元社畜さん、お願いされる。
ネルソンさんと別れた後、アイテムボックスの中に入れていた荷物を各々の部屋に出して整理した。
と言っても服や装備くらいしかないけど。
その後は昨日できなかったフーマの読み書きの勉強をした。
初めてする勉強が楽しかったのか、フーマは半日もしないうちに文字の読み書きを覚えた。
少し覚えが良すぎる気もするけれど、それだけやる気があったってことだろう。
昨日はわざとじゃないとはいえ、約束をすっぽかしちゃったからなぁ。
よし、今日は引っ越し祝いも兼ねてご馳走を作ろう!
……と、意気込んだは良いものの、何を作ろうかね。
ご馳走……ご馳走かぁ。
うんうんと何を作ろうかと考えあぐねていると、来客を知らせる鐘の音が聞こえてきた。
……誰か来る予定ってあったっけ?
玄関から顔を出して門の方を見てみると、門の前にヘレナさん達の姿が見えた。
あとついでにレーアさんも。
え、何でここにいるの皆。
「こんばんは。どうしたんですか皆さん」
「こんばんはー!家持ちになったお祝いに来たのよ!」
「ごめん、止められなかった」
にこにこと笑いながらそう言ったヘレナさんに対し、ニコルはちょっとバツが悪そうに顔をゆがめていた。
……うん、このテンションは止めきれないだろうね。
「私はユーナちゃんにお願い事があってね……」
「お願い事……ですか?とりあえず中に入ってください。
玄関先で長話というのもあれですし。お茶もお出ししますね」
「ありがとう、ユーナちゃん」
六人をリビングまで案内して、紅茶を出す。
紅茶は《ネットモール》で購入したものだ。確かアールグレイとかいう品種だったはずだ。
「あら、綺麗な色ね。それにいい香り。紅茶淹れるの上手ねぇ」
「ありがとうございます」
母親が嗜好品には煩かったからなぁ……紅茶だけでなくコーヒーや緑茶も叩き込まれた。
でもまぁ、皆が喜んでくれてるんだったら悪くないかな。
「ところでレーアさん、お話というのは……?」
「あー……うん、昨日ジャーマンポテトとフライドポテト、作ってくれたでしょう?」
「え?ええ、そうですね」
「で、ものすごーく大好評だったじゃない?」
「そうですね……?」
正直どこのお家でも作れるようなお手軽簡単料理なんだけど、物凄く食いつきが良かったよなぁ。
まるで初めて食べるみたいな反応だったし……
「実はギルドの連中が、またユーナちゃんの料理が食べたいって大騒ぎしちゃってね……」
「……はえ?」
……なんですと?
え、何で?普通の家庭料理ですよ、あれ。
「な、何でですか……?」
「だって初めて食べたのよあんな美味しいカルトフェル料理!
じゃりじゃりしてないし、土臭くもなくて、もそもそと喉に引っかかることもない!
お腹も痛くならないし最高に美味しかったのよ!」
え、お腹が痛くなるってそれ、皮が緑色だったり、芽がでてるのを処理してないだけなんじゃ……
っていうか、何で調理済みのジャガイモが土臭かったりじゃりじゃりしたりするんですか?!
それちゃんと下処理してます?!
「……わ、私の認識では家庭料理を作ったつもりなんですが……」
「アレで?!正直に言うけど、昔に一度魔王城で食べた宮廷料理よりも美味しかったわよ?!」
まさかの宮廷料理越えである。
ど、どういうことなの……?
「……すいません、こちらではどんな料理の仕方が主流なんでしょうか……」
「……カルトフェルといえば、そのまま茹でるか、それを潰してスープにするか、かしら。
うちのキッチンスタッフもあんな調理の仕方があるなんて、って目から鱗が落ちてたわ」
Oh……
なんというか……こう……元の世界の某メシマズ国よりも酷い状態じゃないでしょうか、これ。
「……調味料は、何を使ってらっしゃるんですか?」
「基本は塩と胡椒だけね。ただ胡椒はちょっと値段が高いからしょっちゅうは買えないけど」
それじゃあ胡椒なしの塩だけってのが多いんですね。
……マジかー……
《ネットモール》あって良かった……醤油も味噌もないってなったら、発狂するかもしれん。
「ということで報酬も出すし時々でいいのでギルドでご飯作ってください。
というか私もまたユーナちゃんの手料理食べたいですお願いします。
レシピも教えてくれるとありがたいです……!」
そう言いながらレーアさんが綺麗な土下座をした。
「ちょ、土下座は止めてください!
私の料理でよければ作りますし、レシピも差し上げますから!」
「ありがとうございます……!」
だから土下座を止めてくださいってば!
貴女ギルドマスターでしょ!威厳も何もないですよ今の状態っ!
ヘレナさんが恥ずかしそうにしてるから本当に止めたげてください!
皆もぽかんとしてないで止めてくださいよぉ!
……結局レーアさんの土下座は、私を探しに来たフーマに無理やり床からはがされるまで続いた。
土下座するレーアさんと涙目で土下座されてる私を見た時のフーマは、私達を二度見三度見した後引き攣った顔をしていた。
……うん。ごめんよフーマ。
夕飯は美味しいもの用意するからそれで許してくれると嬉しいです。




