元社畜さん、身分証を作る。
半ば強引に友達になったニコルと一緒に話をしたり、日用品と一緒に購入してきたらしいトランプで遊んでいるうちに、あっという間に一週間が経った。
スライムが意外とトランプゲーム強くて物凄く驚いた。
ポーカーとかえげつないくらい強かったわ。
うん?私はどうなんだって?見事に負け続けでしたが何か?
と、いうか日用品だけでも申し訳なく感じるのにトランプとかの娯楽品や衣服も一緒に買ってもらってしまった……
ご飯とかも三食きっちり用意してもらったり、何故か髪も綺麗に切りそろえてもらってしまったし……何だこの至れり尽くせり状態。
これ、どう恩返ししたもんだろうか。
ちょっとハードル高すぎない?大丈夫?大丈夫じゃない、大問題だ……
……まぁ、自問自答していても始まらないし、身分証を作ってからまた考えよう……
とりあえず髪を適当に整えた後、買っていただいた服に着替える。
白と濃い深緑色を基調にした西洋風町娘ファッションだ。
可愛らしいデザインではあるけれど、色合いが落ち着いていて気に入っている一着である。
……初めて着た時はすごかった。女性陣……特にヘレナさんの反応が。
手放し且つハイテンションで褒められる褒められる……
服に着られているだけだって言ったら、「そんなことはない」からの褒め殺しをとっぷり日が暮れるまでされました。
うん、もう言わない。恥ずか死する……
ってそういうことを考えている暇ないんだった。
さっさと身支度整えないとドアの外で待っているニコルに申し訳がない。
それにスライムも「まだなの?」って顔で私を見上げているし。
適当に髪を結って服装におかしなところがないか確認した後、ベッドの上で大人しくしていたスライムを抱えて部屋から出た。
「あ、支度、できた?」
「うん。待たせてごめん」
「大丈夫。ヘレナほどじゃない」
……左様か。
まぁ女の支度は時間かかるもんね、うん。……私が言うことじゃないけど。
「じゃあ、行こう。皆待ってる」
「うん、分かった」
「ぴきー」
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
ニコルに案内された場所は、活気のある広間だった。
どうやら冒険者ギルドの窓口や依頼が張り付けられている掲示板と一緒に酒場も併設されているらしく、仕事の話し合いをしている人の声に混じってご機嫌そうな人々の声とお酒の匂いがしている。
その酒場部分の奥の方にあるテーブルに、ヘレナさん達が囲むようにして座っていた。
ニコルと一緒にそのテーブルに近づくと、ヘレナさんが椅子から腰を浮かせてこちらに手を振ってくれた。
控えめに手を振り返すと、ヘレナさんの手の振り方が激しくなった。
具体的にいうとひらひらからブンブンに変わった。
ちょっと興奮しているのか青白い顔にちょっと赤みが差している。
……ええと、ヘレナさんなんでそんなアイドルにファンサされた女子みたいな反応なんですか……?
他の皆さんが苦笑いしてますよ!ついでに周囲もなんだなんだって顔でそっち見てますよ!気づいてー!
「……ヘレナ、何してるのさ……」
「だって嬉しかったんだもの」
「だってじゃないと僕は思うんだけどなぁ。物凄く注目集めているし」
「あっ」
ああ、うん。今気づいた感じですか……
「え、ええと。ごめんなさいね?」
「大丈夫です」
まぁ私が酒場エリアに入った途端に大半の視線はこっちに向いてたし。
人間は私一人しかいないって言っていたし、そりゃあ悪目立ちはするよね。
「ええと、とりあえず何をすればいいんでしょうか」
「なら受付に行くか。ギルドマスター含む職員にお前の存在は伝えているから登録もスムーズだろう」
マジか。知らないうちにいろんな人に周知されてるってどういうことなんだろうか。
いやでも当たり前だよなぁ。
洞窟内とはいえ、魔族しかいないところに人間がいた、なんて普通に人族側の国から送り込まれたスパイを疑うだろうし。
っていうか私だって疑うと思う。そりゃ上の人に報告だってする。
まぁ、後ろ暗いことは何もしてないから大丈夫だろう。たぶん。きっと。……大丈夫だよね?
そんなことを悶々と考えているとすでに目的の受付まで来ていたらしい。
受付窓口に立っていた浅黒い肌のエルフの女性がこっちに向かってにっこりと笑いかけた。
「あ、こんにちは、アルさん!」
「ああ、こんにちは。この間言っていた件なんだが」
「もしかして例の子ですか?わぁ、目を覚ましたんですね、良かったー!
あ、私はマリーアっていいます!よろしくお願いしますねー!」
「あ、ありがとうございます。私はユーナ=クドゥーです。
その、よろしくお願いします……?」
心底嬉しそうに両手を握られた上に自己紹介までされてしまった。
なんなのだろうか、この歓迎ムードは。
「……申し訳ないがマリーア嬢、手続きをしたいのだが……?」
「あっ、そうでした。すみません!少々お待ちください」
マリーアさんは慌てて私から離れ、カウンターの向こうでごそごそと用意をし始めた。
少しして、窓口のカウンターに透明度の高い球体に磨かれた水晶が置かれた。
なんとなく淡く発光しているようにも見える。
なんかどっかで見た事があるんだよなこれ……どこだったっけ。
……ああそうだ、あの洞窟の小部屋にあった鉱石と光り方が一緒なんだ。
たぶんあの鉱石を丸く成形したのがこれなんだろうなぁ。
疑問が晴れてちょっとすっきりする。
「こちらの魔道具にお手を触れてください」
「ええと……触るだけ、ですか」
「はい。これは触れた者の魔力を吸収して、色と形状を変える魔道具なんですよ。
魔力を吸収した後の魔道具を指輪やペンダントに加工して、身分証として使うんです」
ははあ、そうなのか。身分証というから元の世界と同じように書類状にまとめるのかと思っていた。
世界が違えば身分証の形態も違うんだなぁ、と感動しつつ水晶に触る。
水晶は淡い光を放ちながら徐々に徐々に小さくなり、最終的には手の平大のホワイトオパールのような石になっていた。
おお、いろんな色に光って綺麗だなぁ。
とりあえず加工するって話だし、マリーアさんに預けた方が良いよね。
そう思ってマリーアさんの方に視線を向けると、ぽかーんと口を開けっぱなしにしてこちらを見ていた。
……うん?なんでそんな顔でこっちを見ているんだ?
「う、うそでしょ……こんな大きさ、見たことない」
「色も一見白に見えるが……何だ?様々な色が乱反射している」
なんだか後ろで見ていたヘレナさん達も茫然としていた。
え、なに?なんか変なんですか、この状態?
「……ギルドマスター、報告したら?」
「はっ!そ、そうですね分かりました!」
ニコルに促されてようやく我に返ったのか、マリーアさんは慌ただしくカウンター奥の扉からどこかへ行ってしまった。
「……え、えっと」
「ユーナ。一応それ隠して」
「あ、うん」
なんか見られちゃアカン奴になったらしい。
どういうことだ。
読了していただきありがとうございます。
遅くなってしまって申し訳ございません。
リアルが忙しいのもあり投稿もまちまちとなりますが頑張って書いていく所存でございます。