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Dragon Reunion

「………あぁ……暇だ」

 

 

 

俺、滝沢たきざわ 拓海たくみは実家に帰省している。大学2年の夏休み、盆前に貯めたなけなしのバイト代と男友人とのバカ遊びを犠牲にしてまで帰省した。

 

 

 

「せめてまともな回線とプリペ買えるコンビニさえあればソシャゲでもしてるんだけど……どこのど田舎じゃそうも言ってられないよな」

 

 

 

俺の実家は電車に乗って1時間、乗り換えてクソ高いボロ私鉄に揺られそこから更に一日数本のバスに乗ったところにある山中のど田舎にある。自然豊かと言えば聞こえはいいがど田舎としか言いようがないほどに何も無い。有名な物は勿論無く、強いて言えば過疎って出来た廃墟目当ての物好きがたまにくる(らしい)くらい。

 

 

 

何故わざわざ嫌なのに帰ってきたのは1年の時に帰省せず年末の帰省で小言を言われたからだ。

 

 

 

「……実家はど田舎、あのクソ親の為に帰ってきたっていうのに本人たち不在で来た意味はなくなる、バイトのシフト空ける為に飯を奢るのもパー……不幸だ」

 

 

 

うちの親は実家についたその前日に丁度旅行にでかけたらしい。三泊四日の温泉巡り、一体どこからそんな金出してるのか知りたいがタイミングが最高に悪い。本人達にこれを訴えたら「すまん」とメールが来たっきり返信はなかった。

 

 

 

「俺が帰るのは……二泊三日の予定だから……明日か」

 

 

 

壁掛けのカレンダーを見ながら現状を嘆く。このど田舎、行けるところなんて数えたら指すら折れないくらいに無く、昨日の外出先は実家周りの散歩と酒を買いに出かけたくらいだ。

 

 

 

という訳で、今はやりたい事もないし、あっても何もできないので昼間から自宅の畳の上でゴロゴロしている。

 

 

 

「暇で死ぬを再現してんのかよこの生活……ガキの俺は何でこの苦痛を耐えられたんだ……」

 

 

 

そもそも何をしていたっけ。確かゲームも街に出なきゃ手に入らなかったから数年前の中古をやりこんでた……のは中学か。そうゆう物を求めているのでは無い。もっと前、小学生とかの頃の話。そこらあたりの森にナタをもって入ってハンターごっこ、トラップ作ってみたり……後は……

 

 

 

「……あそこの川か」

 

 

 

ここから徒歩10分位ある所に神社があった。大学から出るのにこのど田舎から離れるその前からオンボロの神社で管理者も不明。で、その奥が森になっていて更に進んだ先に一本の川があった。何処の川か聞こうにも親に聞いたらそんなところ行くなと怒られそうだったし、友達も知らないと言ってたから今でも名前は知らない。

 

 

 

最初に見つけたのは小1。当時は一人がカッコいいと考えた早すぎる中二病の無自覚ボッチの俺はそこで魚を取ってた。そんで、家で飼おうとして数日は洗面桶で隠してたけど親にバレてその魚を逃がす。二度とくるかとなってから行ってはいない。

 

 

 

あと思い出したので余談、魚の名前はドラコだった、種類では無く蛇みたいに細長かったからそう呼ぶ事にしていた。今思えばセンスが悪い名前だしあの魚もただのドジョウだったかも知れない。

 

 

 

「……家帰ったら下調べしてアクアリウムでも作るかな……っと」

 

 

 

アクアリウムは今のバイト代で維持できるか分からないから保留。

 

 

 

「小学生の時以来になるな、あそこ」

 

 

 

時間は10:00。時間も丁度いい。スマホとサイフだけ持って安いサンダルを履いた。

 

 

 

ーーー

 

 

 

「相変わらずオンボロだなここは」

 

 

 

現在地点 神社

 

 

 

ボロボロで廃屋とかした神社。文字が潰れて神社の名前は読めず、簡素な木製の鳥居の塗装は剥げて年季を感じさせる。

 

 

 

ネットで調べてみたら一応名前はあるらしい。当たり前だが誰が調べたのか。

 

 

 

「思ってたよりも酷いなここ……前来たよりも劣化してんじゃねーかこれ。屋根も落ちてるし瓦も割れて地面に……立ってるのは解説の看板だけ、と」

 

 

