Dragon Fashion
現在地点 昼間 郊外のショッピングモール
「でかーい!!何ここ?」
「ショッピングモール。今日はここでお前の服を買う」
夏休みの学生に土日も平日も関係ない。一日中空いているフリーな日が来たのでドラコの服の用を済ませに来た。
「服だけでここまで大きな店なの?」
「そんなわけ無いだろ。あの中にいろんな店がここに集まってる。スーパーとか本屋とかゲーセンとか……あ、言ってる事分かるか?」
「うん。最近拓海が私をいろんなお店に連れてってくれるから少しは……ゲーセンは何かわからないけど」
コンビニ騒動から彼女が家の外にも興味が出始めた。だから俺が外へ出るときには取り敢えずついて来てもらっていたのだ。ドラコもパソコンで漁った知識ではあるものの名前と役割はだいたい分かっていたから、興味津々ではあったものの問題のある行動は無かった。ほぼスーパーとコンビニ、あと100均とか特別な物は無いが。
「あー……あそこはだな……」
「あそこは神々の遊び場さ。初心者は近づかない方がいいよ。拓海も分かって言わなかったのだろう?」
唐突に後ろから話しかけられた。その無駄に落ち着いた声はナツメだった。
「ピッタリに来るつもりだったが数秒遅刻したなお前」
「……おはようございます。ナツメさん」
俺はナツメが約束の時刻は微妙を過ぎていた事を茶化した。対してドラコはナツメに対してひどく敵対的な態度を取る。この前事故で会ってしまった時もそんな感じだったが、もしかして俺が気づいていないだけで性格が合わないのか?彼女はナツメが来たことに関して何か聞きたそうにこちらに冷たい目線を送ってくる。
「化粧に凝っていたらつい、ね。ドラコちゃんもおはよう。前あったときにもかなり不機嫌な様子だったがどうかしたのかい?」
「……拓海」
「何だ?コイツがいることになにか不満でも……」
「大アリだよ!!普通こうゆう女のコと買い物って……買い物って……うがー!!」
怒りに任せ彼女は特大のバズーカの水鉄砲を構え照準をナツメの頭に合わせた。実家で見せたあのバズーカ、しかし貯めの速度はそれ以上。あの威力になる前に止めないと……ここが更地になるな。
「おっと物騒な物を僕に向けないでくれ、殺気も凄いし冷や汗で化粧が落ちそうだ」
「私の家族の拓海を奪わないでよ!!この『自 主 規 制』!!。返事しなかったらこれで二度と喋れないようにするからね!!さーて充填率32%頭をすっ飛ばすならもうちょっと……」
「ドラコ、抑えろ」
俺はナツメに向く銃の前に手を伸ばし銃口を抑える。暫くの間はエネルギーの充填を止めて銃を向けていた。しかし、銃口のエネルギーを消滅させドラコは銃を下に向ける。
「そうだな、出かけるなら面子くらい伝えとけばよかったな」
「問題は解決したかい?」
「多分な。『行けたら行く』って連絡返してきて来ないと思って油断してたら来やがった戦犯のナツメ」
「随分と僕を皮肉るね」
「まあな」
「ナツメさんごめんなさい」
「さんは無しでナツメでいいよ。さて、ここからは気を取り直して僕の生存を祝って買い物だ。早く中へに行こう」
「「……調子のいい奴(人)だな(ね)」」
ーーー
「おー!!見た通り中も広い。人もいっぱいいるし物もいっぱい!!拓海凄いね!!」
「久しぶりに来たけどちょこちょこ店変わってんな」
「僕は割と最近来たけど拓海はいつ以来に来たんのかい?」
「かれこれ2、3ヶ月。来る用事も無かった」
平日昼間のショッピングモール。人はいつもより若干少なめ、しかし俺らと同じような暇な学生がちょくちょく買い物している。それらを横目にエスカレータに乗って上へ向かい女性物の服の多いフロアへと向かう。ただ、俺個人としてはあまりそうゆう所に近づくのには抵抗感がある。歩を進めるのは勇気がいる行動だった。
