元社畜さん、探し物をする。
とりあえず自力で移動ができない生首さんを抱きかかえて、生首さんの首から下部分を探して森の中を歩く。
本人の談では魔獣を狩りながらほっつき歩いてるって話だけど、見つかるかなぁ。
ニアミスするかもしれないから、できるだけ移動しないでいてくれると助かるんだけどな。
「そういえば生首さん」
「な、生首……私の名前はエマです」
「じゃあエマさん。
エマさんの体はどんな服装をしてらっしゃるんですか?
探すときの参考にしたいです」
生首さん改めエマさんは「なるほど」とつぶやいて考えこみ始めた。
一か月前の話だから曖昧かもなぁ。
「ええと……確か、鎧は着込んでたはずです。
全体的に黒で……後は、槍を持ってたかと」
「ありがとうございます。それじゃあ、それをもとに探してみますね」
「お願いします」
とはいえ、どうしたもんだろう。
今までこの森で人っ子一人見たことないぞ。
「おびき出せたりとかできたらいいんだけどなぁ……」
『じゃあちょっと餌まきゃいいんじゃねえの?』
「餌?」
餌って言われても、今は周囲の魔素を取り込んでるんだよね?
それじゃあ釣れないんじゃあ……
『一か月も魔素を取り込み続けてんだ。ここら一帯はもうほとんど魔素残ってない』
「あ、そうなの?良かった、エマさんの首だけでも見つかって」
『だから魔素の代わりに魔力を餌にすりゃいいんじゃねーかと思ってな。
魔素ってのは放出された魔力が空気中に溶けることでできるもんだ。
餌には十分すぎるだろ』
へぇ、魔素ってもともとは魔力なんだ。
……じゃあ私、魔力だだもれだった時に魔素を大量発生させてたんだ。
でもって魔物は魔素から発生することがある……って、ひえ、私歩く危険物だったんじゃん……
『ってことでユーナ、お前ちょっと魔力たれ流せ』
あ、うん。なんとなく予感はしてたよ。
「……さっきから何話してるんだ?」
「なんとなく私のことが関係してるとはわかってるんですけど……」
「あ、えっと……ジオが私に、魔力を垂れ流して魔素だまりを意図的に作って撒き餌にすれば?って」
「撒き餌って……」
うん、なんか魚扱いされてるようで微妙な気持ちになるよねぇ……
とりあえず試してみようかな。えっと……確か魔力を体にとどめる方法がスク水……もとい、ぴっちりした服を着ている感覚をイメージすることだったから……今度は脱げばいいのかな?
えっと、脱ぐ……脱ぐ……露出狂かな?いやいや、現実で脱ぐわけじゃないから……
しばらくスク水を脱ぐイメージを頭に浮かべていると、温かい何かが体から足元に流れ出ていく感覚がした。
……あ、成功したっぽい?何だか落ち着かないなぁ……
「ええと……大丈夫?気分が悪くなったりとかしてない?」
「あ、大丈夫ですよ。魔力量は少なくはないので」
とりあえずしばらくこのまま待ってたほうがいいよね、撒き餌なんだし。
どのくらい垂れ流しにしとけば大丈夫なんだろう。
出てくるまでずっと垂れ流しにしとけばいいのかな?
……できれば早めに出てきてくれるとありがたいなぁ。
なんだか魔力を垂れ流してる状態が落ち着かないから。
なんて考えながらぼんやりしていると、いきなりフーマとジオが臨戦態勢になった。
「え、どうしたのフーマ?」
「何か来る」
何か来るって何が?!
フーマとジオが睨んでいる方向に、私も視線を向ける。
……えっと、何も見えないけど……うん?なんだかものすごい地響きが聞こえるような……?
耳をそばだててみると、ドドドドド、という何かが突進してくるような音と、バキバキという硬い植物が折れたり砕けたりする音が混ざって、だんだん大きくなってきた。
……って、こっちに向かってきてない?!
何かがものすごい勢いでこっちに向かっていると確信したところで、その何かが木々をなぎ倒しながら飛び出してきた。
出てきたのは、真っ黒な甲冑を着込み、槍を携えた首のない胴体だった。
鎧の下に着ている服の布地が土と血で汚れてがびがびになっている。
飛び出してきた時の勢いそのままにこちらに突っ込んで……
『ほい、捕縛』
「わ、私の身体ー!」
……待ち構えていたジオにからめとられた。
エマさんの身体は一瞬固まった後、ジオを振り払おうとじたばたと暴れ始めた。
「え、えと……エマさんの身体でお間違いありませんか?」
「間違いないです!でもこんな汚いところ人に見せたくなかったああああああああ」
えっと……ご愁傷さまです、エマさん……
確かにこの汚れようは乙女としてちょっと……うん。
とりあえず首と胴体をドッキングさせよう。
多分それで落ち着いてくれると思うし。
……落ち着いてくれるよね?落ち着いてくれるといいなぁ……
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10/1 追記
一部誤字を修正いたしました。




