立場
朝日が昇り、ホワンはシエラに応接室へと案内された。
部屋の中央には四人用のローテーブルとそれを挟むようにソファーが二つ、窓際には小さな丸いテーブルと椅子が二脚置かれている。
窓際の椅子に座ったホワンはひとり窓の外を眺めながらヴィスタシアを待っていた。
ほどなくして扉をノックする音が響き、ヴィスタシアが入室する。
「失礼します、お待たせして申し訳ありません」
「いえ、あなたが……ヴィスタシアさん?」
「はい…………」
ホワンの容姿に目を奪われるヴィスタシア。
彼女の様子にホワンは苦笑いしながら尋ねる。
「皆同じような反応をしますね……やっぱり、鱗は変ですか?」
「あーごめんなさいっ! 決してそういうわけではなく、とても美しいものですから……つい見とれてしまいました」
首を傾げるホワンに笑顔で返しながら彼女の正面に座ったヴィスタシアは気持ちを切り替えて話を始めた。
「改めて、私の名はヴィスタシア。ガレーネというギルドの代表を務めています」
「ギルド……皆は冒険者なの?」
「厳密には違いますが、概ね正解です。詳しい事を説明しても良いのですが……長くなると思いますので、先にホワンさんが
仲間に加わりたい理由をお聞きしてもよろしいですか?」」
「理由…………」
ホワンは視線をテーブルに移して少し考えたあと、言葉を整理しながら答え始める。
「ケフィーちゃんやネルマちゃん、それにジオ……三人と一緒に居ればホワンはきっと強くなれる。強く立派になって人間の皆に認めてもらえれば、他の竜人の皆もホワンを見習って変わってくれるかもしれない……あの村の井戸が復活したとき、そう思った……。ホワンのせいで沢山死んだ、お爺様にも大事な剣を託された、もう後戻りは出来ない……するつもりもない。だから……お願いします、ホワンを……仲間に入れてください」
彼女の目をしっかりと見つめながら静かに聞いていたヴィスタシアは、一度だけゆっくりと瞬きをすると————
「残念ですが、お断りします」
はっきりとした口調で言い切った。
「……なんで! ホワンの何がダメなの!?」
「ホワンさんはどのように強くなりたいのですか?」
「ネルマちゃんやジオみたいにもっと魔法を使えるようになりたいってこと! それ以外にない!」
普段の口調に戻り気持ちが高ぶったホワンは立ち上がってヴィスタシアを見下ろす。
「では、同族の皆さんが変化を望まない場合は?」
対するヴィスタシアはそんなホワンを見上げながら依然冷静に質問を投げかける。
「お爺様はホワンが正しいって言ってくれた。ホワンの言うことを信じない竜人はお爺様を信じないのと一緒、そんな奴は好きにすればいい」
「あの魔人に再び同族を殺される可能性を考慮しましたか?」
「っ……それは……その時はホワンが返り討ちに————」
「返り討ち? 島から出たあなたが、どうやって?」
ホワンはテーブルに両手をつき、ヴィスタシアから目を逸らしてうつむいてしまった。
しかしヴィスタシアは追い打ちをかけるように続ける。
「仮にホワンさんがその場に居合わせたとしましょう……大切な祖父の胸を貫かれた状況でただ泣き続け、同じ戦場に立つ同族を皆殺しにされて尚立ち上がらなかったあなたに何が出来ますか? それに……たとえ魔人を返り討ちに出来たとしても、あのジオさんですら守れなかったものを……今のあなたが守り切ることは不可能でしょう」
一呼吸置いて立ち上がったヴィスタシアは未だ顔を上げないホワンに語り掛ける。
「仲間になりたいという気持ちが変わらないのであればシエラに声をかけてください。あなたはまず、外の世界を識るべきです。その機会を、私たちガレーネが与えましょう…………では」
ヴィスタシアが退室して扉が閉まると、ホワンは崩れるように椅子に座りうなだれた。
日が高くなり、ホワンはマントを手に持ったまま屋敷を出ようと門に手をかける。
「あれ……? 帰るの?」
声をかけられた彼女が弱々しく振り向くと、二階の窓からカイロンが覗いていた。
「ちょっと待ってて、すぐ降りるから」
ホワンはカイロンに連れられて、島の西側の崖に来ていた。
「その様子だと、ヴィスタシアから精神攻撃を受けたみたいだね」
「ホワンは……どうすればいいの?」
「んー、難しい質問だね……屋敷の滞在は断ったの?」
「答えてない……」
カイロンが横でホワンの顔を見ながら話す中、当の彼女は膝を抱え虚ろな目で海を眺めながら話していた。
「ホワンは恵まれてると思う。誰かが手を差し伸べてくれるというのは本当にありがたいことだよ。ガレーネは手を差し伸べる立場で、今は僕もそうだけど、昔は手を差し伸べてもらう側だった。その両方の気持ちが分かると言っていいのかは微妙なところだけど……悩むのは今じゃなくて、手を取ってからだと思う。一緒に悩んでくれる人が居るんだから」
彼の言葉を聞いたホワンは、傍に置いていたラドンから受けとった剣を手に取る。
その剣を強く握りしめた彼女はようやくカイロンと目を合わせた。
「シエラさんのところに、連れて行って」
次回 『勉学』




