閑話:ギルドマスターの憂鬱
明けましておめでとうございます。
かなり期間を空けてしまい申し訳ございません。
リアルの方でいろいろとごたごたがございまして……
相変わらずのゆっくり進行となりますが、今年もよろしくお願い申し上げます。
レーアはひくひくと痙攣する眉間を押さえながら、頭を抱えていた。
そんな彼女の目の前には、流れるような黒髪の青年がにこにこと笑いながら座っている。
青年の隣には、彼付きの執事らしい老年の男性が控えていた。
「どうしたんだ?」
「……色々言いたいことはあるけれど――あんた、何しに来たのよ」
「何って……手紙を届けに?」
にこにこと笑い、首を傾げながらそう言った青年の言葉を聞いて、レーアのこめかみに青筋が立った。
「自分で書いた手紙を、自分で手渡しに来るアホが何処におるかァーッ!」
「ここにいるじゃないか、あっはっは」
「あっはっは、じゃない!そもそもアンタ魔王でしょうが!仕事どうしたのよ!」
レーアは目の前の青年――魔王に、至極当然な疑問を投げつけた。
執事はレーアにたいそう申し訳なさそうな顔を向けていたが、魔王はけろりとしている。
「ちゃんと仕事は終わらせてきたよ。休みをもぎ取るの、結構苦労したよ」
「……で、その苦労してもぎ取った休みで、何でここに来たのよ」
「それはほら……心当たり、あるだろう?」
笑みを絶やさずに放たれた言葉に、レーアの脳裏に一瞬ユーナの姿が過る。
「……ユーナのことなら報告書にまとめて提出したじゃない」
「うん、そうだね。でもアレに書かれていない内容を最近耳にしてね」
「報告書に書いていない内容?」
そんなものあっただろうか、とレーアが首を傾げながら反芻すると、魔王は頷いて口を開いた。
「ライヒェンバッハ卿から聞いたよ。彼女の作る料理は天下一品だって」
「……あー」
そういえば料理に関しては何も書いていなかった気がする。
その時はまだユーナの作る料理を食べたことがなかったし、《苦痛耐性:10》と《毒耐性:3》の二つのスキルがショッキングすぎて料理スキルや称号、加護のことがすっぱり頭の中からなくなっていたので。
「その様子を見るに忘れていたのかな?」
「……はい、申し訳ありません。
何分、彼女の所持スキルにショッキングなものが多々あったもので……」
「うん、その気持ちは痛いほど分かるからいいんだけども」
「……初めてあの報告書を見た後、珍しくクラウス様がお怒りになられましたからね。
爺は久々にクラウス様の怒鳴り声を聞きました」
「え、何それ」
「爺、それは言うなって言ったよね?」
「おっと、失礼。口が滑りました」
「えぇ?!ちょっと、気になるんだけど!」
「そ、そんなことよりも!本題に入らせてもらうよ!」
話を遮るように魔王……クラウスが声を上げた。
どうやら知られたくないことだったらしく、首まで真っ赤にしていた。
「何よ、本題って。まさかユーナの料理を食べてみたいとか?」
「良く分かったね、その通りだよ!」
「おいお前ふざけんなよ」
「ふざけてないよ?」
冗談で言ったことが本題だと言われ、レーアは頭を抱えた。
「だって王宮の料理よりも美味しかったなんて言われちゃったら気になって気になって」
「申し訳ございませんレーア様……しかしながら私も気になっておりまして」
「……まあ、しょうがないわね。一応ユーナにお願いしてみるわ」
「わぁ、ありがとうレーア!」
「ありがとうございます」
心底嬉しそうな表情で「楽しみだなあ」なんて言っている魔王を眺め、レーアは疲れを吐き出すような溜息を吐いた。
「ユーナに何て説明しよう」なんて考えながら。




