神隠しの駅
……こんなうわさ話がある。とある駅の、今は使われなくなった◯番線ホーム。毎月◯日の深夜0時、来るはずのない電車が到着する。その電車に乗ったが最後、どこへともなく連れていかれ、その者は二度と帰ってこないのだという。
つまり、神隠しだ。
うわさとはいえ、とある駅の、とか◯番線とか、なんとも曖昧なものだ。しかし、現にこの町では何人かの人間が、音沙汰もなく消えてしまう事件が発生していた。一人二人のうちはまだそんなだいそれた事件となってはいなかった。
だがそれも、五人を超えたあたりからニュースとして大きく取り上げられるようになり……十人を超えた頃には、どこから誰が言い出したのか、このうわさが広がっていった。月に少なくとも一人、忽然と姿を消し、それが毎月続けば……それは事件だ。
さらに、この神隠しの妙なところは……うわさの根源ともなった文章が、神隠しにあった人間から、近しい人間にメールとして届くという。
『明日0時……、……に、来てくれ』
主にこういった内容だ。そこに駅の名前や、ホームが書いてあるという。◯駅の◯番線というのは、もしかしたら一つだけの場所を指しているのではないのかもしれない。
メールが届いた人物は、なぜかその文章に逆らえない。誰かに相談することすらなく、指定された日時に、指定された場所へと赴き……翌日には、消息を絶つ。
うわさはうわさを呼び、神隠しにあった人間からメールが送られてくるのは、寂しいから近しい人間を呼んでいるんじゃないか……そんな駅はなく、単に集団で法則的に家出をして事件っぽくしているんじゃないか……
真実は、定かではない。なにせ、メールを受け取った人間は、みんな消息不明となっているのだから。そして後日……たった一通、届いたそのメールだけが残された、携帯が発見される。
やがて届くメールは、一人、また一人と……消えた人間の数だけ、増えていく。
そして……毎月決まった時間に、人が消える。今日もどこかで、誰かにメールが……届く。