元社畜さん、不思議な夢を見る。
皆でご飯を食べた後に片づけをして、その日はお開きになった。
食べている間、興奮気味な皆から美味しい美味しいと感想をもらって、少し気恥ずかしかった。
……いや、でもまぁ、正直物凄く嬉しかった。
だって料理のことで感想をもらったことがなかったし。
感想もらえると次作るときの活力になるね。
閑話休題。
お開きになった後レーアさんと"白銀の牙"の皆はギルドへ帰っていった。
それを見送って、明日に備えてもう寝ようということになって、各々の部屋で休むことになったのだけれど……
……何やら壁も床もない、真っ白で何もないところで栗色の髪をした、女性らしき人に土下座されております。
今日は土下座されることが多い日だなぁ……
……ところでここはどこだろう。お屋敷にこんなところはなかったし……
……夢、かな?うん、夢だね。
『……願い……しま……神殿……』
「え?」
女性が何事かを言っているけれど、ところどころノイズがかかって聞き取れない。
『……殿……来て……話……お願い……』
「……ええと、神殿に来てほしい、であってますか?」
とりあえず所々聞き取れたところを適当に繋ぎ合わせて問いかけてみると、女性は顔を上げてこくこくと必死に頷いた。
あっ綺麗な顔立ち。金色の瞳が神秘的だ。
女性が再度土下座の姿勢に戻ると、目の前がぐにゃりと歪んで――
『おーい、朝だぞ起きろ』
……次に見えたのは、ジオのドアップだった。
紫色のゼリーボディが朝日に照らされてちょっとまぶしい。
いや、キラキラしてて綺麗なんだけどね。
「……おはよう」
『おーおはようさん。なんかしかめっ面で寝てたけど夢見でも悪かったのか?』
「んー……いや、悪くはなくて、どっちかというと不思議な夢見……?
なんか栗色の髪に金色の瞳をした綺麗な女の人に神殿に来てほしいって呼び出されたんだ」
『なんだそりゃ』
「それなぁ」
本当に不思議な夢見だったわ。
ちょっとだけ気になるし、一度神殿に行ってみようかな?
今まで気にしてなかったけど食神様の加護がついてるみたいだし、それのお礼もしておこう。
……お礼が遅いとか言って怒ったりとかされない……よね?
……とりあえず心が広い神様であることを願っとこう。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
夢のことが気になる気持ちで悶々とする朝食を終えた後、フーマとジオを連れて神殿へ行った。
気になることを放置してるのは気持ち悪いからね。
それに、夢の中で会ったあの女性、結構切羽詰まってるように見えたんだよね。
土下座までしてたし……会えるといいんだけど。
あ、神殿と一口に言っても、ここは病人やケガ人の受け入れをしている神殿じゃなくて、お祈りを捧げたりするための神殿らしい。
ややこしいなぁ……
病人やケガ人の受け入れをしてるところは診療所とか病院だとかに名称を変更すればいいのに。
「あら、こんにちは」
「こんにちは」
神殿の入り口に近づいたところで、掃除をしていたシスターさんに挨拶された。
どうやら白猫の獣人さんらしい。腰のあたりから白くて長いしっぽが飛び出している。
……流石に触ったら怒られるだろうし、獣系の魔獣をテイムするまではもふもふは我慢しよう。
「お祈りにいらしたんですか?」
「あ、はい。でも初めて来たので、お祈りの方法とか決まっていたら教えてほしいです」
「あら、そうなんですか?大丈夫ですよ、お祈りは自由に行ってください」
「ありがとうございます」
シスターさんにお礼を言って、神殿の中に入る。
神殿の中にはちらほらと祈りを捧げている人がいた。
皆熱心に祈りを捧げているなぁ……敬虔な信者さんなんだ。
さて、私もお祈りしよう。
神様を模しているだろう真っ白な像の前に膝をついて、両手を組んで私に加護をくれたらしい食神様に祈る。
……あっ、そういえばこの神殿、どの神様を祀ってるんだろう……
ま、間違ってたらすいません。
『大丈夫よ!皆自分の祈りたい神様に祈ってるから!』
「そうなんですか……教えてくれてありがとうございます……って、うん?」
私、今声に出してたっけ?
閉じていた眼を開いてみる。
目の前には昨夜見た夢に出てきた、栗色の髪の女性が嬉しそうににこにこと笑って私を見下ろしていた。
というか、場所も神殿からあの壁も床もない真っ白なところになっている。
『ごめんなさい、夢を経由するとなかなかこことつながりづらくて……』
「……えっと、貴女は一体?ここは?」
『あっ、そうだったわね。私の名前はファイン。食神ファインよ。ここは私の神域。
貴女に頼みたいことがあって、ここに招待させてもらったわ』
女性……食神ファイン様はそう言うと、『いきなりごめんなさいね』とちょっぴり申し訳なさそうに眉を寄せた。




