元社畜さん、仲間が増える。
なんか事実が大げさに誇張されて町中に広まっているということを知って、心の中で白目になりつつお昼ご飯を平らげた。
……全く味がしなかったです。
今日のタマゴサンド、いい出来だったんだけどなぁ。
とりあえず報告に必要な分の魔晶石は確保していたので、メリーとシロに乗って町に帰ることにした。
遅くなるとなんか大げさに心配されちゃうからね。
主にヘレナさんやレーアさんに。
……、……。
……なんだろう、私が一日でも町に帰らなかったら、ギルドの人達総出で捜索隊が組まれそうな気がする。
……うん!これについて深く考えないようにしよう!
帰りが遅くならないようにすればいいだけだからね!
……私、一応成人してるんだけどなぁ……
皆の私に対する心配の仕方が子供に対するそれなんだけど。
「どうかしたのか?なんか難しい顔してるけどよ」
「あ、えーっと……きょ、今日ギルドの人達に教える料理何にしようかなぁ……って」
べ、別に子ども扱いされてることに落ち込んでたわけじゃないよ。
「へー、ユーナは冒険者稼業の外にも料理人みたいなこともやってるんだな」
「お願いされたからっていうのもあるんですけれど、最近は料理するのが楽しくて仕方ないんです。
食べてくれた人に『美味しい』って言ってもらえるのが嬉しくて……」
調理師を志していた子達はこう言ってもらえるのが嬉しくて目指してたんだろうなあ。
中学の時に、楽しそうに将来の夢を語っていたグループの子達を思い出して納得する。
私は金銭的に安定した職に就きたかったから適当な会社に就職したんだよなあ。
……まあ、蓋を開けてみたらブラックだったんだけどね。
「……そっか!なら俺がこれから毎日、ユーナの料理食って『美味い』って言ってやるよ!」
「残念だったな。もう俺が言ってる」
「あ゛?!」
「あ、あはは……ありがとうございます、ユリウスさん。
でもユリウスさんもお家に帰らなくても平気なんですか?」
もしかして旅の途中だったりするのかな?と思いつつ訊ねてみると、ぴしりと硬直した。こころなしか表情も少し強張っている。
……えっと、もしかして聞いちゃいけないことだったかな?
「あー……家な?家……」
「なんだ、まさか家出でもしてきたのかお前」
「うっ」
図星だったのか、言葉を詰まらせてふいとそっぽを向いてしまった。
どうやら家出少年だったらしい。
フーマもまさか当たっていたとは思っていなかったらしく、目を丸くしてユリウスさんを見ている。
そっぽを向いたユリウスさんは「あー」とか「うー」とうなった後、まるで絞り出したかのようなか細い声で「悪いかよ」と呟いた。
「……それはお前……帰った方がいいんじゃないか?」
「ぜっっっっっっっったいに嫌だ」
『すげえ力いっぱい嫌がるなぁオイ』
「えっと、家出した理由、聞かせてもらってもいい?」
「……呆れねえか?」
「うーん……場合によるかも……?」
明らかにユリウスさんが悪いことしてるんだったら怒っちゃうかも。
ユリウスさんは私の言葉にちょっぴり不満そうにしたけれど、ぽつぽつと話し始めた。
「……一応な?婚約者いたんだよ、俺」
お、おう。婚約者いたのか。何で私に求婚したし。
……うん?でも過去形だな……?
フーマも同じところが気になったのか、首を傾げて静かに聞いている。
「ガキの頃から親同士で決められててよ、俺も相手のこと嫌いじゃなかったし、『幸せにしてやんなきゃな』って思ってたんだ」
「だったらなんで家出なんかした?」
「……、……。……れた」
「「『うん?』」」
「……婚約者……兄貴に寝取られた……」
ぴしり、と今度は私達が硬直した。
ひくひくと口元が引き攣る。フーマも口元が引き攣っている。わかる。
「しかも婚姻の儀の前夜に、婚約者本人と兄貴の口からカミングアウトされた……
ついでにもう腹ン中に子供もデキてるって……」
『お、おう……』
「俺は婚約者の娘が幸せなら、婚約破棄して兄貴と結婚しても構わないって思ってたんだけどよ……
親父が何をトチ狂ったか、そのまま俺と結婚させて俺の子として育てさせようとしてな?」
「は?!」
「それ知ったおふくろがブチギレて親父と顔合わせただけで喧嘩し始めるようになったし、婚約者は見るからに元気なくなるし、兄貴はそもそもうろたえるばっかりで頼りにならねえから、置手紙おいて家出してきた……」
……うん。
おっっっっっも……!
いや本当どうしてそういう発想になったんだ親父さん!
そりゃあ奥さんだってキレるし、息子だって家出したくなるわ!
っていうかそもそもお兄さんはうろたえるな!頼りにならないって言いきられてるよ?!
弟の婚約者寝取った時の度胸どこおいてきた?!
「……え、ええと……行くとこ無いならうちに来る?
ご飯もお布団も、何だったら一人部屋も用意するから……ね?」
「そうだな……とりあえずそうしておけ、な?」
「……生活費……」
「律儀か。ただ飯ぐらいが嫌なら冒険者として俺達のパーティに入ればいい」
『……まあ、なんだ?……ドンマイ』
「……うん……ありがとう……」
……ギルドに帰ったら依頼完了報告と一緒にユリウスさんの冒険者登録もやっちゃおう。
そんでもって今日のお夕飯は《ネットモール》で美味しいお肉を買ってご馳走にしよう……




