元社畜さん、諦める。
剣呑な空気を払拭するために勢いでお断りした後、二人から何故かめちゃくちゃ年齢確認された。
なかなか二十六歳だって信じてもらえなかったです。
……そんなに幼く見える?私。
あとフーマとの関係もちゃんと訂正をいれました。
……ら、「じゃあまだ俺も可能性あるよな!」となんか嬉しそうにされた。
フーマがちょっと不満そうに顔をしかめていたんだけど……なんで?
とまあこんな感じでちょっぴりギスギスした空気の中、『んなことより腹減った。飯にしよーぜ』というジオの空気を全く読まない発言によりお昼ご飯にすることになりました。
もちろん、鳥人さんも一緒です。
会ったばっかりの人だけど、まあ、悪い人じゃなさそうだし、仲間外れは良くないよね。
「……う、うまああああああああ!何だこれ、美味いな?!」
「ありがとうございます」
「……にしてもアンタの周りの男どもは見る目がねえなぁ。
こんなに器量も気立ても良くて美味い飯が作れる女、そうそういないだろうに」
「あ、あはは……ありがとうございます。お世辞でも嬉しいです」
「世辞じゃねぇっつのー」
……うん、ずっとこの調子で口説かれまくってます。
フーマの目が怖いです。
っていうかしょっちゅう鳥人さんと視線がぶつかっては睨み合ってるよ……
「え、えーっと……あ、そうだ。そういえばお名前聞いてませんでしたね」
「あ、そうだった。俺としたことがうっかりしてたわ……
そんじゃあ改めて、俺はユリウスってんだ。よろしくな」
「私はユーナ=クドゥーです」
私が名乗ると鳥人さん改めユリウスさんが「えっ」と驚きの声を上げた。
うん?私なんかおかしいこと言ったかな?
「へえ。ユーナって貴族だったんだな。意外だ」
「え?私貴族じゃないですよ?」
「え?」
「え?」
何で私が貴族という発想になったのか。
別にいい服を着てるわけでもないし……あ、アダマンタイト製の籠手をしてるからかな?
「いやいやいや、ファミリーネームがあるってことはそれなりの家格があるってことだろ?」
「……、……。……あー」
あー!そっか!そりゃそうだ!
あっちの世界ならともかく、中世ヨーロッパ風の世界観だったらファミリーネームは貴族くらいしか持ってないわな!
ってことは結構な人数の人達に勘違いされちゃってる?!
うわぁ……うわぁ、どうしよう。訂正するの面倒くさい!
「ああああああ……」
「ど、どうした?!俺なんかヤバいこと言った?!」
「だ、大丈夫です……自分のアホさ加減に絶望してただけなんで……」
ううう、どうやって訂正すればいいんだろ……
貴族であるという勘違いをどう訂正するか考えていると、ぽん、とフーマに肩をたたかれた。
思わずフーマを見上げると、なんだかものすっごい慈愛のこもった瞳で見下ろされている。
え、何どうしたの急に?
「大丈夫だ、ユーナ」
「へ……?」
「貴族の生まれであるにもかかわらず冷遇され、実の親であるはずの女に奴隷以上の酷い扱いをされていたことも、父親が突然蒸発したことも、奉公先で過剰に仕事を割り振られたり酷い虐待をされて慰み者にされていたことも、ユーナのことを憎からず想っている誰かに転移魔法で逃がしてもらったことも、あのギルドの連中は全員知っててユーナのことを受け入れているからな。
例えユーナの親を名乗る人間が現れたとしても引き渡されるようなことはないだろう。
むしろ名乗った時点でギルドどころか町の奴ら全員を敵に回すことが確定しているから安心してくれ」
「」
――あっ、これアカン奴だ。
もう訂正しきれないところまで話が広がっていらっしゃる。
町単位ってどんだけ周知されてんだ。
っていうか私のことを憎からず思っている誰かって誰だ。どっから生えてきた。
「ごめんなユーナぁ!俺嫌なこと思い出させちまったよな?!本当にごめん!」
ユリウスさんにも事実として受け止められたらしく土下座スタイルで謝られた。
……うん。もういいや。
今日から私は貴族出身で親に愛されたことがない薄幸の令嬢ってことで。
人生、諦めが肝心だもんね……
改めて痛感したよ。うん。




