元社畜さん、紅茶を飲む。
お久しぶりでございます。更新が遅くなってしまい申し訳ございません……
ちょこちょこ書いていくとは一体何だったのか……
ヘルミンさんに案内された場所は、綺麗な花々が咲いている庭園だった。
その庭園の全体が良く見える位置に、白いテーブルと椅子が設置されている。
その傍にはメイドさんが三人ほど立っており、私たちの姿を確認するや、恭しくお辞儀をした。
おお……リアルメイドさんだ。
スカートが長い、正統派のクラシックなメイドさんだ。
日本のメイドカフェにいるメイドさんは、コスプレチックな露出多めの衣装だからなぁ。
「そちらの椅子に掛けて、お茶でも飲みながらお待ちください。
私はクラウス様を呼んでまいります」
「分かったわ。……さ、座って座って」
「は、はい」
促されるまま、レーアさんの正面に座る。
……私の両隣には当然のような顔をしてフーマとユリウスが座った。
ちなみにジオは私の頭の上である。セージスライムが珍しいのか、一番若いメイドさんが物珍し気にジオを観察していたけれど、ベテランさんらしき初老くらいのメイドさんにジト目で睨まれているのに気づいて、慌ててジオから目を逸らしていた。
……うーん、やっぱりセージスライムって、誰の目から見ても珍しい種族なんだろうか。
冒険者ギルドでも物珍しそうにしげしげと観察されていたし。
何か目印になるようなアクセサリーとかあげた方がいいかな?
いやでもスライムだからなぁ……ぬるんっとすっぽ抜けちゃうかも……
「お茶が入りました」
「あ、ありがとうございます」
ジオのことについて考えていると、目の前にお茶の入ったティーカップが差し出された。
綺麗な淡い赤色の紅茶が揺らめいて、宝石みたいに光を反射している。
見るからにお高い品であると分かる白磁のティーカップに、割れてしまわないかと内心ひやひやしながらそれに口をつけると、紅茶独特の良い香りと爽やかな渋みと苦みが口の中いっぱいに広がった。
……わあ、茶葉も高級品だぁ……いや、王宮の中のものだから当たり前なんだろうけど。
「あら?ユーナちゃん、ミルクとお砂糖はいらないの?苦くない?」
「はい。ストレートで飲むのも好きなので……
と言っても、普段はフレーバーティーにして飲んでいるんですけどね」
「フレーバーティー?」
聞き馴染みのない言葉なのか、レーアさんが首を傾げた。
メイドさんも知らないのか、興味深そうにこちらに耳を傾けている。
え、もしかしてフレーバーティーもないのか……どんだけ食文化が遅れてるんだろう……
「果物の皮や、ジャムを使って簡単に作れるお茶です」
「へぇ~……例えば?」
「うーんと……お鍋でアプフェルなどの果物の皮を水で煮て、そのお湯で紅茶を淹れるだけ、ですかね。
後は果物をジャムにして、紅茶に溶かし入れる方法もあります」
一番簡単なのはジャムを紅茶に溶かす方かな。
ジャムは一度にたくさん作れるし、保存も効くからね。
「じゃむ……とは、何ですか?」
「え、えっと……お鍋に、果物とお砂糖、ツィトロの汁を入れて、軽く混ぜ合わせた後、蓋をして一晩おいておくんです」
「なぜ一晩おくのですか?」
「果物の水分が出てくるんです。水分が出たら、強めの中火にかけます。
沸騰して灰汁が出たら綺麗に取り除きます。
灰汁が残っているとえぐみなどの雑味が出るので必ず取ってください。
焦げないように混ぜながら煮詰めて、とろみが出たら完成です」
「……もしかして、ユーナが朝食に必ず出しているあの瓶のやつか?」
「フーマ正解!」
「あー、アレか!甘くて美味いよなぁ。毎日あるけど日持ちするのか?」
「うん。と言っても、煮詰め方が甘いとそこからあっという間に腐っちゃうし、大体七日間が限度だけどね」
保存料とかの添加物はこの世界にはないからねぇ。
食べ物を長期保存することができる魔法があれば、その限りじゃないだろうけども。
あるのかな、防腐系の魔法。あったら便利だと思うんだけど。
「……も、もしよろしければレシピを教えていただいてもよろしいですか?」
「わ、私も……」
「こ、こら貴女達!お客様にそんな……」
「もちろん、いいですよ。たまにとろみが出ない果物もあるので、注意してください。
パンに塗ったりしても美味しいので、作って試してみてくださいね」
というか、そっちの方が主流だけどもね!
「やった!」嬉しそうに喜ぶ若いメイドさん達に思わず顔がほころぶ。
ベテランさんは全くこの娘達は、と言いたげにため息を吐きながらも口元には笑みを浮かべていた。
うん、女の子は笑顔が一番だよねぇ。
なんて考えていると、
「ほうほう、果物は皮を剥いてそのまま食べるしかないと思っていたが、そのような調理方法があるのだな」
という聞いたことのない男の人の声が、後ろから聞こえてきた。
メイドさん達が慌ててお辞儀をしている。
声がした方へ振り向くと、そこには流れるような黒髪を緩く一つにくくった、金色の瞳をした男性が私を見下ろしていた。
その男性の後ろではヘルミンさんがニコニコと笑って立っている。
……えっと、もしかしなくてもこの人が……?
「ああ、名乗るのが遅れて申し訳ない。
私の名前はクラウス=フォン=ローゼンハイム。
この魔王国を治めている、所謂魔王だよ」
あ、やっぱり魔王様でしたか。




