元社畜さん、ふるまう。
うーん……作るとは言ったけれども、何を作ろうかなぁ……
ギルド内のキッチンの一角で考え込む。
食材保管庫の中にあるものは何でも使ってもいいって言われたからありがたく使わせてもらうとして、何が入ってるんだろう。
食材保管庫の中を覗いてみると様々な食材が置いてあった。
その中でもとりわけ多いのがジャガイモだ。文字通り山のように積みあがっている。
ジャガイモ……ジャガイモかぁ。ジャガイモを使っていくつか作ろうかな。
他にも使えそうな食材も探そう。
物色した結果、ジャガイモ以外に使ってもよさそうな食材はトマトと玉ねぎ、そしてパセリとベーコン、チーズだった。
うん、この材料なら二品は作れるかな。食用油もそれなりにあったし。
それじゃあフライドポテトとジャーマンポテト作っちゃおう。
最初にフライドポテト……と言っても、作り方は簡単だ。
だって皮をむいたジャガイモをくし切りにして、水にさらした後水けをふき取って小麦粉をまぶして油で揚げるだけだもん。
問題は味の種類だよねぇ……塩だけでもいいんだけれど、お酒を飲むんだったら他にも欲しい。
ということでソースを作ろうかと思います。
まずはトマトソース。
トマトのヘタをくり抜いて熱湯に通す。所謂湯剥きだ。
湯剥きをしたらトマトをざく切りにして種を取り除く。
種を取り除かないとちょっと口当たりが悪いからね。
次に玉ねぎとニンニクをみじん切りにして、油をしいたフライパンの中に入れて炒めていく。
ニンニクは私を観察していたキッチンスタッフさんが譲ってくれた。ありがたいことだ。
香りが出たら弱火にして、トマトを入れる。トマトを入れたら潰しながら弱火で好みの固さまで煮込んでいく。
本当はローリエとかもあったらいいらしいけれど、そこまで本格派でもないし別になくてもいいかなぁと私は思う。
好みの固さになったら、塩で味を調整して完成。
次にチーズソース。
弱火で温めたフライパンでゆっくりバターを溶かして、ふるいにかけた小麦粉を入れて素早く混ぜる。
素早く混ぜないとだまになっちゃうから注意だ。
小麦粉がしっかり混ざったら今度は牛乳を入れて、よくなじむまで混ぜ合わせる。
混ざりにくい場合は泡だて器を使うとうまくいくけど、この世界には泡だて器がないようなので頑張って木べらで混ぜる。
なじんだら細かく刻んだチーズを入れていく。
チーズがしっかり溶けて全体にとろみが出たら塩胡椒で味を調えて完成だ。
フライドポテトのソースはこれくらいでいいか。
次はジャーマンポテトを作る。
ジャガイモはまず粉ふき芋を作って、フライパンに油をしき、ニンニクを入れて弱火で炒める。
ニンニクの香りが立つまで炒めたら、切っておいたベーコンを入れて、弱めの中火でじっくりと炒めていく。
ベーコンが炒め終わったら細く切った玉ねぎを入れて、玉ねぎがしんなりしたら粉ふき芋を入れてざっくり混ぜ合わせ、パセリをかけて出来上がりだ。
余談だけれどベーコンは気持ちちょっと分厚めにして、ジャガイモを多めにして作ったのが私は好きです。
分厚いベーコンって何かぜいたくな気がしていいよね。
とりあえず二品とも出来上がったから持っていこうかな。
出来上がった料理をお盆にのせて皆のいるテーブルへ向かう。
余程待ちかねていたのか、すでにフォークをスタンバイさせていた。
「ええっと、フライドポテトとジャーマンポテトです。
皆で食べられるように大皿に盛ってきました」
「待ってたわー!」
「へぇ、カルトフェルで作った料理なのね」
「……カルトフェルはつまみになるのか……?」
「アタシ、カルトフェルはぼそぼそしてるから苦手なんだけど……」
「でも美味しそうな匂いだね。楽しみだ」
「……そうさね。せっかくユーナが作ってくれたんだし……」
「……試してみるか」
「それじゃあ、いただきまーす」
ここではジャガイモのことを"カルトフェル"っていうのか。覚えとこう。
二人ほどカルトフェルに苦手意識があるのかしかめ面になったけれど、一応食べてくれるらしい。
うう、緊張するなぁ……というか、事前に苦手なものがないか聞くべきだったな……
ヘレナさんがフォークでジャーマンポテトを刺して、口の中に入れる。
「……えっ?」
ヘレナさんは一瞬固まった後、驚いた顔をして一言そう漏らした。
「へ、ヘレナ?」
「ええと……もしかして、お口に合いませんでしたか?」
「あ、いいえ、そうじゃないのよ。
っていうか、これ凄い。え、本当にこれ、カルトフェル?
