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第3話:ツツジの色って美味しそう

 ピーヒャラドンドンでも、ワッショイでも、歓声でもなく、ざわめきと言うか祭りという雰囲気が具現化した、ある種の空気の様な物が、言問通ことといどおりの向こうから近付いてくる。

 今日はどこのかは知らないけど、祭りがあるらしく街のそこかしこにはふんどしに法被姿の人達が闊歩していて、さっき行った祭りの集まりを見越して、おにぎりや寿司、各種お惣菜や冷えたビールなんかが普段以上に積み上げられていた。

 とは言え、元々町の人間、というのであれば盛り上がるのだろうけど、僕の様に後になってからやって来た新参者は、そこに混じり入るでもなく、けれど町のうかれ具合だけは感じるに留まる。

 ただせっかくのお祭りだし、僕の住むマンション前の言問通も神輿が通るルートだって事なので、物置から、まだ彼女が居たときに買った、オシャレなスツールとテーブルをベランダに引っ張り出して来て、お酒を飲みながら、神輿が来るのをのんびり待っている。



 結果から言えばベランダからの観覧はあまり良くなかった。

 何せ僕の部屋は9階で、地上の人々は米粒の様とは言わなくても、まぁ小っちゃくて、神輿の装飾なんかも見えるはずも無く、むしろ街路樹に遮られて時折チラ見えする感じだった。たしかにそこで歌ってるんだけど、熱烈なファンのうねりに遮られてほぼ見えないアイドルのコンサートみたいなモンだった。

 ただそうは言っても、僕もミーハーというか、単純というか、祭りの空気に当てられて、少し外に出ようかという気になってくる。

 どこからか風に乗って焦げたソースが香って来てて、腹が鳴るんだけど、出店が立ってるんだろうなと思いながらも、祭りのその日にメインステージたる神社なんか行ったら、そりゃ相当混んでるよな、だなんて思ってしまう、貧弱な精神のイマドキの若者なのだ。

 それにさっきの神輿行列の時、それそのものより良く見えていた歩道のツツジに誘われたのもあって、僕は行き先を決める。


「そうだ根津に行こう」


そう声に出して言うと、脳裏にチャラリチャラリチャラリラ〜ンチャラリチャラリチャラリラ〜♪ というメロディが流れる。JR東日本。




 根津という町は、上野の中央通りから見て、上野公園のちょうど反対側を僕の住む入谷側に進んだ先にある、いわゆる谷根千という地域にある。

 谷根千というのは、谷中やなか根津ねづ千駄木せんだぎの省略で、猫で有名な夕焼けだんだんのある谷中銀座商店街やら、これから僕の行く根津神社なんかがあり、ちょっと寄れる飲み屋やギャラリーも多くて、散歩するのにちょうどいい。千駄木? うーんこれと言って何が有名なのかはよく知らない。大丈夫。ディスってません。

 根津神社の周辺に着くと、まぁ混んでる。

 だけど参道とは名ばかりの細い路地にはちゃんと出店も立ってて、ジュージューとソースが焦げている。やったぜ。

 ただ久しぶりに縁日というか、こういう物に来てみると、ずいぶん店の種類も様変わりしているもんだなぁと22歳の若僧ながら思う。

 この間、下北沢で食べたケバブや、果てはタピオカドリンクなんかも売ってる。

 とは言え、出店の出る面積は今も昔も変わらないのは当然話で、増えた店があれば減った店もある。

 何の店が減ったのかなと、遠い記憶とすりあわせても、不思議な事にすぐには思い付かない。

 お好み焼きを食べながら周囲を見渡す。

 うーんやっぱ分からない。あっ、嘘、分かった。食後のデザートと思って探したのに、ベビーカステラが無いよ。ショック。あれ好きなのに。安いし。サービスしてくれるし。




 お好み焼きを食べ終えて、飲みかけの缶ビールを持ったまま、根津神社に足を向ける。

 細い参道のどん詰まりの右側にある石造りの鳥居を抜けると向かって左側が、それはそれは見事なツツジの庭園が広がっている。

 遠目に見ても目に鮮やかな緑と朱がすごい。

 境内を見下ろすようにツツジの堤(ギャグじゃないよ?)がせり立っていて、『根津神社つつじ祭り』という看板が立っている。ここも祭りか。

 堤を擁する庭園の中には観覧の道が整えてあって、300円で入れるらしい。入らないけど。

 だって道には人がひしめき合っていて、見物もままならない感じだし、ほぼほぼオバチャンだから、ここが大阪だったら、あの中にカワイラシイ若者が入ったら、僕のポケットはたちまち飴ちゃんで溢れることだろう。

