元社畜さん、鑑定する。
待っているフーマ達の分のキュルビ料理を持って飲食コーナーへ向かうと、フーマとジオ以外にレーアさんと"白銀の牙"の面々も一緒に待っていた。
一瞬、フーマ達から話を聞いて一緒に味見待ちしてるのかな?と思ったけれど、眉間にしわを寄せて話し込んでいるのを見るに違うようだ。
……うんと、後からの方がいいかなぁ……スープは温めなおせるけど、肉巻きキュルビは焦げるかなぁ。
「あ、ユーナ!ちょっと用事があるんだけど、忙しい?」
どうやって肉巻きキュルビを温めなおそうかと考えながらキッチンに引き返そうとすると、後ろからヘレナさんに呼び止められた。
どうやらフーマじゃなくて私に話があったらしい。
「大丈夫ですよ。どうかされたんですか?」
「ちょっと《鑑定》で調べてほしいものがあって。
……って、それ新作料理?美味しそう!」
「レシピも作り方も料理人さん達に教えたので今日からでも食べられると思いますよ」
「……今じゃ、ダメ?」
「フーマ達のだからダメ」
物欲しそうに聞いてきたニコルにはちょっと申し訳ないけれど断ると、ニコルは「むぅ」と器用に口元をとがらせた。
……そ、そんな風にされてもダメなものはダメ……ダ、ダメなんだからねっ。
「……ええと、スープは余ってると思うから、持ってこようか?」
「! うん」
ダメなのは私でした。
うう、あの耳としっぽが悪いんだ……目に見えてしおれちゃってぇ……
テーブルにいた人数分の、余っていたキュルビスープを持ってテーブルに戻ると、皆一様に難しそうだった顔を喜色満面の様相に変えた。
……なんだかひな鳥に餌付けしてる気分だ。
『美味い。甘い。でも砂糖じゃないよな、この甘さ?』
「甘い……が、美味いな」
「本当、甘い。これ何のスープ?」
「キュルビですよ。熱を加えると柔らかくなるので蒸し焼きにして、潰してペースト状にして、そのペーストをミルクで溶かしながら温めたんです」
「あの硬いキュルビをスープに?!」
「なるほど、キュルビって熱を加えると柔らかくなるのね……」
「この肉を巻いたキュルビもいいねぇ。甘じょっぱくて。エールに合いそうだ」
「ありがとうございます。こっちは今夜から出すって料理長さんが息巻いてましたよ」
「そりゃあ楽しみさね!」
「「……って、そうじゃなくて」」
皆で食べたり感想をもらったり、楽しくわいわいと喋っていると、本題を思い出したのかレーアさんとヘレナさんが声をハモらせた。
あ、そういえば私に話があったんだっけ。うっかりうっかり。
「ええと、鑑定してほしいもの、とは?」
「実はだいぶん前から一部のダンジョンで見たことがない魔物が出たって報告があったの」
「見たことがない魔物?」
うーん……魔物のことはとんと分からないんだけどなぁ……
「ええ。それで私達"白銀の牙"が調査に行ったんだけど、その魔物がドロップしたものが良く分からなくって」
「食材しか採取できないダンジョンでドロップしたものだから、食材だってことは分かるんだけどね……」
「えっ、食材ってダンジョンで手に入れられるんですか?」
「ああ、そうだ。麦などの畑で育てられている作物も一応あるが、それも一番初めはダンジョンから採取されたものだからな」
新事実。
食材ってダンジョンで手に入れられるんだ。
それじゃあこの世界の人達にとってダンジョンっていうのはなくちゃいけないものなんだね。
「そのドロップしたものがこれなんだけど……食べてみたら辛いのなんのって、食べられたもんじゃなかったのよ」
「おまけに大量にドロップしちまってさぁ。報告義務があるから全部持って帰ってきたんだけど、どう処分するか困ってんのさ」
「他にもドロップしたものはあるけど、一番初めに食べたあの実でちょっと食べるのに抵抗ができてしまって……」
「だから、鑑定、してほしい」
なるほど、鑑定してほしいから鑑定スキルを持ってる私に調べてほしいと。
「いいですよ。お役に立てるんでしたら喜んで」
「ありがとう!それじゃあドロップ品を一個ずつ並べていくわね」
ヘレナさんはそういって、色とりどりの木の実や袋をテーブルに並べていった。
大袋に入ってるものは、レーアさんが取り出した紙の上に少量をのせた。
……黒っぽい緑色の木の実だけ、いやに慎重に取り出していたのから察するに、食べてみたものっていうのがそれなんだろう。
失礼だけど、ちょっと笑ってしまいそうになった。
さて、どんな食材なんだろう。
ヘレナさんが齧ったと思しき木の実を鑑定してみよう。
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■セーユの実(濃い口)
そのままかぶりつくと塩辛い木の実。
搾ったものを適量使えば料理や食材が美味しくなる調味料。
"地球"でいう醤油のようなもの。
実の色によって種類が違う。
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……なんですと?!