 

まあその看板も金属製の文明の息のかかった物、神社の雰囲気をぶち壊している。文字は読めないしもはや排他的なアートに感じる。

 

 

 

「あ、ここは読める」

 

 

 

なんとか劣化の少ない所をつなげて読んでみた。

 

 

 

「ーー神社

 

 

 

ーーーーはーーー、ーーーーー

ーー。ーの森ーー川ーーー、昔ー

ーーー禁ー地とーーーーー」

 

 

 

「……読めねえ」

 

 

 

読んで損をした。次にDQNの人が来るならばスプレーで英語でイかした解説を書いてほしい。そちらの方がより雰囲気が出る。

 

 

 

さて、本題の奥の森へと行こう。足元の石と草に気を付けながら目の前の木々を掻き分けて進む。すぐに川が見えた。木の壁を挟んだスペースにしては広い空間、その中に一本の川が流れている。

 

 

 

「そうそう、こんなんだったこんなんだった」

 

 

 

観光スポットほときれいではないが過去の自分がここをキレイに思った感性は正しかった。都会のドブと臭く汚い川を見慣れてしまった自分の目ではもうここまで綺麗なところは見つけられなさそうだ。

 

 

 

「時間経過で地形が変わってるな」

 

 

 

緩いS字に曲がっていたのに今では少し直線気味になって侵食により河原は狭く、水深も深くなっていた。あの時でも首下位まではあったのに更に深くなっている、目測だが水は綺麗だから純粋な深さによる暗さで水底が見えていないっぽい。

 

 

 

それにしても何故小学生以来来ていなかったのだろう。厨房はゲームの楽しさに目覚めたとして魚が飼えなかったこと以外にも何かあった気が……ああ、そうだ。

 

 

 

その次の日に川へ魚を逃すフリをして川にほった穴で飼おうとした。名案だと思って帰りったが次の日に先回りされたんだ。誰かが水辺で歩く足音が聞こえてきて……それ以来だった。

 

 

 

丁度今みたいに。

 

 

 

遠くの岩場に子供がいた。自然の中にぽつんと一人、今の自分と一人なのは同じようだが彼には存在感がある。

 

 

 

小学生だと思う。周りから浮いた水色の長髪、それと同系統の色の服……珍しい色の女児用スクール水着だ。多分彼というよりかは彼女と言ったほうがいい。その彼女は岩場から虚空を見つめて座っている。友達と遊ぼうとして誰も来なかったのかな。

 

 

 

まあ20の自分には一切関係ないのだが。さて、用も済んだし不審者扱いされる前に家に帰らないと……

 

 

 

「……ん?……あっ!おにーさーん!!」

 

 

 

驚くべき事に少女の方からこちらへ向かって叫んできた。彼女のいる所からここまで少し距離があるのによく通る高い声が河原に響きとてもうるさい。面倒事には極力関わりたくない。遠くからの少女の呼びかけは自分以外の誰かへの物、きっとそうだ、無視して帰ろう。

 

 

 

「ちょっとー!!無視しないでー!!お兄さんだよ、おにーさーん!!」

 

「……何なんだアレ。あんなガキの知り合いなんて知らないし」

 

 

 

誰かの子供にしても無理がある。年が離れすぎて接点がない。しかもこの過疎村に限ってそれはあり得ることは無い。

 

 

 

「酒買って帰るか。もう店開いてるし明日まで寝よう」

 

「ちょ、まってぇぇぇえ!!拓海って人間さんを探してるんです!!」

 

 

 

拓海、彼女の友人の名前か?早く来るといいな……拓海?偶然にも同名だ。俺と違い彼には元気な同年代の異性と仲がいいのか、小学生相手には悪いが正直羨ましい。

 

 

 

「ああっ止まって!止まってよぉ!…………こうなったら」

 

「……ああもううるせぇな!!」

 

 

 

普段は怒らない方だが流石にムカついた。ここは少し大人げないが直接彼女に文句を言ってやろう。俺は振り返った。

 

 

 

「って……あいつどこ行った?」

 

その時既に彼女は影も形も無かった。しかし何をしたかは予想がつく、彼女のいた岩場から数個の石がパラパラと落ちて水しぶきがあがっていたからだ。助走をつけて飛び込んだのか。

 

 

 

「泳いだ方が早いってか。魚かよ」

 

 

 

煩いのもいなくなった。こんどこそ帰宅してしまおう。

 

 

 

 

 

 

 

そう思考を終わらせる時間もない、刹那

 

 

 

 

 

 

きゃおおおおおおおおっ!!

