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元社畜さん、異世界で何します?  作者: 木須田ユーマ
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元社畜さん、感謝される。


「……エマが見つかったと聞いてきたんだが……何の騒ぎだ?これは」


 腹ペコ冒険者さん達に拝み倒された後、見かねたキッチンスタッフさん達と協力して、ジャーマンポテトとフライドポテトを作っては配膳してを繰り返していると、紳士然とした壮年の男性がそう呟きを漏らした。

 エマさんの名前を出したということは、エマさんと縁がある人なのかな?

 呼び捨てだったし、もしかしてエマさんのお父さんかな?


「あ、ネルソンじゃなーい!何しに来たの?」

「……君が私を呼び出したんだろう。エマが見つかったとな」

「ああ、そうだったそうだった!」

「わ、忘れないでくださいよギルマスぅ!」


 ……忘れちゃダメだよレーアさん……

 というかマリーアさん、貴女もジャーマンポテトとフライドポテトに夢中になってて今まで忘れてたでしょ。

 口の端っこに食べかすカルトフェルくっついてるよ。


「……ごほん。それで、エマは、うちの娘はどこにいる?」

「そこでご飯食べてるわよ。エマちゃーん」

「なにっ?!」

「んぇ?あ、お父様!」


 どうやらお父さんで合っていたらしい。

 エマさんがぱっと表情を輝かせて立ち上がり、男性……ネルソンさんに駆け寄る。

 ネルソンさんも気難しそうな顔を輝かせて、両腕を広げ――


「こぉンのバカ娘がぁあああああああああああああ!」

「ギャンッ?!」


 ……両手を拳にして頭を勢いよく挟み、ぐりぐりしはじめた。

 お……おおう……温かな親子の再会から一転してシュールな空気になりおった。

 っていうかバカ娘って……


「この一か月間!私が!どれだけ!気を揉んだか!分かっているのかああああああああああああ?!」

「お、お父様ギブ!ギブアップです!許してくださいだだだだだだだ!」

「しかも!人様に!迷惑を!かけるとは!何事かあああああああああああああ!」

「にぎゃああああああああああああああ!」

「あー、いつもの親子間のやり取りはそのくらいにして頂戴。また倒れるわよアンタ」


 レーアさんが呆れた様子でそう言う。

 というか、いつものことなんですね……?エマさん、トラブルメーカーなのです?

 周囲を見渡してみると、冒険者さん達もギルドスタッフさん達も皆、二人のやり取りを気にしていない。

 むしろニヤニヤ笑いながら二人のやり取りを眺めている。

 ……本当に毎回見ている光景らしい。


「ああ、済まない……つい感情的になってしまった」


 ネルソンさんはそう言うと、エマさんのこめかみから拳を放した。

 相当お仕置きが痛かったのか、解放されたエマさんはこめかみを両手で抑えて無言で蹲る。

 恨みがましそうな目をネルソンさんに向けてるけど、一か月間失踪してたんだから当然と言えば当然の仕打ちな気がする。


「それで、エマを見つけてくれた冒険者はどこにいる?」

「ああ、それなら……ユーナちゃん、こっち来てくれるー?」


 あ、うん。当然呼ばれるよね。当事者ですし。

 キッチンスタッフさんに一言断ってから、フーマとジオと一緒にレーアさんのところへ向かう。

 まさか給仕をしていた、それも人間がそうであるとは思っていなかったのか、ネルソンさんが驚いたように目をみはった。


「……彼女は人間か?何故魔族領に?というか、給仕じゃないのか?」

「色々と事情があるのよ。出自に関してはあんまり詮索しないであげて頂戴。

 さっきまで給仕をしていたのは……まぁ、なりゆきね。なりゆき」

「ふむ……そうか、分かった。余計な詮索はしておこう」

「助かるわ。今一番の将来有望株だからよろしくしてあげてね」

「他でもない君がそう言うのであれば、相当腕が立つのだろう。

 機会があったら指名させていただこうか」


 い、今一番の将来有望株って……レーアさん、それはちょっと買いかぶりすぎですよ。

 そこかしこに私よりも強そう、というか、確実に強い人たち居るじゃないですか。

 期待されているのは嬉しいんだけれど……あんまり過度な期待はしてほしくないんだけどなぁ。

 あとネルソンさん、指名依頼はご勘弁願います。

 フーマとジオはともかくとして私はペーペーもいいところなので。

 先輩冒険者さん達に睨まれるのは嫌でござる。


「私の名前はネルソン=ライヒェンバッハという。

 ……この度は娘が世話になった。礼を言う」


 ネルソンさんは私達に改めて向き直ると、深々と頭を下げながらそう言った。

 あ、あわわ、貴族様に頭下げさせちゃったよ!ど、どどどどうしよう!


「提示していた報奨金以外にも後日礼の品を用意しよう。何か欲しいものはあるか?」

「お、お礼だなんてそんな!困った時はお互い様と言いますし、お気になさらず!」

「そうはいかない。……エマは妻が遺した、いわば忘れ形見なのだ。

 伯爵としてだけではなく、一人の親としても礼をさせてほしい」


 ……そんな風に言われたら断れないじゃないですか。

 でも欲しいもの、と言われてもなぁ……

 欲しいもの……欲しいものなぁ。


「そういえばユーナちゃん、ちょっと前にお風呂が欲しいって言ってなかったかしら?」

「へ?あ、はい。お金がたまったらお風呂付きのお家を建てようと思ってるんです」

「ほう。ならいい物件があるのだが紹介しようか」


 ……はい?


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