「拓海……なんか不安そうな顔してるけど」
「え、そうか?」
「うん。ここに来る時にもどこか暗い感じだったし……もしかして私の服を買うのいや?」
「嫌では無いんだがどうもこう……男っ気のない雰囲気が肌に合わないからかもな。不快にさせてすまない」
「いいよ。でも、もし拓海が本当に駄目そうなら私が拓海に合わせるから。寧ろそっちのほうが拓海に選んでもらえるから嬉しいよ!!」
俺に選んでほしいのか。彼女なりの気遣いだろう。ただ、俺に人の服をを選べるようなセンスなどない。ここは俺も恥を捨てて全力で協力してあげよう。
……というかその為にナツメに来てもらったから先手を打たれた。畜生。
「先手を打たれた。また顔に出ているぞ拓海」
「!?」
「拓海?なんの先手を……」
「ドラコちゃん、その選考。僕も加わるよ」
「ナツメさ……ナツメも?」
「一人で選ぶよりも二人で、なら3人でもいいじゃないか……って見るからに嫌そうな顔だ」
「嫌ではないけど……」
「俺からは頼んだナツメ。正直自信ない」
「拓海!?」
話している間に目的地のフロアについた。よし、後のことはバレないように全てナツメに投げて解決しよう。
最初は無難に(保身ならぬ保心を兼ねて)男女兼用の物もある店を選ぶべきか、先回りして女物を選んでくるか……
「ドラコちゃん。ちょっとこっちへ」
ナツメがドラコを端に呼ぶ。お、相談か?なら俺も参加すべき……
「拓海、君は先にドラコちゃんの為に似合う服を探してきてくれ。彼女と二人で話したいんだ」
ああそう。それなら俺は先に店を回って似合いそうな服に目星をつけに行くか……目線が痛いけど。
ーーー
「ドラコちゃん、耳を貸して」
「えっと……2人より3人なんじゃなかったの?」
「いいからいいから」
ナツメは強引にドラコの耳元を借りてこう彼女に伝えた。
「失礼なことを言うが君よりも僕の方が拓海のことを知っているんだ。彼とは付き合いも長いしおおよその好みも分かる」
「……それは自慢ですか?協力ですか?それとも……」
「最後以外かな。でも君が想定してそうな事はしないよ。それに、君しか愛せないように調教してやれば君と同じ、何をしても君の事がタイプになるから安心して」
「……安心はできませんが私は彼の家族です。奪わせはしませんよ」
「ふふふっ。それなら僕は傍から君たちを眺めている事にするよ」
ここ数日の拓海の動向からしてこれは真実であろう。ならば拓海の周りには私とナツメさん以外には親しい間柄はいない。彼を奪われる危険性は低い。……ここは彼との買い物を楽しんで、ついでに人間の美容の知識についてナツメから聞き出す事にする。
「あ、やっぱり最後にこれだけ。はいこれ」
三つ折りのメモ用紙を渡された。一体何が……
…………
……………………っ!?
……拓海の元へと行こう。
ーーー
現在時刻 少し経った頃
「お、これは……」
あれから数軒周りドラコに似合う服を探していたら面白いものを見つけた。沢山服がある中からそれを取り出して改めてデザインとサイズを確認する。それは水色で何処か見たことあるようなワンピース、記憶との相違点は湿っていない事だ。
詰まる所、彼女の今着ている服と瓜二つの物を偶然見つけた。二人は今……更衣室前にナツメがいた。
「おいドラコ……」
「きゃー!!かわいいよドラコちゃん。流石は可愛い幼女だ。細い手足均一な胸板傷一つ無い柔皮そして精神的な無垢、最高の逸材には何を掛けてもプラスになるな。家にも僕用の似たようなのがあるのにここまで印象が違うとは……っべ性的に興奮してきた……」
ドラコに服を見せやうとしたのだがどうやらナツメの着せかえ人形になっている。彼女は何処から持ってきたか分からない傾向の違う数着の服を買物カゴに入れている。……所でそのメイド服とかチャイナドレスとかどっから持ってきた?