 

 

 

「おああっ!?何だ!!」

 

金属音の様に高い咆哮が森を揺らす。

 

帰路につこうとした俺は予想外の状況にその音のする方へと振り返ってそこへ視線が向く。

 

 

「……はぁ!?」

 

夢でも見ているのか。

 

その視線は空の方へと向いて、そこには一匹の青い竜が水飛沫と共に空へと跳んでいた。

 

 

 

俺は竜なんて見るのは初めて……いや本来現実でこんなゲームみたいに人の数倍でかいモンスターがいる光景があるなんて信じているわけ無い。幻覚か何かと信じたかった。

 

 

 

しかし空へと跳んだそれは妙に現実的だ。蛇のように細長い鱗に覆われた胴体、ヒレの役割を果たすのに適した丈夫で発達した翼と尻尾、反対に水の抵抗を減らす為に極限まで無駄を削ぎ落とされた四肢……

 

 

 

幻覚と割り切るには少し鮮明すぎる。それに度胆を抜かれる、という言葉が頭によぎってしまった、理性はやはり本能には勝てない、それを理解の及ばない強者と認識してしまった。

 

 

 

「きゅああああああ!!」

 

「うわああああ!?」

 

 

 

その竜は空へと飛び上がった勢いのまま俺めがけて突っ込んできた。というか初めからそのつもりだったかの様な思い切りの良さと精度だ。でなければトラックに轢かれかけるのの数倍の恐怖で足が竦み動けなかった俺のすぐ横を通事なんてしないだろう。

 

 

 

「……ざけんな。チビリかけたじゃねえか」

 

 

 

息をつく暇もなく次は空に飛んだ水飛沫が降ってきた。跳んだときに大量の水を巻き込んだからその量も凄まじく、バケツをひっくり返したレベルでまともに目が開けられない。着ているものも下着までめちゃくちゃに濡れた……サイフの中身が偶然小銭だけでスマホも防水なことが不幸中の幸いだ。

 

 

 

「もー。勝手に行こうとするのが悪いんですよ」

 

 

 

さっきまでうるさかった少女の声が竜の方からする。この雨のような中よく平気で話せるな。

 

 

 

「水が鬱陶しいな……えいっ」

 

 

 

彼女が指を鳴らした。途端、降ってくる水が飛散、自分たちの所だけ雨が降らなくなった。

 

やっと目が開けられるようになり恐る恐る辺りを見回す。地面には帰る俺の行く手を遮るように、大きく太い何かが勢いよく突っ込んできた痕跡が濡れた地面に描かれていた。数歩先に生えていた植物が巨体と泥にもみくちゃにされ……あと数歩、帰るのに進んでいてさっきまで俺もそこにいたと思うと……。

 

 

 

「はい、これでいいですね。で、拓海という人間を探しているんです」

 

 

 

死を目前にした事実を受け入れるのに呆然としていた俺はそこで正気に戻った。

 

彼女は概ね7、8歳程で現実離れした水色のツインテール、それに加え鱗を模した柄の水色のスク水を着ている。この時点で色々おかしいのだが加えて頭には短い角が生え、竜の翼と鱗に覆われた魚の尾びれに似た形状の尻尾が生えている。

 

 

 

詰まる所……ドラゴン?水竜というのか、どちらにせよやべえコスプレイヤー幼女がいた。いや、コスプレであって欲しい。答えを聞こう。

 

 

 

「君さ、コスプレとか好きなの?」

 

「こすぷれ……?何ですか、それ」

 

「いや、尻尾とかその角とか……ちゃんと外れるよね?カチューシャとかそんなの」

 

「カチューシャが何かは存じませんが生え変わる時には外れます!!」

 

「鹿かな?」

 

「竜ですよ!!水竜です!!あ、申し遅れました。私、川の主の水竜【水槍】です」

 

「お父さんとお母さんはどこだ?ホントは会いたくないがお前と会話が出来そうにない」

 

「卵から孵った時には死体でした。あと信じていないようですが【水槍】が本名です」

 

「あ、それはすまん」

 

 

 

……そろそろいいかな

 

 

 

