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虹魔の調停者  作者: 岩井碧月
厄災編
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魔犬

 翌日、ヴィスタシアはフィーリアとイネブを連れてカルゲル島へ帰還し、ジオとネルマはクレスカントに出現したという魔物の調査に出ていた。


「面倒だな、足跡が途切れてる」

「賢い……」

 魔物の足跡は被害のあった森から岩肌の方へと一直線に伸び、そこから先は追うことが出来なかった。

「二手に分かれて探すぞ」

「わかった」


 それから三日間、魔物を見つけることが出来ないまま時間だけが過ぎていった。

「このまま闇雲に探しても無駄だな」

「この辺りの地形完全に覚えた……」

 二人が愚痴をこぼしていると、ネルマのつけているペンダントの水晶が光る。

「カイロンです、アルカヌムにて挑戦者を一名捕縛。ジオの読み通り、おそらく僕が最初に情報を耳にした人物で間違いないと思う」

「ご苦労様です、情報は引き出せましたか?」

「新しい情報は持ってなかったよ……」

「そうですか、その方は国に引き渡してください」

「了解」

 会話が終わると、ジオがネルマに近寄り水晶に向かって話す。

「ヴィスタシア、イネブからクレスカントにいる他の挑戦者か例の魔物について聞き出せてないか?」

「かなり粘ってはみたのですが……活発的に行動していた割にそういった情報は持っていませんでしたね」

「そうか」

「うわぁ……かわいそうに……」

 カイロンが哀れみの深い声で言う。

「どういう意味ですか」

「何も……仕事に戻るよ……うぅ」

「全く、私を何だと思っているのでしょうか」


 ヴィスタシアの台詞を最後に水晶での会話が終わる。


「何だったんだ」

「さぁ」

「もう情報屋に聞いても無駄だろうからな……仕方ない、地道に探すか」

「フェンリルも呼ぶ?」

「相手が誰なのか分かればそれでもいいんだが————」


 突如空から三つの大きな炎が二人を襲い、爆風と共に一瞬で辺りが炎に包まれる。


「…………なるほどな、クレスカントの奴らが手も足も出ないわけだ」

「ケルベロス」


 奇襲を防いだジオたちを取り囲む燃え盛る炎の外から、三つ首で黒い毛に覆われた巨大な犬のような獣が現れる。


「探したぞ……()()

 挑発的な視線にケルベロスが息を荒くする。


 ジオは気付かせる隙も与えずに開いていた距離を詰め、体を捻りながら中央の頭に回し蹴りを入れて地面に叩きつける。


 左右の頭は怯みながらもジオに嚙みつこうとするが彼の放った風魔法によってその頭は吹き飛ばされ、三つあった頭は一つとなってしまう。


「ちゃんと犬らしくなったな」

「首は長いのに頭が小さい、なんか変」

「……だな」


 力を振り絞りながら立ち上がるケルベロスをジオが待っていると、首から流れている血が止まり再生を始める。


「誰だこんな魔物の封印を解いた馬鹿は……」


 瞬く間に再生したケルベロスの頭は再び三つとなった。

 すぐさま炎を吐いてジオに攻撃を仕掛けるが、彼は華麗に空中に飛んで回避する。


 ケルベロスの背中に飛び降り、暴れる暇を与えず痺れさせる。

 続いて吹雪を起こして辺りを包み込むと、膝をついてその大きな背中に触れる。


「子犬、ここまでだ」


 ケルベロスの体が蝕まれ、毛皮に血が滲みだす。


 全身が痙攣したまま微かにうめき声を上げている。


 次第に体中が穴だらけになっていくと、ジオはその背中から飛び降りた。


 彼が離れても尚その体は蝕まれ続け、ついには僅かなうめき声すら消え失せ————


 最後まで残っていた肉片たちは黒い霧と化し、風に揺られながら消滅した。


 倒したことを確認したジオが吹雪を解くと、離れて待っていたネルマが駆け寄る。

「お疲れ様」

「あぁ。待たせたな」

「全然」


「やっと繋がった! 皆大変だ! 今すぐこっちに来て!」

 ネルマの水晶からカイロンが取り乱した様子で声を飛ばす。

「どうした、落ち着いて話せ」

 ネルマが水晶に手を添え、ジオがいち早く声をかける。


「とんでもなく巨大な黒いドラゴンが王都の南西に現れたんだ! まだ鎖で身動きは取れてないみたいだけど、眷属なのか小型のドラゴンを大量に召喚し続けてて大変なんだよ! 王都の戦力もいつまで持つか分からない!」


「やっと出番~、わたしは隣だからとりあえず向かうね~」

「頼むよ! 急いで!」

「はいは~い」

 ケフィーはそう言ってペースを崩さないまま会話から外れた。

「あたしは時間かかるけど、なるべく早く向かうさ」

「私もすぐに向かいます」

「待て」

 ジオがヴィスタシアとヴールを止める。

「戦う前に魔力を無駄遣いするな」

「律儀に船で行けって言うのかい?」

「ものすごい数なんだ! そんなの待ってられない!」

「話を聞け……ヴールは海上でネルマと合流しろ。ヴィスタシアはフィーリアと島の西側の崖で二人が来るのを待て」

「どういうことだい」

 ヴールは理解できず不安そうに聞き返す。

「召喚獣」

「わかりました、お待ちしています」

「乗れってことかい……」

 ネルマのひとことで二人は納得した。


「とにかく早く来て! 僕は援護に戻る!」

「オレはすぐに向かう、焦らず待ってろ」


 水晶から手を離したネルマがジオに尋ねる。

「喚んでいいの?」

「あの様子だとかなり緊急事態なんだろう、仕方ない」

「わかった」


「………………早く喚び出したいネルマであった」


「うるさい」


 ジオとネルマが二手に分かれた頃 王都から南西の荒野にて————

 剥がされた大地に露出した封印の紋、砕けた楔、黒き鱗を纏う竜はそこに留まる。


「くっくっく、間もなく解放して差し上げます。黒竜……インペリウム様」


次回 『解放』

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