元社畜さん、挨拶をする。
ヘレナさんが用意してくれた、野菜がたっぷりと入った塩味が優しいスープ料理を食べ終え、一息ついた頃。
私の膝に飛び乗ってきたスライムをぷにぷにしていると、控えめなノック音の後にドアが開いた。
スライムからドアへ視線を移すと、ヘレナさん……と、その後ろに四人の男女がこちらを覗き込むようにして顔を出してこっちを見ていた。
ヘレナさんはともかく、後ろの四人組は誰だろうか……
「ごめんなさい、今大丈夫かしら?」
「はい。……どうかされましたか?」
「本当は貴女の体調が戻ってから私の仲間を紹介するつもりだったんだけれど、ちょっと色々あって予定を前倒しにすることになったの」
お仲間さん……ああ、確かにヘレナさんは魔法職っぽいもんなぁ。
魔法職が一人で行動するのは危険すぎるか。
……いや、魔法職でなくても危険か。集団行動、大事。
「……やっぱり、後日の方がいいかしら?」
「いいえ、問題ないです。むしろいつもより調子がいいくらいです」
久々にまともなご飯とまとまった睡眠をとったからなぁ。
まぁ、一番精神的にキてた母親とブラック会社から物理どころか世界レベルで離れたから心が軽くなったってのもありそうだけど。
「じゃあ、お邪魔させていただくわね」
「はい」
ヘレナさんに続いて他の四人の男女もぞろぞろと部屋の中に入ってくる。
一人目は流れるような長い金髪が綺麗なお兄さん。
耳が長く尖っており、身長がヘレナさんの頭一つ分高い。細くて縦に長い印象だ。
肌は浅黒く、湖面のような緑色の瞳をしている。
特徴からかんがみるに、ダークエルフ、というやつだろうか。
細身の剣を腰に佩いて、銀色に輝く金属製の鎧を着こんでいるのを見るに、近接職なんだろう。
二人目は淡い青色の髪をウルフカットにしている、少し小柄なお兄さん。
顔立ち……というか、外見はまんま二足歩行しているわんこだ。
大体私と同じくらいの背丈だろうか。
ピコピコと動くイヌ科の動物の耳と、腰からはふさふさとした触り心地のよさそうな尻尾が魅力的だ。モフモフしたい。
目はとろんと眠たげに垂れており、綺麗な銀灰色の瞳が覗いている。
動きやすそうな服に革の防具を着こんでいるから、ゲームで例えていうならシーフのようだ。
三人目は大柄で筋肉質な女性だった。
髪の色は真っ白で、赤色の気の強そうなツリ目をしている。
赤い髪紐でポニーテールにしており、額からは二本の大きな角が天に向かって伸びていた。
赤と黒を基調とした露出が高いぴっちりとした動きやすそうな服を着用している。
拳に包帯のようなものを巻いているから拳闘士だろうか。
最後の四人目は、青緑色の鱗と鋭い金色の目の二足歩行のトカゲのような見た目……というか二足歩行するトカゲだ。
しかも筋骨隆々としている。筋肉すごい。もりっとしている。
五人の中で一番の重装備だ。得物は大剣らしく、背中から剣の柄が見えていた。
……なんかこう、狭い。
一人だとめちゃくちゃ広かったのに、一気に狭くなった。主に筋肉で。
「いきなりですまない、君が目を覚ましたと聞いて居ても立ってもいられなくてね……僕はアルトゥール=ハイニヒェンだ」
金髪のお兄さんが申し訳なさそうに眉尻を下げる。
私の体調なんぞ気にしなくても大丈夫なんだけどなぁ。
倒れなければ健康体っていうスタンスだったし。
……うん?いや、彼らからしてみたらダンジョン内で空腹状態で眠っているのは十分倒れていると判断されることなんだろうか……?
「……ぼく、ニコル。目、覚めて、よかった」
続けてわんこ耳のお兄さん。喋るのはあんまり得意でないのか、片言だ。
嬉し気に目を細めて、はたりはたりと尻尾が揺れている。
「アタシはリーゼ。……アンタ、やけにほそっこい体つきだったんだけど、ちゃんと肉を食ってるんだろうね?」
「服を脱がして驚いたよ」と言ったのは筋肉質のお姉さん。
でもなんでお肉オンリー。
……うん、とりあえずお肉はあんまり食べてないとだけ言っておこう。
食べられるような環境でもなかったし。
と、いうか私着替えさせられてたのか。気づかなかった。
「……ルーカスだ」
トカゲさんは名前だけを告げて、ふいとそっぽを向いてしまった。
ええと……私、何かしちゃったかな?
それとも不機嫌?用事があったのに嫌々ここに連れてこられたとか?
「ルーカス、アンタ何そっぽ向いてんだい。
一番このお嬢ちゃんのことを心配してたのアンタだろうに」
「うるさい」
……どうやら違うようだ。ちょっぴりほっとした。
「私はユーナ=クドゥーです。
この度は保護していただいたそうで、なんとお礼申し上げればよいか……」
「ああ、頭なんて下げなくてもいいよ!それに僕等がやりたくてやったことだから」
「そうだよ!それにアンタが頭を垂れるとそのまま落っこちそうで怖いよ」
「……リーゼ。それは少し大げさだ」
「なんだいルーカス。アンタだってちょっと触っただけで身体がへし折れそうだとか言ってた癖して」
「………………う、うむぅ」
ちょっと待って。私どんだけもろいと思われてるのさ。
ちょっと頭下げたり触られたりしたくらいじゃ人間の頭はもげませんし身体はへし折れません。
……このお二人にベアハグされたりしたら、そうなりそうだけど。
「……ええと。そこまでやわじゃない、はずなので」
「ほら、二人とも。ユーナちゃんが困っているからそれくらいにしなさい」
ちゃん……ちゃんって、私そんな年はとっくのとうに過ぎ去っているんだけれど。
「……あの」
「お水……いる?」
「あ、これはどうも……じゃなくて」
「どうかしたの?ユーナちゃん」
「……私、もう二十六になるので……ちゃん付けは、ちょっと」
「「「「「えっ?」」」」」
「えっ?」
……なんでみんな驚いた顔をしてるんだろう?
「……ヘレナ」
「……嘘は吐いてないみたいよ?」
「にじゅうろく」
「「「「「……見えない」」」」」
「アタシはてっきり十五、六歳かと……」
「俺もだ」
失敬な。私はれっきとした成人女性だぞ。背丈だって平均値だ。
……日本人基準だけど。見るからに外国基準っぽいもんなぁ……
にしても、流石に十歳以上も実年齢より下に見られるだなんてあんまりだ。
「……民族的に、背が低くて童顔なのが特徴、なので」
「そ、そうだったの……」
「だから、私が特別、小さくて童顔なわけじゃないので……」
「ああ、拗ねないでおくれ」
「拗ねてないです」
「拗ねてるじゃないさ……」
拗ねてない。断じて拗ねていない。
返事の代わりに私はぷいとそっぽを向いた。
「……ぴきぃ」
こら、そこで溜息を吐くんじゃないスライム。
私が子供みたいに拗ねてるみたいじゃないか。
……いや拗ねてるけども。ちょっとだけ。本当にちょっとだけ。
とりあえず呆れた顔でこっち見てるのがちょっとムカついたのでスライムの両端をつまんで引っ張った。
当然ながらスライムから物凄く抗議された。
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