崩れ去る音
アリシアと別れたあとキメラと2人部屋のベットに寝転がっていた。初代国王の守護獣でもあった最強格の一体。
「なぁお前はどうしたい?強くなりたいか?僕は今まで通りのんびり暮らしていければ充分なんだけどな」
当然!と言わんばかりに「グルル」と短い返事が返ってくる。
「そうだよな。強くはなりたいよな。なら冒険者にでもなるか?お前がいれば冒険者ランクをC級くらいに上げるのは余裕だろう。ある程度お金稼いで今まで通りネオンとジンとバカやって、いつまでもアリシアと‥‥‥アリシアと一緒に‥‥‥‥‥」
そこから先が出てこない。頭では次に繋がる言葉がわかっていてもアリシアと共にいる未来が見えないのだ。貴族と平民、いつまでも一緒いれるはずがない。
「アリシア、僕はどうすれば‥‥‥‥」
ポロポロと言う音が僕の体の中を流れていく。これはなんの音なんだ?
部屋の中には虚しい沈黙が流れているというのに。
次の日からアリシアと会う時間以外のほとんどは図書館で本を読み漁った。いつもの英雄譚ではなくこの国の歴史についての本を読んだ。何か知識を得ることで良い案が浮かぶのではないかと思った。現実逃避をしたかったからと言うのもある。周りを拒絶し、アリシアと会う時でさえ貴族社会のことを聞くだけで僕からは何も言わなかった。恋人らしいことさえ何もしなかった。そんな生活を1ヶ月ほど続いたある日懐かしいと思える声がした。
「おい!アレク。ここ1ヶ月ずっと図書館に篭って何してんだ?顔色も悪いし、おじさんとおばさんも心配してるぞ!」
今日も今日とて図書館に向かっていると道を塞ぐように立っている二人組がいた。ネオンとジンだ。
「お前最近ちょっと変だぞ?何かあったなら相談くらいのるぞ!?」
わざわざ僕が図書館に行くタイミングを見計らって待ってたみたいだ。ほんと、良い奴らだよ。僕なんかには勿体無いくらい。
「なんでもないよ。ちょっと調べ物があるだけ。2人が心配するようなことじゃないから、そっとしておいてくれ」
ネオンとジンを巻き込むわけにはいかない。だがそれだけで引き下がるようなやつではなかったようだ。
俯いて歩いていた僕の右頬に強烈な衝撃がはしる
「何が『そっとしておいて』だよバカやろう!!何があったか知らないけど俺たち幼馴染だろ?親友だろ!!?心配くらいさせろ‥‥!」
ハッと顔を上げると泣きそうなくらい悲しそうな2人がいた。どうして僕はたった2人の親友にこんな顔をさせてしまうクズに成り下がってしまったのか。僕は申し訳なさ半分、惨めさ半分の気持ちでその場から逃げ出して、家にいた両親の呼びかけも無視して部屋に引きこもった。明日はアリシアと会う日だ。そこで気分を変えよう。そう自分に言い聞かせていた。
またポロポロとした音が僕の体の中を流れていく。
「アレク‥‥こんにちは」
いつも笑顔のアリシアらしからぬ雰囲気だが気にしないことにした。
「やぁアリシア、会えて嬉しいよ」
僕は精一杯の笑顔で答える。するとなぜかアリシアは少し安心したような顔をした。
「無理矢理でもあなたの笑った顔を最後に見れて良かったわ。最近のあなた、少し様子がおかしかったから」
僕は少し違和感を覚えながらもそれは気のせいだと信じる。
「アリシア、君に会えて不安も吹き飛んだよ。ホントに……」
今までも週一回会っていたのだが、そんな矛盾は気にせずこの嫌な感覚を消したかった。
「そっか‥‥今日はアレクに報告と言うか、お話があるの」
やっぱり今日はいつものアリシアらしくない。アリシアの前なのに不安な顔が隠せなくなってきた。
「私たち、お別れしなくちゃならないわ。
ごめんなさい、アレク」
その瞬間僕の頭は真っ白になり何も考えられない何も感じられない。
ポロポロと言う音がボロボロに変わって僕の体を駆け巡る。
そうか、やっとわかった。
これは僕の心が、日常が、世界が、崩れ去る音だ。
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