「……拓海ぃ……この人ヤバいよ……服の趣向が歪んでるよ……でも拓海もこういうのが好きなら……」
青いゴスロリを着させられているドラコは心身ともに疲弊してきている……心無しか嬉しそうな感じもしているが。
「楽しそうで何よりだ。……うん、確かに可愛らしくていいな……あ!?おいナツメ、まさか……」
「平気だよ本人に全部やってもらってる。ただ……それが逆に凄く興奮するんだ。君もこれに興奮してこないかい?」
「どうどう?私にピッタリでしょ。似合ってるよね!!」
「ああ。ナツメと違って興奮はしないけどな」
「ええ!?興奮しないのかい!?こんな可愛いのに!!……あ、まずいテント張ってきた。僕は自分の服を見てくるからお二人で仲良くしていてくれ」
隣の変態は何処かへ行ってしまった。煩いのも居なくなった事だ。ドラコに俺の服を見せてみる。
「これは……私の普段着ている服とそっくり」
「お前いつもの服維持するの面倒臭いって言ってたから、それと似たような奴なら負荷も少ないって思って。機能性がいいと言えばいいのか?似合うか似合わないかで選ぶのは俺には難しい」
「おー。確かにこれならいつもと同じような服で負荷なく過ごせますねー。スク水にも似たようなものがあれば……それは無理か!!」
「無理だな」
「そんな夢も希望もなく断言しちゃうとは……」
スク水は無いがいいものが見つかった。本人からの評価もそこそこだったからこれは買いだな。価格は……女性物ならそこそこ安い方なのか?幸運な事に今の予算ならもう少し買えそうだ。この際俺のTシャツでも買うかな?
「拓海……ちょっといい?」
「ん?どうした」
聞きたいことがあるのかドラコが俺を引き止めた。ドラコは恥ずかしそうに後ろから紐のような物を2つ取って比較させるようにこちらに見せて……
「わ、私の下着……これとこれ、拓海はどっちが好き?」
「……」
それの片方は紐のように細く服としての機能を喪失させた下着の上下、もう片方は大人らしい煽情的なデザインのレースの下着同じく、上下だった。……何故こんなニッチなサイズのこんなものが店に売っているんだろう。
「私はこっちの大人っぽい方が好きなんだけど……拓海が好きなのはどっち?」
「……あ、そういう事か。ナツメ呼んでくる」
「呼ばなくてもいいさ、今来たよ」
「おうそうか」ボコッ
「っ〜!いきなり頭を叩くのは卑怯じゃないかい!!」
そして話を聞くと(案の定)それらはナツメが持ってきたものだった。自分が着るように持ってきたけどここに忘れてきてそれをドラコが手にしたらしい。道理でドラコの持っている下着がどちらも彼女の胸には大きいサイズの訳だ。そもそも胸のない幼女のドラコに上の下着はまだ要らなそうだ。彼女には年相応の物を選んでほしい。
「で、拓海はどっちがタイプなの?」
「あ?そんなもんまだお前にはいらないだろ」
「要らないだって……なるほど。ドラコちゃん、彼はそうゆう事らしい」
「ナツメ、違うからな」
「要らない……わかった!!」
「違うからな。お前の胸にはまだ要らないって意味なだけでちゃんと下着はあった方が好きだぞ」
「僕で良ければ……」
「私なら何でも着てあげるよ!!」
「何なんだお前ら……」
ーーー
ありがとうございましたー
「うおお……財布が消し飛んだ」
「いっぱい買っちゃったね」
「女の子の服を舐めちゃぁいけないよ拓海」
あれから更に買い物を続けていたのだがあれもこれもと買い物カゴに放り込んでいるうちに値段が跳ね上がったらしい。ちょっと予算オーバー気味になってしまった。輸送も考えてなかった、手に服の入った袋の紐が食い込んで痛い。片手はドラコに占領されているし持ち替えることもできない。
