たった1人のための英雄譚
僕は『どうして?』『何で?』
そんなことを思いつかないくらい頭の中が真っ白になっていた。今までのこともあり、僕の心はぐちゃぐちゃになっていた。
「前から決まっていたのに、ずっと言えなかった。でももうそろそろこの街を出なくてはならないから今日言うことになったの。急でごめんなさい」
アリシアが話し始めてようやく思考が戻ってきた。
「どう、して」
それが僕の頭から足まで絞り出して出た言葉だった。
「9歳から成人までの6年間に王都にあるアルバート王国学園に全ての貴族の子息は通うことになっているの。そして卒業して成人するとどこかの上級貴族の嫡男と結婚させられる」
「そんなのダメだ!!」
思考はまだ安定していないが反射的にそう叫んだ。心からの叫びだ。いつも不安に思っていたことが当たってしまった。いつまでも平民の僕とはいられない。
「うん、私も嫌。アレク以外と一生を共にするなんて考えられない。だから私が学園に行っている間、あなたには偉くなってほしい。」
何度も思った。僕が偉かったらどれだけ良いだろうか。アリシアと一緒にいても誰も文句は言わない。
だからこそ君に言われたくなかった。
「無理だよ‥‥‥平民の僕じゃ」
無理と聞いたアリシアら失望しただろうか?諦めている僕に幻滅しているだろうか?
「うん、普通の平民じゃ無理だね。でも平民でも唯一偉くなる方法があるわ。S級に、なるのよ!冒険者ランクS。それは人類の頂点。あなたには最強のキメラがいる!それとも、S級を目指す理由が私じゃ足りないかしら?」
「!!!!!!」
そうだ。なぜ見落としていたんだろう。
「足りないわけない!僕は君といれるなら何でもできる気さえしてるんだ」
僕の世界がボロボロと崩れ去り、新たな光が差し込んできた。
「うん、アレクならそう言ってくれると思ってたわ。でもアレクあなた、最近図書館で勉強してたみたいだけど、こんな簡単なことを思いつかないなんて、私がいないとダメね?」
「うん、君がいないと僕はダメダメだ。だがら君と一緒にいるために、少し離れるだけだね」
今までの不安が嘘みたいに吹き飛んだ。僕の心がS級になれるかどうか、全く心配してないみたいだ。
「強くなって、凄くなって、そして偉くなってね!私も学園で頑張って勉強するからアレクも強くなって成人したら私を迎えにきてね!誓って、また再会するって」
「あぁ、必ず人類の頂点、S級冒険者になるまで力と権力をつけて君のもとに行くよ。」
そう言って僕たちはそれぞれの道を歩み始めた。いつのまにか勝手に出てきたキメラも力強く吠えている。
「キメラ、アレクのことよろしくね。私の事となると絶対無理しちゃうんだから。S級になって欲しいけどアレクが怪我をするのも嫌だから」
小さくて可愛いキメラと戯れている姿をみれるのも最後と思うと少し寂しくい気持ちになる。次会う時はキメラは最高にかっこい姿になっているはずだからだ。
「そうだ!名前決めない?キメラじゃ味気ないし、この子がキメラだってバレちゃうじゃない」
確かにそうだ。ほんと、僕がいないとダメだな。
「アリシアがつけてよ。僕って名前センスないからね」
アリシアならきっと良い名前を考えてくれる‥‥‥はず!!
「そうね〜私、あなた達のことを信じてる。believeから、『ビリー』何て名前はどう?アレクが期待してるみたいなセンスの良い名前かわからないけど」
「ビリーか。うん、良いね。その期待に添えるよう頑張るよ。な、ビリー?」
名前がもらえて嬉しいのか気に入ったのか、いつもより気合のこもった声で「グルルルルル!!」と、返事をした。
「アレク、私は学園で勉強。あなたは冒険者としてS級を。お互い自分を磨きにいくだけで一生のさよならではないわ。だから、さようならは言いません。S級冒険者とて、権力は大国の公爵に匹敵するけど貴族ではない。だから、S級になれたら私はあなたを私の騎士に任命します。私を一生掛けて守ってくれますか?」
たった1人を守り抜く偉大な騎士。僕が憧れた存在だ。その憧れに近づくための、準備をしにいくだけ。
「僕はいや、俺はあなたの騎士となるため全力をあげることを誓います」
俺は膝をつき、忠誠を示す。いつの日か騎士となり一生を添い遂げることを誓う。
これは平民の少年がが1人の愛する人のために力と権力を手に入れ、幼き日の誓いを果たのための英雄譚だ。たった1人のための英雄譚。
ようやく物語が動き出してきました。
読んでくださりありがとうございます