元社畜さん、お家をもらう。
ネルソンさんがギルドにやってきた次の日。
私はフーマとジオを連れて、ネルソンさんがくれた手書きの地図の場所にやってきていた。
……やってきたんだけれども。
「……ねぇ、フーマ。ここでいいんだよね?」
「ああ」
「どっかの偉い人の邸宅とかじゃないよね?」
「警備の者がいないからそれはないな」
目の前にはとても大きな、真っ白な壁のお屋敷がドドンと存在感を放っていた。
しかも門までついてる。うわぁ、立派だぁ。
「とりあえず昨日の男が門の前で待っているから早く行くぞ」
「逃げたい……」
『諦めろ』
うう……私、普通のお家がいいんだけどなぁ。
というか、私達まだEランクなんだけどここがお家になるの?マジで?
ヘレナさん達のようなSSランクの人達が住むんだったらまだ分かるんだけど、私なんかが住んで大丈夫なのかなぁ……
もやもやと考えながらお屋敷の門へ行くと、門の前で待っていたネルソンさんがこちらに気が付いたようで、手を振りながらこちらに近づいてきた。
「やあ、待っていたよ」
「お待たせしてすいません。ええっと……もしかして、このお屋敷が?」
「ああ。元は子爵の屋敷だったのだが、借金を抱えた挙句違法賭博に手を出してね。
その子爵は処刑、家は取り潰されて、この屋敷は差し押さえになったのだ。
……まあ、差し押さえたはいいが、なかなか買い取り手がつかなくてな」
……曰くつきでござった。
これ、その子爵さんのお化けとか出ませんよね?ちょっと怖いんですけど……
っていうかネルソンさんがこのお屋敷を差し押さえたってことでいいのかな……?
「この屋敷には君が所望している風呂もある。
なかなかの好物件であると思うが、どうかね」
「え、ええと……私達だけじゃあちょっと……
というか、かなり大きいと思うのですけれども……」
「そこは心配ない。使用人にある程度の管理を任せればいいからね」
ひぇっ……さ、流石伯爵様。
使用人がいることが前提のお話しされていらっしゃる……
エマさんを保護したことで懐はだいぶ温かいけど、流石に使用人さんを雇う余裕はあんまりないんですけど……
「……と、そういえば君達はまだ冒険者ランクがEだったか」
「は、はい」
「それじゃあ使用人の方も少し融通しよう」
「えっ?!い、いえいえそんなに良くされなくても!」
「ははは、なあにそんなに恐縮しなくても、そのくらいで私の懐は痛みはしないさ」
わぁい、ネルソンさん太っ腹ぁ。
……じゃなくて、どんどんお礼の規模が大きくなってきている気がする……!
「それじゃあ中を見てみようか。一応管理はしていたから中は綺麗なはずだ」
「はい、わかりました」
私はギルドに帰りたくてたまりませんけどね!
早速だけれど、あのちょっと狭めのお部屋が恋しいです。
お屋敷の中はネルソンさんの言う通り、とても綺麗に掃除されていた。
ふえぇ……入っていきなり吹き抜けだよ。しかも高そうな赤い絨毯が敷いてあるし……!
な、なんだかここにいるのがとんでもなく場違いな気がする。
「クローゼットの調度品などは自由に使ってくれて構わない。
今すぐにでも転居ができる状態だよ」
「え、調度品まで……いいんですか?」
「ああ、元々私のものではないからね。使う者もいない。
使わずに腐らせるよりも、誰かに使ってもらった方が調度品も本望だろう」
アッ、調度品は子爵さんがいた時のままなんですね。
……お家はともかく、調度品は売却してもよかったんじゃないかなぁ……
あ、でもウォークインクローゼットだったら無理か。
「一階には応接室と客間、そしてキッチンとリビング、風呂がある。
二階は居住スペースと書斎、執務室だ。好きに使ってくれたまえ」
「はい。何から何までありがとうございます」
「それはこちらのセリフなのだがな。……時々娘をここへ連れてきてもよいだろうか」
「? いいですが……どうかなさったんですか?」
「いやなに、娘が君達のことを気に入ったらしくてね。
また会いたいとごねておるのだ」
……うーん?
私、気に入られるようなこと、したっけ?
うーん……まぁいっか。
「わかりました。ええと、次に来られる時はお茶とお菓子を用意しておきますね」
「君は料理上手だと娘から聞いているからね、期待しておくよ」
……うん、あんまり期待はしないでくださいね。
お菓子も料理も人並みの腕前ですからっ。
今回もお読みいただきありがとうございます。
突然ですが新しく【メイド・イン・私】を書き始めました。
息抜き程度に書いていく予定ですので、こちらもお読みいただけると幸いです。