「僕が少し出してなかったらもっと酷いことになってたかもね」
「そうだな。そのせいで服選びだけのつもりだったけど余計な恩売っちまったよ……まあありがとな」
「それじゃあ僕はここで。ドラコちゃんと仲良くね」
「はい!!わかりました!!」
さてと、買い物も済んだことだ。家に帰って何をしようか。
「はいはい拓海!私家に帰るまでに人間の事で1つ尋ねたいことがあります!!」
おお、尋ねたいことか。今日半日ここにいても知識について何も聞いてこなかったのに今更か。もしかして服の取り扱いを聞きたいのか?家事については完璧だと思っていたが……だが、万一はある。本当に何についてだろう。
「人間の事ならもう十分な気もするが何なんだ?」
「男性と一緒に出かけた時、男性が連絡せず自分以外の女性を連れてきた時の責任の取らせかたについて教えて」
「……あ、あれ?まだ怒っていらっしゃいます」
「そうだよ。今すぐ拓海にバレないようにあの女を追いかけて朝撃ちそこねたバズーカを当ててやりたいくらいには」
普段の無駄にハイテンションな高い声は消え失せ抑揚の無い低く冷酷な声。先程までの笑顔も何処かへ行ってしまい死んだ目でこちらの目を見つめている。
「……正直済まなかった。ただこれだけは言わせてくれ」
「謝罪はまだ要らないよ。ただ簡潔に質問に答えてほしい。決めるのはそれからだから」
彼女の握る俺の手が痛む。傍から見た落ち着いた雰囲気とは異なる覇気、殺気が握力に現れていた。
「ドラコ、お前は重大な勘違いを……」
「質問に答えて」
口調を変えずに答えを催促する。手がミシミシ鳴ってきた。このままじゃ潰されるのも時間の問題だ。ただ……これ、伝えたとしても俺死ぬのでは?喋れば喋るほど彼女の殺気は強いものとなっている。もし話を信用せずに……うん、止めておこう。ここは考えても仕方ない。一世一代の賭けに出よう。
「あのな……ナツメは 『男』 だぞ」
「……はえ?」
ーーー
「ドラコちゃん、最後まで気が付かなかったな。あの子なら拓海が「彼」って表現したことあった?」
「僕、本当は女の子じゃなくて男なんだよ。だから女の子扱いしてくれたから僕の技術の勝ちだね」
「本当は男の人に見定めて貰うのが好みだけど」
「それでも化粧とか服以外にも歩き方とか肉の削ぎ方とか頑張っといてほんとに良かった。もし拓海さえいなければ更衣室で……ふふふっ……っと?」
「拓海からメール。…………あっ」
「……あーあ、バレちゃった」
ーーー
思えばそうだった。
歩き方や筋肉の付き方……僅かながらに違和感のある挙動。拓海とのお出かけとナツメさんの事で頭が一杯で気が付かなかった。野生の勘が鈍ったか?拓海は裸が見られなかったか心配してくれたがそれはどうでもいいや。私にとってはナツメさんのあのメモ用紙の言葉の意味の方が知りたい。
「実は今日の遅れ理由は君達のことを観察していたからなんだ。その時思ったけど君、彼の事が好きだろう?傍から見ただけで君の態度は仲睦まじいカップルのそれみたいだったよ
もっとも、彼はそうではないみたいだけど
p.s. メールアドレスを書いたから聞きたいことがあればどうぞ」
……知りたいというのは嘘だ、だってもう理解しているから。ただ、嫌な予感がする。だけど、聞くのが怖い。ずっと感じてはいた。だけれどこんなの、生きてきて初めての感覚だ。
「ドラコ?お前また顔が怖いけどナツメにまだ怒り足りないか?」
……彼は、幸せそうだ。
「ナツメならヘーキだよ!!ただ……何でも無い!!」
私からもう離れないで。