 それにツツジを見るだけなら、境内から山門横にベンチに腰掛けて、ビールでも飲みながらの方がよっぽどのんびりできそうだ。

 神様のお庭たる境内で飲酒なんて、と思わなくもないが、大丈夫、神様っていうのは、すべからく酒呑みだし、飲みたくなる気分だってきっと分かってくれるはず。うん、きっとそう。



 当初のお目当てだったツツジも堪能したし、焦げたソースこと、お好み焼きも食べた。

 惜しむらくは食後のデザート、ベビーカステラが無かった事だけど、それなら別の物を食べれば良いのだ。

 せっかく根津に来たんだから、と言えば、尻尾の先まであんこぎっしりで有名な、根津の鯛焼きと思うのは、根津ビギナーだ。

 僕くらいのプロネヂスト(3回目)になれば選ぶべきは芋甚のアイス最中こそベストアンサー。さっそく向かう。

 芋甚のアイス最中は夏の友、チョコモナカジャンボみたいな感じじゃない。

 おまんじゅうくらいの大きさなんだけど、アイス部分が凄い。

 柔らかいシャーベットっていうか、固いソフトクリームっていうか、トロっとしててしゅわっと溶ける。濃厚っていうより爽やかな感じで、食べ飽きないサイズっていうのも良い。僕のフェイバリット最中なのだ。ハーゲンダッツのクリスピーサンドより好き。

 味は3種類。バニラと小豆が常設で、季節変わりが1種類。今日は抹茶があったのでこれを頼む。

 前に2回来た時にバニラと小豆は食べたので選択肢はこれしかない。

 抹茶が爽やかに香るのをBGMに谷中銀座に向かおう。猫を愛でて、夕飯の買い出しをして帰ろう。今日の夕飯は、もう決めてあるのだ。

 ゴールデンウィークも半ばを過ぎて、いよいよもって夏の足音が近付いてくる。

 気温こそまだまだ晩春のそれだけど、今年のゴールデンウィークは大気が不安定だそうで、今日も湿度が凄い。だからアイス最中もばっちり美味しく感じたし、日が暮れてもさほど寒くならなさそうだからね。



 自宅マンションに帰って来ても、まだ町は祭りの空気を孕んだままだ。

 顔を赤らめ出した、ふんどしに法被姿の男達が町を歩き、集会所ごとに飲んで回るらしい。

 そんな町の雰囲気を窓の下から感じながら僕は料理の準備だ。


☆ 生ハムローズの冷製ジェノベーゼ ツツジ風 ☆

  ブイヨンを沸かしたお湯に溶いて塩胡椒

  できあがったブイヨンスープにバジル投入

  ミキサーで完全にペーストにする

  生クリームで伸ばしてパスタに絡む硬さにする

  冷蔵庫で冷やしてる間に小休止

  バジルソースと交換でシードルを出して

  キッチンドリンク

  30分くらい経ったらパスタを茹で始める

  その間に生ハムを一枚ずつ巻いて花の形にする

  パスタに冷えたバジルソースを絡める

  生ハムの花とルッコラを飾る

  ピンクペッパーを散らして完成


 今日の夕飯は、ツツジをあしらってみた。

 うん、美味しい。

 生クリームとバジルも、生ハムとルッコラもシュワシュワとリンゴが香るシードルにベストマッチ。

 せっかくだから、ベランダに出しっぱなしのテーブルで食べると、祭りの余韻と、まだ遠いけれど、それでも確実に近付いてくる夏の気配が首筋を撫でて行くのだ。

 僕ってば今日はなんだかポエマーだな。

この話でははじめまして。熊子と申します。


実は私は他にも未完の小説を持ってるんですが、唐突に飯テロ小説が書きたくなって、この話を書き始めたのが3月の末でした。


その時は大してPVも伸びてないし、月イチくらいでのんびり気が向いた時に書こうくらいのテンションだったんですが、先日書いた第2話が、なんだか結構読んで頂いた様で、0話と1話が1ヶ月で240PVしか付かなかったのに、第2話は24時間で150PVも付きまして。

要するに調子にのって、第3話も続けざまに書いたという訳です。我ながら現金な物ですw


また、第2話の後には評価も2件頂き、大変嬉しく思いました。


次こそは多分1ヶ月くらい開くと思いますが、表題通り皆様にも、暇つぶしとしてお楽しみ頂ければ幸いです。

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