「つかぬことをお聞きしますが、もしかしてこれにかぶりついた……?」
「良く分かったわね、そのとおりよ」
「……それは辛いですよ……これ、調味料です。
搾った果汁を料理や食材に少し使うと美味しいものですね」
「そうだったの?!」
「丸ごと食べちゃいけなかったんだね」
そりゃあこれを丸ごと食べようとしたら味覚的に悲惨な状態になるだろう。
というか、下手したら塩分過多でぶっ倒れかねない。良く倒れなかったな……
「他のはどんなものなの?」
「ええと、ちょっと待っててくださいね」
レーアさんに急かされたので他のドロップ品も鑑定していく。
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■ミソラの壺(合わせ)
中にミソラがたっぷり入った壺。
"地球"でいう味噌のようなもの。
壺の色によって中に入っている種類が違う。
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■スーの実(米酢)
非常に酸っぱい果汁が特徴の木の実。
"地球"でいうお酢のようなもの。
実の色によって種類が違う。
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■コッソメの壺(顆粒)
中にコッソメが入った壺。
"地球"でいうコンソメのようなもの。
中身は顆粒だったり固形だったり様々。
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■ミリの実
特徴的な甘みと少しの酒精が入った果汁が特徴の木の実。
"地球"でいうみりんのようなもの。
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■ソッスの実(中濃)
複雑な味がする、とろみのある果汁が特徴の木の実。
"地球"でいうソースのようなもの。
実の色によって種類が違う。
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■トガーラ
刺さるような辛みが特徴の植物。
"地球"でいう唐辛子のようなもの。
これを触った手で目などをこすると悲惨な目に遭うので注意が必要。
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■ワサワサ
突き抜けるような辛さが特徴の植物。
"地球"でいう山葵のようなもの。
単品で食べると後悔するけど少量を料理や食材に使えば美味しい薬味になる。
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■サンショの実
痺れるような辛さが特徴の小さな実。
"地球"でいう山椒のようなもの。
すりつぶして適量を料理に使えば美味しい薬味になる。
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……全ての結果に『"地球"でいう』っていうフレーズがついてるの何でだろう。
もしかして今朝ファイン様が言ってた『すでに手は打ってある』ってこういうこと?
流石神様。新種の魔物のドロップ品としてあっちの世界のものをこっちの世界に持ってくるとは……
口頭で鑑定結果を伝えると、驚いたり安堵したりと反応は様々だった。
うん、大体半分くらいの確率で、覚悟できてない状態で食べると後悔するようなものばっかりだったもんね。
警戒心を呼び起こしたという点ではヘレナさんのファインプレーともいえるかも。
「……と、いうことは」
「料理の幅が広がるってことよね?」
「そうですね。使ってみたいです」
もしかしたらあっちとこっちとで差があるかもしれないし、比べてみるのもいいかもしれない。
そう思いながら、早くもわくわくしている皆を眺めながら口元を緩めた。
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