元社畜さん、今後の予定を決める。
「も、もう一つ用事があったの思い出したわ!」
と、ヘレナさんが場の雰囲気を払拭するように声を上げた。
……まぁ、大事そうな話だし聞いておいた方がいいよね。
左右に引っ張っていたスライムから手を放してヘレナさんの方へ向き直る。
スライムがぴきぴき文句を言っているけど気にしない。
「ユーナちゃ……ユーナは、身分が証明できるものって持っているの?」
……今ちゃん付けしかけたな。
いやまぁ、話が進まなくなるから突っ込まないけどね。
「……身分が証明できるもの、ですか。持っていないです」
そもそもパジャマしか着てなかったからなぁ。
まんま着の身着のままってやつだ。
それに、元の世界で使っていた身分証明できるものがこちらで使えるはずがないからなぁ。
あったとしても、ただの紙ぺら同然だろう。何の役にも立たない。
「そう……それじゃあ、一週間後にでもこの冒険者ギルドで登録しちゃいましょうか」
「冒険者ギルドで登録……ですか?」
お役所とかじゃなくて?
「ええ。身分証としても使うことができるから、普通の町民も登録したりしてるの」
「役所に行ってもいいんだけどね、ちぃと遠いし処理が面倒なんだよ」
「犯罪歴も勝手に登録される。……お前にそんな心配は無用だろうが、心構えはしておけ」
「ルーカス、脅かさない」
そうなのか。それはとても便利だなぁ。
まぁ作っておくに越したことはないだろうし、作っておこう。
犯罪歴の方は大丈夫だろう。
元の世界でもこちらの世界でも犯罪になるようなことしてないからなぁ。
「分かりました。何から何までありがとうございます」
「いいのよ、困った時はお互い様なんだから」
ぺこりとお辞儀をしながらお礼を言うと、ヘレナさんに頭を撫でられた。
この年で頭を撫でられるってむずがゆいな。
嫌なわけじゃないんだけど、流石にちょっと恥ずかしい。
……そういえばなんで一週間後なんだろう?聞いたら教えてもらえるだろうか。
「あの、なんで一週間後なんですか?」
「え?ああ、貴女の療養期間よ」
「わたしのりょうよう」
え。なんで?
首を傾げていると、リーゼさんが呆れたような顔をして口を開いた。
「だってアンタ、奴隷と同じかそれ以上にボロボロだったからさね。
それに、前居たとこじゃあ働きづめだったんだろう?
ちいとくらい休んだって罰は当たらないだろうさ」
「……でも、ここ数年で一番身体の調子がいいんですけれども」
「駄目。自分ではまだ大丈夫だと思っていても、身体の方は悲鳴を上げているなんてよくある話だからね」
「そういうこと。私達は日用品の買い出しに行ってくるから待ってて頂戴ね」
むむむ。
……まぁ、確かに必要に駆られていないのであれば休んだ方がいい、のかなぁ……
でも何もせず寝るだけっていうのもちょっとなぁ。
……ちょっと目を盗んで建物の中を散歩するくらいなら許されるかな?許されるよね?
「あ、話し相手としてニコルを置いていくから、聞きたいことがあったらなんでも聞いてね?」
「……よろしく」
……あなた方はエスパーかなんかですか?
見張りだろ。ニコルさん絶対私をベッドから出さないようにするための見張りだろ……!
そう心の中で思いつつも、笑顔を作って頷いた。
……多分めちゃくちゃ引き攣ってるんだろうなぁ、私の顔……
うん、まぁ大人しくベッドに入っておこう……