元社畜さん、お仕事に行く。
フーマの冒険者登録もつつがなく終わり、お部屋もお願いして変更してもらった。
丁度他の町へ発ったパーティが居たらしい。すぐに手配してもらえた。
ちなみにフーマが魔力を込めた水晶は、綺麗な翡翠色をした2㎝くらいの十面体になった。
首には首輪隠しのマフラーをしているので腕輪になりました。
翼のような意匠が施された銀色の台座に、緑が綺麗に映えている逸品だ。
なんかレーアさんの口からミスリルがどうのとか聞こえたけど、聞かなかったことにする。
……高価なものをホイホイ譲らないでいただきたい。
心臓に悪いです。マジで。
……本当にご恩返しどうしようね?
閑話休題。
現在は掲示板の前で採取系の依頼がないか吟味しております。
冒険者は功績ごとにランク分けがされていて、一番下はEランク、一番上はSSSランクまであるんだとか。
とりあえず今は二人とも冒険者ランクがEだから、お給料的にあんまり美味しくない依頼しかないから頑張ってランク上げなきゃなぁ。
目指せのんびりできる老後っ。
「んっと……今日はこれと、これにしよう」
掲示板から薬草採取と"ゾウフクダケ"というきのこを採取してきてほしいという内容が記載された紙を剥がして、それを受け付けにいるギルド職員さんに渡して受注する。
フーマをお迎え待ちの時も同じようなお仕事をこなしてたから、薬草もゾウフクダケも四日間のうちにどこで採れるかすでに把握済みだ。
うーん、これだけだと時間余っちゃうかなぁ。
「……ユーナ」
「うん?どうかしたの、フーマ?」
「……その、何だ。時間ができたらでいいから、読み書きを教えてほしい」
ちょっとだけ恥ずかしそうに目を泳がせながら、フーマがぼそぼそと小声で私に耳打ちする。
そういえば子供のうちから奴隷だった人は読み書きができない人が多いんだっけ。
掲示板の前にいた時も難しそうな顔してたのも文字が読めなかったからなのか。
「勿論。ついでに計算もできるように勉強する?」
読み書きもだけど計算もできないと不便なことがあるかもしれないもんね。
私の提案にフーマはきょとんとした後、嬉しそうに笑ってこっくり頷いた。
……めっちゃ期待してるとこ悪いけど、人に勉強教えるの初めてだから教えるのが下手くそでも怒らんといてね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
関所なう。
この町は城下町だけあって人の往来が絶えずあり、外からやってきた人達を狙ってか屋台もちらほらと見受けられる。
まぁそんな感じで人がめちゃくちゃ多いので迷子防止にフーマに抱っこされております。
……いや、最初は手を握ろうとしてたんだよ?
でもしばらく並んでたら人に埋もれちゃったんだよね。私が。
なので抱っこされております。
……ちくせう。みんな縮めばいいのに。
「おお?おはよう嬢ちゃん、今日はお供を一人増やしたのかい?」
いつの間にか関所の受付にたどり着いていたのか、ここ三日ほどでちょっぴり親しくなった守衛さんに話しかけられた。
ちょっとだけ警戒の色をにじませたフーマをなだめて、守衛さんに「おはようございます」とあいさつをする。
「ええ、まぁ……私とジオだけだと、いざという時に危ないかなぁって」
「うんうん、嬢ちゃんはしっかりしてんなぁ。
兄ちゃん、しっかり嬢ちゃんを守ってやるんだぜ」
「……言われなくてもユーナは俺が守る」
「はっはっは!がんばれよ兄ちゃん!」
守衛さんはフーマの不遜な物言いも気にせず笑い、ばしばしとフーマの背中をたたいた。
……こら、フーマ。ご本人の目の前でそんな迷惑そうな顔しないの。
失礼でしょうが。
「まあ、最近は魔獣や魔物の数が減ってるから心配ねぇか。
暗くなる前に帰って来いよー」
「はい、ありがとうございます」
にこにこと笑って手を振りながらそう言ってくれた守衛さんに手を振り返して町の外へ出た。
フーマはというと、早々に守衛さんを苦手枠に入れたらしく、速足でその場を後にした。
……、……。えっと。
「ねえ、フーマ」
「どうかしたのか?」
「道、そっちじゃない……」
「うっ」
「道案内するから降ろして」
「……………………分かった」
……そんなに苦手だったのね、守衛さん。
っていうか私を降ろすだけなのに何でそんなに渋るのさ。
片手がふさがるから不便だと思うんだけど。
確かに人に埋もれたのは悪かったけど、町の外に出てそれなりに人もまばらになったからもう大丈夫なんだけどなぁ。
解せぬ。
 




