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虹魔の調停者  作者: 岩井碧月
厄災編
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宮廷魔法士

 サティアの店に入り図々しく食事まで要求したルーベルは出されたパンを貪り食っていた。

「まったく……魔導書店で食べ物を注文する客がどこにいるのよ」

「ここぉ」

「殴るわよ?」


 ルーベルは全く動じず、ひたすらにパンを口に運ぶ。


「ジオたち、一旦はこっちに戻ってくるよな?」

「大丈夫よ、安心なさい」

「ふ? ひほ?」

「飲み込んでから喋りなさいよ……」


 限界まで頬張っていたパンをようやく飲み込むと再び問う。

「マッチョ、あんたジオって言った?」

「ボルドだ、いい加減覚えろ! なんだジオのこと知ってんのか?」

「知ってるっつーか、聞き覚えがある……」

「アサナシア兄妹って言えば分かるかしら?」

「……あぁぁ! あのチビの兄貴か!」

「マッチョだのチビだの……覚える努力をしようぜ……」

「あら、ネルマちゃんと知り合いなの?」

「知り合いっつーか、クレスカントに行ったときそこの学園に寄り道して、戦いてぇから一番強いの出せって言ったらそのチビが出てきた。超嫌そうな顔してたわ」

「宮廷魔法士が他国で粗相するんじゃないわよ……」

「ちゃんとお偉いさんに許可貰ったっての。それにしてもあのチビ、化け物だったわ。あの年でエレメント四種全部で上級魔法が使える上に半詠唱だ」

「半詠唱?」

「なんだマッチョ、そんなことも知らんのか」

 ルーベルは腹を掻きながら質問するボルドを煽る。

「うっせぇ」

「仕方ないからこのルーベルお姉さんが特別に教えてやろう」

「いちいちむかつく奴だな、おい」


「魔法は熟練度が上がるにつれて発動させるまでの手間を省けるようになる。初級魔法の火炎(フレイム)一個にしても、最初は長い詠唱が必要でも慣れてくりゃ詠唱が短く済むようになって、そのうち魔法陣無しで名前だけ唱えりゃいい半詠唱ってやつで済むようになるわけよ。これが上級魔法になると一生かかって一つ出来るようになるかどうかってとこだ。だからどれだけあのチビがやばいか頭の中までマッチョなお前でも分かるな?」


「最後のは余計だぜ……なるほど」

「で、ネルマちゃんに喧嘩売っといて負けたの?」

「引き分けだよ。自分は他国で本気出せねぇしチビも様子からして絶対本気じゃねぇ」

「なによそれ……」

 サティアは呆れた表情を向ける。

「んだよ!」


 下の階で店の扉が開き、鐘の音がサティアたちの居る二階まで届く。

「お、ジオか?」

 サティアが出迎えに降りる。

「あら、おかえりなさい」

「ただいま」

「二人とも、上がってきてちょうだい。お客さんよ」

「今度は誰だ、いい加減ネルマを寝かせてやりたんだが」

「大丈夫」

「そうか?」

「うん」

 ネルマの顔を見ると、ジオは渋々階段へと向かう。


 対面するなりルーベルはネルマの顔をテーブルから覗き込む。

「よぉチビ、久しぶりだなー」

 ネルマが不思議そうな表情に手応えを感じなかったルーベルは彼女を睨む。

「あん?」

「二人ともおつかれさん」

「あぁ」

「ただいま」

 ボルドは嬉しそうに二人を迎える。


「二人とも紹介するわね、友人のルーベル、自堕落に見えてもこの国の立派な宮廷魔法士さんよ」

「ほぉ」

 少しだけジオが関心する。

「おいチビ! まさか自分のこと忘れたんじゃないだろうなぁ!」

「はじめまして……じゃない?」

 挨拶が止まり、首をかしげるネルマ。


「待て、バカ魔法士、チビってネルマのことか?」

 ジオがものすごい剣幕でルーベルの前に立つ。

「あん? 名前なんて知るか、自分が話してんのはそこの魔導書ぶら下げたチビだよ、黒ずくめは下がってな」

「黒ずくめには目を瞑ってやるからせめて妹は小柄と呼べ」

「わかったわかった、とにかくそこの小柄と話をさせな」

「意外と素直ね」

 壁際で二人を見張っていたサティアが含み笑いをする。

「おい小柄、魔法学園でやりあったの覚えてねぇか?」


「……………………うわっ」


 ネルマの低い声に驚き、彼女を見たジオが大きな笑い声を上げる。

「はははっ! ネルマのこんな嫌そうな反応滅多に見れないぞ!」

「ったく、何が気に入らねぇんだよ!」

「魔物の素材剥ぎ取るときの方がよっぽどマシな顔してたぜ……」

「ふふ、かわいいわよ。ジオくんお墨付きのレアな表情なんて目に焼き付けておくしかないわ!」

「だって……お昼食べてたら急に皆に呼び出されて、戦わされて……」

「迷惑な話だな」

「当然の反応ね」

「だな」


 満場一致の空気が気に入らなかったルーベルはすぐに本題を持ち出す。


「へいへい、んで、バケモン倒して治療までやったのはあんたら?」

「人違いだ」

「ジオくん! 否定しない」

 ヴィスタシアの件と同じ流れを予感したジオはため息を漏らす。

「全員で城まで来てもらいたいんだけどー?」

「断る」

「ちょっと!」

「金もたんまり貰えるぞぉ?」

「何度も言わせるな」

 金で釣るルーベルだがジオの返答は変わらない。

「三人はともかく、俺は活躍してないから会っても仕方ないぜ?」

「関わったやつは全員て話だかんね、マッチョも来てよー」

 全く意見が合わない状況にまたしてもサティアが手を挙げる。

「仕方ないわね……私が代表で行くわ、陛下にも事情はそれとなく伝える。ルーベル、それでいいかしら?」

「まぁ、お気に入りのティア姉がそういうなら納得するわ多分」

「お気に入り!? どういう意味よ!」

「そのままの意味」

 慌てるサティアにルーベルは腹を掻きながら真顔で答える。


「んじゃ、ティア姉行くよー。あんま遅くなるとまた怒られる」

「わかったわ。ネルマちゃん今日は休んでいく?」

 ネルマの視線がサティアからジオへと移る。

「頼む、まだあの件も話せてない」

「そうね、戻ったら話しましょ。じゃぁ行ってくるわね」

「いってらっしゃい」

 ネルマに手を振り返したサティアはルーベルの後を追い階段を降りて行った。

「よしジオ、さすがに俺たちも一旦寝ようぜ……目が……」

「あぁ。ネルマ、起きたらボルドの家に来てくれ」

「わかった、おやすみ」

「おやすみ」

「おぅ! おやすみぃ」


 こうして、ようやく彼らに安らぎの時間が訪れた、サティアを除いて————


次回 『調査』

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