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元社畜さん、異世界で何します?  作者: 木須田ユーマ
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閑話:ニコルのひとり言


 ベッドの中にいる女性、ユーナの日用品の買い出しに行った皆を視線だけで見送る。

 ぼくはユーナの話し相手兼見張りでお留守番だ。

 見張りと言っても、ベッドから出さないようにするだけだけれど。

 彼女は意外と好奇心が強いらしく、膝の上のスライムをつんつんとつついて構ったり、ぼくの尻尾の動きを目で追ったり、窓から外を眺めたりと視線がせわしなく動いている。

 その動きは見た目も相まってかなり幼く見える。これでも二十六なのだというのだから驚いた。

 どう見てもぼくよりも三歳も年上だなんて思えない。


 彼女を見つけた時は、人族側の国からやって来た間者かと思っていた。

 薄い布地の服だけでダンジョンの中にいたのも、異様に細くて脆弱そうな見た目をしているのも、こちらを油断させるための策なのだろうと。

 だからこそ、真贋魔法を使うことができるヘレナに事情を聴きに行ってもらった……のだけれど、泣きじゃくりながらユーナの部屋から帰ってきたヘレナを見た時は心底驚いた。

 ヘレナに何をあったのかを宥めながら聞いてみると、ヘレナは涙ながらにユーナの身の上を語り始めた。

 ……うん、まさか母親から炭鉱送りにされた犯罪奴隷まがいの扱い……いや、それ以上の不遇な扱いを受けつつ、奉公先でも虐待を受けていただなんて思いもしなかった。

 しかも少し話を盛っているかと思いきや、真実しか口に出していないという真贋魔法の結果が出たのだと。

 姓があるということはそれなりの身分であるだろうに、あまりにも不憫すぎる生い立ちだ。

 と、まぁこの話を聞いたぼく等のユーナへの認識は、『身分の良い家に生まれたにもかかわらず、奴隷まがいの扱いを受けていた女性』というものになり、全員一致でユーナの保護をする決意を固めた。


 ……それにしたってなんでぼくをユーナの話し相手にしたんだろう。

 確かにパーティの中じゃあ一番ぼくが歳が近いけど、会話をするのはあんまり得意ではないんだけれどなぁ……何か話題になりそうなことは……

 話題を探していると、ユーナが「あの」と声をかけてきた。

 視線を合わせると、彼女はためらいがちに続けて口を開く。


「この町ってどんな町なんですか?」

「この町?」


 どうって、普通の城下町なんだけれども……

 あ、そうか。彼女、眠っている間に転移系の魔法であのダンジョン内に飛ばされた可能性が高いんだったっけ。

 ここは魔王城の城下町だと教えてあげると、彼女はぱちくりと目を瞬かせた。

 まぁ、魔族領の外には、亜人族や魔獣はともかく魔族はあまりいないらしいから驚くか。

 ついでにユーナ以外に人間がいないということも教えると、驚いた顔をした後に「ということはヘレナさんも人間じゃない?そうなのかー」と小声で呟いた。

 ……確かにヘレナは吸血鬼だから、見た目だけなら異様に不健康そうな人間に見えなくもないのかもしれない。


「……元気、なったら、なにがしたい?」


 町を見て回りたいのだったら自分が案内しよう。そんな軽い気持ちで聞く。

 彼女は少し考え込んだ後、少し困ったような表情で「分からないです」と言った。


「何をするにも仕事を探さないと。先立つものがないとなにもできませんから」

「……」

「とりあえず毎日ご飯が食べられて、毎日きちんと睡眠がとれればそれでいいかなぁ、と」


 軽い気持ちで聞いたことを後悔した。

 仕事をして、毎日の糧を得て、睡眠をとる。この町の住民が当たり前におくっている生活だ。

 でもその『当たり前の生活』をおくりたいというささやかな願いを、あたかも大層で分不相応な願いであると言わんばかりの表情で彼女は言う。

 分不相応であるはずがない、むしろ今まで頑張り過ぎた分、もっと我儘を言ってもいいはずなのに。

 ……もしかしたら、本当は故郷に帰りたいと思っていたりするのだろうか。

 恐る恐る聞いてみると、キョトンとした顔をされた後、否という返事が来た。

 そして、友人もできたから、と少しの茶目っ気をもってスライムを抱える。

 ……スライムを友人と言う人族は初めて見た。

 スライムの方も一瞬呆けて固まっていたけれど、「ぴきー」と同意をするように鳴いた。

 「仕方ないな」という表情ではあるものの鳴き声に喜色が滲んでいるあたり、まんざらでもなさそうだ。

 そんなスライムをユーナが「素直じゃないなぁ」と言いつつ指先でつついている。

 ……ぼくだって、ユーナの友達になりたかったのに、上位種とはいえスライムに先を越されてしまった。

 妙な嫉妬を覚えつつ、自分も友人の枠に入れてほしいと言ってみるとあわあわと挙動不審になった。

 もう一押しかな?とヘレナ曰く『あざとい仕草』をしながら意地の悪いことを言うと、彼女はやけくそ気味に「も、勿論です!ニコルさん、これからよろしくお願いします!」と叫んだ。

 かなり恥ずかしいのか顔が真っ赤だ。少し涙目にもなっている。

 ちょっと意地悪し過ぎただろうか。ちょっとだけ反省しながら、ぼくは頷いた。


 ……ちょっと、そこのスライム。そんな呆れたような顔しないでくれる?

 あざとさだって立派な武器の一つなんだから、どんな目的に使おうがぼくの勝手。そうだろ?


ここまでの読了、及び作品のフォロー等ありがとうございます。

物凄く励みになっております。

なかなか展開が思うように進まず頭を抱えている次第ですが、ちまちまと頑張っていく所存です。

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