「……お前、さっきの竜か?」

 

「はい!!」

 

「」

 

「どうしました?」

 

 

 

……これ以上は何も言うまい。彼女の自身に満ち溢れたその返答にこれ以上ケチをつけるのは野暮だろう。

 

 

 

「あっそれよりも聞きたいことが」

 

「拓海か?」

 

「あはいそうです。少し前に彼と別れて……大人になったら一緒に暮らす約束をしているんです」

 

「ほーそれはそれは子供らしい約束だな」

 

「多分もう20歳だと思うので最近はずっとここで待ってるんです。私ももう成体になったし……後は彼が来てくれれば」

 

 

 

20歳……拓海……まさか俺の事を指してるんじゃ無いだろうな。一応言ってみるのもいいのか?

 

 

 

「拓海……まさか俺の事じゃないだろうな」

 

「え?お兄さんも拓海なんですか?」

 

「20なら年も同じだし……だけどそいつとは他人だろう。俺が君くらいの頃にそんな約束した覚えなんて無いし違うな」

 

「ああ……やっぱりそうで……あれ……?」

 

 

 

彼女は俺の顔をじっと見つめてきた。顔にゴミでもついてたか?

 

 

 

「お兄さん、もっと顔をよく見せてもらってもいいですか?」

 

返事を待たずとして彼女は俺の顔を両手で掴み顔を見つめる。

 

「じー」

 

「あの水槍さん?顔を掴むのを止めてもらっていいですか」

 

「じー……」

 

「あのー恥ずかしいし事案なんで止めてくれません?」

 

「じー………………」

 

「おい、止めろ」

 

「じー………………………」

 

「そのSE自分で言ってる奴初めてみ「拓海!!」ぐへっ!?」

 

 

 

大声に不意を突かれ彼女に押し倒される。こいつ、見た目に反し力が強い。男の俺よりもあるんじゃないか?

 

混乱する俺を無視して彼女は俺に抱きついて泣き出した。悲しみではない、むしろ尻尾をぶん回して嬉しさを表現している。つまり感動の涙だろう。ただ、当たって痛いから尻尾はやめてくれ。

 

 

 

「拓海!!たくみ!!!スーッ……だぐみ"いいいい!!待ってたよ……私……ずっと待ってたよ!!」

 

「ちょ!?離して、通報される。誰もいりゃしないけどこれは流石に事案だから!!!」

 

「その死んだ魚みたいな目……忘れるわけ無いでしょ!!拓海」

 

「え暴言……何?知り合い?」

 

「13年前……地面に掘った穴に私を残して……寂しかったんだよ!!」

 

「え?……なんの事……」

 

「ドラコ!!私ドラコだよ!!小さい頃、大人になったら一緒に住もうって言ってくれた……私だよ!!覚えてない?拓海!!」

 

 

 

……そんな事かつて俺が言っただろうか、記憶を探る。

 

 

 

ーーー

 

 

小1 夏

 

 

 

「くそが。魚飼うくらいうちでもできるだろ。水槽なり何なりは無くても風呂桶使ってれば平気だっつってんのに……」

 

「それでもドラコは俺が飼うからな。デカくなるまで俺が見届けるんだ」

 

「……よし、丁度いい水溜り。ここを少し掘って……ほれいけ」

 

チャポン

 

「後はいつもより多めに餌撒いて……」

 

サラサラサラサラ……

 

「ごめんな、家で一緒にすめなくて」

 

「俺が大人になればこんな事ならずに済むから……それまではここで二人だ。そしたらまた家で住もう」

 

「……また明日来るからな」

 

………

 

……………

 

ーーー

 

「……お前かあぁぁぁぁぁぁぁあ!!ドラコ!?お前がぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 

 

こんな事になるならネーミングセンスを鍛えておけばよかった。

 

 

 

「そうだよ……グス……あの後せっかく人にな"ってお話しヨ゛ッ……ようとしたら……ヒッグ……」

 

「じゃああの時……」

 

あの足音は……彼女は俺を待っていた。それから13年ずっと俺を……

 

 

 

「ごめんな……ドラコ」

 

「いえいえ、心配なさらず……拓海」

 

目を擦り涙を止めて、改まって彼女はこう言った。

 

「拓海、これで一緒に住めるね」

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

 

 

 

 

 

「すまん、流石にそれはもう無理」

 

「え?」

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