば給食の美味しさだ。今日はたまたまカレーの日だったらしく男性陣がそわそわしていた。料理という比較的再現性のある物であれば何であろうが然程変わりないと舐めてかかっていたのだが、これが予想以上だったのだ。分子が多種で複雑かつ、粘性の高い液体の再現……味噌汁よりは遥かに高難度、できないかも知れないが今度やってみよう。
「体内で生成するのはいいけど俺は食べないぞ」
「えぇ!?そんなー!!」
現在時刻 5時間目(自習)
現在地点 拓海宅(学校 教室)
なぜ学校と家に私がいるのかは簡単だ。学校に水でできた私の抜け殻を机で寝かせて偽装している。そして本体は適当な水道をたどって帰宅したのだ。
私が帰宅したとき拓海が遅めの昼食を取っていた。自習の暇つぶしのつもりだったのだが、私もおやつでも食べてから帰る事にするか。
「他人の出したゲロなんてよほど趣味の悪い奴か風を引いたときの夢に出るナツメ以外居ないぞ」
「でもでも最近の努力の結果、本気を出せば一部の糖類とかタンパク質も捻出できるし……」
「頼むからそうゆうのはまじで辞めろ」
あ、声がガチトーンになっている。
「……はい」ショボン
しかし、口ではそうは言うものの既に朝食の殆どが私の生成物であったことに言及はない……よし。
私は棚から拓海がこの前買ってきた半額のクッキーを1枚取り出して、口に放り込み噛み砕く。味もクソもない食べ方だった。
のどが渇いたので水を飲んでからまた2、3枚同じように食べた。クッキーに水分を持っていかれやっぱり喉が渇く。今度は少し多めに、とここで冷蔵庫で冷やしておいた水がなくなった。
「あ、拓海。そっちのお水頂戴」
「おう。だけどお前そんなに飲んで平気なのか」
「んー?トイレなら行くから平気……」
「リッターペットボトル3本目だけど本当か?」
……あ?
気が付けば私は食前に用意した水を全て飲み干していた。空のペットボトルが二本床に並べられ、たった今空になったそれも並べた。
「……学校だと人が多くて水道使いづらかったから喉乾いちゃって」
「ああそういうことか。授業中でも手を上げて先生に言ってから行くんだぞ……あ、お前なら知ってるか」
「そんな事しなくても体内で水を分解したほうが効率的なんだよね。最悪ただの汗ってことにもできるし」
時間もいいところだ。ここらで学校に戻るとしよう。