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元社畜さん、異世界で何します?  作者: 木須田ユーマ
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元社畜さん、お呼ばれする。


「……ユーナちゃん、ちょっと時間ある……?」


 ユリウスさんの冒険者登録もお料理教室(今回はお味噌汁を教えました)もつつがなく終わり、お屋敷いえに帰ろうかと椅子から腰を浮かしたところで、レーアさんから声をかけられた。

 振り向くと、いつものはつらつとした表情ではなく、どこかげっそりと疲れがにじみ出ている顔をしたレーアさんがひらひらと手を振りながらこちらへ近づいていた。


「ど、どうしたんですかレーアさん?なんだか顔が疲れてますが……」

「あー、うん。大丈夫よ。ちょっと頭痛い案件がわいて出てね……」

「ああ……」


 思いもよらないミスとか、お客様クライアントからの突然の追加依頼とかで仕事が増えることってありますよね……


「私なら大丈夫ですけれども……」


 ちら、とフーマとジオ、ユリウス(呼び捨てでいいってゴリ押しされた)の方を見る。


「俺達のことは気にするな」

『緊急の仕事かもしんねぇしな』

「? なんか良く分かんねぇけど、俺なら別に大丈夫だぜ」

「だ、そうです」

「ありがとう」


 レーアさんは私の正面にある椅子に腰かけると、近くにいた職員さんに人数分のツィトロ水(地球で言うレモン水のようなものだ)を頼んだ。

 そして、深い深いため息と共にテーブルに突っ伏す。


「……ええと、本当に休まなくても大丈夫なんですか?

 レーアさんがお疲れでしたら、また後日私の方からお話を伺いに参りますが」

「大丈夫、大丈夫よ……それに、後回しにしちゃったらねちねちとうるっさいのがくるから」

「は、はぁ……そうなんですか」


 ……冒険者ギルドのギルドマスターであるレーアさんに、ねちねちうるさくできる人ってどんな立場の人なんだろう。

 っとと、今はそんなことを考えている場合じゃないよね。

 レーアさんが某司令官のようなポーズになったのが見えたので、私も背筋を伸ばす。


「……ユーナちゃん、あのね……

 『ユーナに会ってみたい』って言ってる人がいるのよ」

「私に、ですか?」

「ええ」


 私に会ってみたいって……何でだ?

 妙に事実が誇張された噂が流れている以外は普通の人間なんだけどな、私。

 私が不思議がっているのが分かったのか、レーアさんが苦笑しながら口を開いた。


「ライヒェンバッハ伯爵に一度ご馳走したことがあるんでしょう?」

「へ?あ、はい。エマさんと一緒に様子を見に来てくださったので、お昼を一緒に」


 キッシュと野菜のマリネ、コーンスープを簡単に作っただけなのに、ものすっごい絶賛されちゃったよ。

 見た目も綺麗でこんなに美味しいもの初めて食べたとかなんとか。

 レシピを書いて渡したら泣いて喜ばれちゃったよ……

 あ、もしかして……


「その人が私に会いたがっている理由って、私の料理が気になったからですか?」

「そうなのよ~……相手が相手なだけに断りづらいし……」


 確かに、ネルソンさんは貴族だから、話した相手も貴族なんだろう。

 貴族からのお願いならレーアさんが対応で気疲れするのも納得だ。

 ……ネルソンさんは別だけど。エマさん保護した後の様子から察するに、顔見知りどころかお互いフランクなやり取りをする程度には仲良くなっちゃってるみたいだし。

 ともかく、断りづらいってレーアさんも言ってるし、会うだけ会ってみようかな。


「分かりました。日程などは決まっていますか?」

「え、いいの?」

「はい。レーアさんにはお世話になっていますので、断って迷惑をかけたくありませんので」


 それに断って貴族の不興を買いたくないし。

 なんて思っていると、レーアさんが片手で顔を覆って天を仰ぎ始めた。

 ……ヘレナさんといいレーアさんといい、良くあのポーズしてるけど何なんだろうか。


「……うん、ありがとうねユーナちゃん。日程はまだ決まっていないから後日伝えるわね」

「はい。……ところで、私に会いたがっている人ってどんな人なんですか?」

「あー……そういえば言ってなかったわね……」


 レーアさんは少しだけ言うのを躊躇った後、目を泳がせ、口元を引きつらせながらその人のことを口にした。


「クラウス=フォン=ローゼンハイム……この魔王国を統べている魔王様、ね」


 ……うん。

 うん。決断早まったかもしれない。


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