元社畜さん、友達ができる。
さぁて、どうしたもんかなぁ。
ヘレナさん達が出て行き、ニコルさんと完全に二人きりになってしまった。
……何話せばいいんだろうね!
今まで仕事以外で異性と話したことがなかったから話題が出てこないよ!
ニコルさんもニコルさんで何話そうか考えあぐねて困ってるっぽいし。
うん、話し方からしてあんまり話すの得意そうじゃなかったもんね。
……ええと。本格的にどうしよう。何か聞きたいこと……そうだ。
「あの、この町ってどんな町なんですか?」
「この町?」
「はい。見た事がない建造物ばかりなので少し物珍しくて」
この部屋の窓から見える景色の雰囲気としては、全体的に古き良き時代のヨーロッパのような街並みだ。
白っぽい壁に赤みの強い茶色の屋根がとても綺麗だ。
空気もとても澄んでいて呼吸がしやすい。
まぁ、車がバンバン走っている近代日本都市の、排気ガス塗れの空気と比べちゃいけないんだろうけどね。
「……ここは、魔王様が治めている魔族領。魔王城の城下町」
「まおうじょう」
まさかの。
よくあるファンタジーのラスボスが治めている領土に飛ばされるとかマジかー……
あ、いやでもこの人ら私のこと助けてくれたしな……
絶対人間殺すマンだったら私もうこの世にいないだろうし、大丈夫、だよね?
うん、大丈夫だろう、きっと。たぶん。
「あと、この町、人間いない。君だけ」
「なんと」
悲報。私以外の人間がいない。
え、ということはヘレナさんも人間じゃない?そうなのかー……
いや意思疎通できてるし、スライムでさえこちらに対して友好的だったし問題はないか。
むしろこんなに良くしてもらって困惑してるくらいだわ。
「……元気、なったら、なにがしたい?」
「元気になったら、ですか……」
ああうん、そうだよね。
いつまでもヘレナさん達に頼るわけにはいかないし、今のうちに何か考えとかないと……
いやむしろ日用品買ってもらっているっていうのもちょっとアレなわけだけども。
……でも厚意でやってくださっているみたいだし、完全にゼロから始めるのは無理ゲーも良いところだし、甘えさせていただきます。はい。
とはいえ、私にできる仕事ってこの世界にあるんだろうか。
……いや、ポジティブにいこう私。なんとかなるなんとかなる。たぶん。
「……分からないです。何をするにも仕事を探さないと。
先立つものがないとなにもできませんから」
「……」
「とりあえず毎日ご飯が食べられて、毎日きちんと睡眠がとれればそれでいいかなぁ、と」
「そっか。……故郷、帰りたい?」
「いいえ、まったく。帰り方が分かりませんし、あんまり故郷に良い思い出がないので」
むしろ永住する気満々ですが何か?
自分にとってマイナスにしかならない場所に帰るより、新しい環境に適応した方が良いに決まっているし。
「それに新しい友達も早速できましたからね」
「……友達?」
「はい、友達。スライム」
「ぴきっ?……ぴきー!」
おい、今の間はなんだスライムさんや。
嫌そうな顔……顔?ともかく本気で嫌がっている様子じゃないし、そもそもこっちに無関心だったら私今頃行き倒れて死んでるだろうし。
うん、素直じゃないだけだと思っておこう。
素直じゃないなお前~というノリでスライムをつんつんつついていると、服の端っこを引っ張られた。
……うん、このメンツの中で裾を引っ張れるのはニコルさんしかいないよね。
「……ぼくは?」
「え、えっと……?」
「ぼく、友達じゃない……?」
ニコルさんが眉を下げて悲しそうな顔をする。
何だか昔某金融会社のCMで登場していたチワワを彷彿とさせる顔だ。
その顔は私に効くから止めてほしい……
なんか、こう、なにも悪いことしてないはずなのに罪悪感のようなものが疼くから。
「え、えと……友達に、なってもいいんですか……?」
「うん。ぼく、なりたい。ダメ?」
お、おう。いきなりどうしたんですかニコルさん……めっちゃグイグイ来きますね?
友達とかあんまりできたことがないから対応がしどろもどろになってしまう。
ぼっちとか笑わないで欲しい。そういう友達付き合いとかする余裕なかったんだよ!
「それとも、獣人の友達、イヤ?」
「だ、ダメでも嫌でもないです!」
「じゃあ、友達、なってくれる?」
「も、勿論です!ニコルさん、これからよろしくお願いします!」
もう勢いである。どうにでもなーれ!
顔がものすごくあっついから、たぶん顔も真っ赤なんじゃないかな!
ニコルさんは私の勢いに少しだけ呆気にとられた後、
「ニコル、でいい。敬語、いらない。よろしくね、ユーナ」
嬉しそうにふにゃりと笑って尻尾をはたりと振った。可愛いが過ぎるかよ。
……もっと親密度が高くなったら尻尾とか耳とか触らせてくれるかな?
今度ちょっと頼んでみよう。