しっとりしてて、ほくほくしてて、肉汁を吸ってるのかほのかにお肉の旨味があって……美味しい!」
ヘレナさんはそう言うや、とりわけ用のお皿に大皿のジャーマンポテトを十分の一ほどよそってもりもりと食べ始めた。
その様子を見た他のパーティメンバーもジャーマンポテトを自分のお皿によそって恐る恐る口に入れる。
「……何だいこれ、めちゃくちゃ旨いじゃないさ!」
「美味しい……!」
「これは……今まで食ってたカルトフェルは一体何だったんだ?」
「これ、エールに合うねぇ。ベーコンと一緒に食べてエールを飲むと最高だ」
どうやら皆の口に合ったようだ。良かった良かった。
「こっちは……何だ?どうやって食べるんだ?」
「これは、こうやってソースをつけて食べるの」
お手本として実際に食べて見せる。
……うん、トマトソース美味しい。
甘みのあるケチャップもいいけど、私は酸味のあるこっちの方が好きだなぁ。
チーズソースは……うん、チーズの塩気がいい感じ。飲み物がすすむ味だ。
私が食べているのを見たフーマはフライドポテトを一つつまんで、まずはトマトソースをつけて口の中に放り込んだ。
「……美味い!」
『こっちの白いのも旨いぞー!』
「これ、飲み物すすみます……!」
「あ、ズルい!少し頂戴!こっちの少し分けるから!」
フライドポテトも好評のようだ。
皆がわいわいと楽しそうに食べているのを見て心がほっこりする。
喜んでもらえて良かったぁ。
そう思っていると、後ろの方から「なぁ」と声がかけられた。
振り返るとそこにはよだれを垂らした、大きな牛の角が頭から生えた男性が立っていた。
というか、ギルドの食事スペースにいる人全員がこっちを見てよだれを垂らしそうな表情で私を見ていた。
「は、はい……?な、なんでしょう」
「……えっと、だな。あれ、俺達にも作ってくれねぇか……?」
「か、金なら払う、だからちぃとだけ、な?」
……どうやらヘレナさん達の様子を見て自分達も食べたくなったらしい。
ガタイの大きな男性が揃いも揃って私を拝むようにしてお願いしている光景は物凄くシュールだ。
……えーと。
「……ええと、こんなのでよろしいのでしたら……」
「ほんとか?!」
「ありがてぇ……ありがてぇ……!」
目の前であんだけ旨い旨い言いながら食べてる人がいるのに自分達が食べられないっていうのは辛いものがあるものねぇ。
そう思って了承したら様子を見ていた人達全員から一斉に拝まれた。
……ええと、本当にそんなに期待するほどのものじゃないんですからね……?
だからそんな神様を拝むみたいにして私を拝まないでください。
お願いします本当に。
ジャガイモには無限の可能性が秘められている。
異論は認める。←
ちなみにジャーマンポテトは黒コショウがかかっているのが最高に好きです。




