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虹魔の調停者  作者: 岩井碧月
厄災編
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絶叫

 サティアは女性を道の脇に移動させると、手伝っていたボルドと共にジオたちの視線の先を追う。

「ちょっと……! あの青く光る体! それにこんな大規模な精神魔法……」

「さすがの俺も心当たりがあるぜ……冒険者の間で話に出てた、三百年前にクレスカント王国の森林地帯で確認されてそこに住んでたエルフたちにかなりの被害を出したっていう、ラク、ラク……」

「ラクリマ」

 ネルマがさりげなく割って入る。

「そう! それだ……」

「ボルド……惜しかったぞ」

「やめてくれ」

 そこはかとない悔しさにボルドはうつむく。

「ラクリマについて書かれた文献を読んだことがあるわ。種族や目的は不明だけど、一定時間ごとに精神を蝕む絶叫を放って広範囲の命あるものを錯乱状態にするそうよ。精神力や魔法に対して抵抗力が低い者は目や耳、鼻から出血し始めてやがては死に至る。三百年前の人々は夕方ごろにラクリマの出現を確認、夜明けには姿を消したとあったわ。このまま夜明けまで耐えるのも手でしょうけど、今回も同じように夜明けに撤退してくれる保障はないし、耐えるにしても夜明けまで街の皆の命が持たないと思う」

 道の脇で頭を抱えてうめく女性を見てサティアが考え込む。

「うぅ、あぁ……」


「サティアとボルドはそのまま負傷者のフォローを頼めるか?」

「え? それは構わないけど、二人はどうするのよ」

「あいつをどうにか出来ないか試してみる」

「おいそんな無茶! いくらジオたちでも危険だぜ!」

 歩き出そうとするジオの肩をボルドが慌てて掴む。


 ジオは足を止め、振り返らず強めに言い出す。

「王都の奴ら全員を連れて逃げたとしよう。オレたちは助かるかもしれない。だが、またいつかラクリマが現れたらそこにいる奴らはどうなる。永遠と同じ犠牲を繰り返すのか?」

「そうは言ってないけどよ……」

「心配するな、絶対戻る」

 ジオは少しだけ振り返り、ボルドに目を合わせる。

「くたばったらぶん殴るぜ、拒否権なしだ」

「好きにしろ」

「ボルド、サティアさんを守って」

「おぅ、ネルマも危なっかしい兄貴を頼むぜ」

「あのなぁ」

「二人とも気を付けてね……!」

 サティアは心配そうにジオとネルマに手を振る。

「うん」

「あぁ、お前らもな」


 その場を後にしたジオとネルマは浮遊魔法を使い王城の屋根に降り立つ。


「闇雲に近づいて叫ばれても困る……とりあえずここから攻撃だ」

「街の人たち、大丈夫かな」

「サティアとボルドに任せるしかない」

「うん、私も頑張る」

「とりあえず魔法障壁だけ頼む、オレは攻撃する」

「わかった」

 ネルマが魔導書を構え、王都は瞬く間に魔法陣で覆われた。


「我は『通わす者』、六魂の主なる者、我が力を以って護る者、未来に繰り返す涙を止める者……女神の盾(アイギス)!!!」


 魔法陣は詠唱に合わせて王都の民たちを護る光り輝く一枚のガラスのように姿を変えた。


 その光景を、被害の多い商業通りで負傷者のフォローに当たっているボルドたちも見上げていた。

「お? なんだ?」

「ネルマちゃんかしら、頑張ってるわね」

「俺たちも負けてられないぜ」

「そうね。あの自堕落な宮廷魔法士の分も私たちが働かないと」

「あいつ、こんな緊急事態にも関わらず何やってんだ?」

「王の護衛で一緒に『ガレーネ』に行ってるわ」

「タイミングが悪いにも程があるぜ……」

「英雄の件で重要な話があるって言ってたもの、仕方ないわよ」

「ラクリマの相手だって、本当は王族や宮廷魔法士だったりガレーネの連中の仕事のはずだぜ? 仕方ないで済まされても困るぜ」

「……その通りね、今の発言は私が馬鹿だったわ。それにしてもどうしたのよボルド、珍しく男らしいこと言うじゃない」

「オレたちのためにジオとネルマが命懸けで戦ってんだ、王様に文句のひとつでも言ってやりたいんだよ」


 少し老けた男の治癒が終わり、サティアは魔法を解いて息をつく。

 男を支えていたボルドもそっと降ろして息をつく。

「今度言ってやりましょ、ほら次あっち行くわよ!」

「……おぃ待て、珍しくってなんだよ!?」


 ネルマが魔法障壁を張り終えると、ジオはその場から手を伸ばし衝撃波を放つが————


 ラクリマもまた魔法障壁を既に張っていた。

 ジオの放った衝撃波は障壁に妨害され、いとも簡単に弾かれる。

「当然か、それにしても無反応もいいところだな」

「硬そう?」

「あぁ、今までで二番目だな」

「二番?」

「気にするな。次は直接叩いてみる」

「わかった」


 ジオは浮遊してゆっくりとラクリマの頭上から近づくが依然反応はない。

 そして魔法障壁に降り立つが、それでも尚沈黙が続く。

「できればそのまま起きないでくれ」

 そう言うとジオはしゃがんで足元に両手を広げて構える。


 胸にまで響く爆音と輪を成す風を城壁の外へと放った衝撃波は、中に籠ったラクリマを残したまま卵の殻のような魔法障壁のみを見事に砕いた。


 障壁のかけらがまだ宙を舞っている最中、これまでの様子からは想像も付かないほどの速さでラクリマが頭上のジオの方へと体ごと振り向く。


 すると大きく息を吸い込み、黒く塗りつぶされた目と真っ青な顔が歪む。


「っ! お兄ちゃ————」




 ネルマの警告は間に合わず、王都上空で体を引き裂かれるほどの絶叫が鳴り響いた。


次回 『夜明け』

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