元社畜さん、朝ですよ。
着せ替え人形にされてぐったりしつつ冒険者ギルドに戻った。
……あ、フーマとは同室でした。
何でも奴隷さんは契約した人の所持品扱いになるんだとか。
別室にすると盗難に遭う可能性もありえるらしい。
……所持品って。
いやまぁ、予想はしてたけどね。
してたんだけど……いざ言われるとすっごい心が痛む。
……フーマのこと大事にしよう。改めて心に決めた。
んで、物凄く疲れたのでフーマの冒険者登録は翌日に回して寝ようと思ったんだけれど一つ問題が発生。
……お部屋にあるベッド、一つしかなかった。
いや、一応サイズはセミダブルだったからちょっと狭くなるけど二人で寝れるんだけどね。
フーマが真っ赤になって「俺は床でいい」って言いだしちゃったんだよね。
私だけベッドで寝るのは心苦しかったから私が床で寝るって言ったら床は硬いし不衛生だからダメだって言うし……
なので「フーマが床で寝るなら私も床で寝る」って駄々こねました。
困った顔してたけど私もフーマに硬くて不衛生なとこで寝て欲しくないからっ。
とまぁそんな感じでフーマとお話し合いをした結果、背中合わせで寝るという条件で私が無事大勝利しました。
うん、正しい判断だと思う。
明日からはベッドが二つあるお部屋に移動してもらえるようにお願いしに行こうね。
……で、眠って朝になったので起きようとしたのですが。
何で私はフーマと向かい合って寝てるんでせう?
しかも抱き枕よろしくがっちりホールドされてるし。
「……フーマ。フーマ起きてー。おーい」
「……んぅ」
「むぐ」
……起きるどころかいっそう抱きしめられたでござる。
っていうか大胸筋に顔が埋まって、く、苦しい……
「むーっ。んむーっ」
ぺちぺちと手でフーマの腕を叩いても無反応。
ど、どないせーと……
『……何やってんだお前ら』
テーブルの上に置いた寝床から起きてきたらしいジオに呆れた顔をされた。
いや、不可抗力なんですって……
『起きたらこうなってた……』
『お前ら背中合わせで寝てたろ……どういう寝相だったらこうなるんだ』
念話で言うと、いっそ感心するわと言いたげに呆れられた。
『それな。それはともかくとして、助けてくださいお願いします』
『……仕方ねーな。おら、鬼のにーさんとっとと起きろ』
「だっ!」
ジオはそう言うなり、アホ毛みたいな触腕を伸ばして、べちーん!とフーマの額をひっぱたいた。
ちょ、ジオさんそれはちょっと可哀想じゃないかい?!
今鞭みたいにしなってたよね触腕!
「て、てめぇスライム、朝っぱらからいきなり何しやがる……!」
『おう、おはようさん。とりあえずそいつ放してやれ』
「あ?……ユーナ?!」
ちょいちょいとジオがいまだにフーマの腕の中から抜け出せずにいる私を触腕で指示すと、ようやくもがいている私に気づいてくれたのかフーマの腕の力が緩んだ。
ぷはあっ!……あー。空気がおいしいでござる。
「な、何でユーナが俺の腕の中に?」
「分かんない。起きたらこの状態だった。
で、動けないし苦しいから念話でジオに助けを求めたらばちーんって……」
顔が赤くなったり青くなったり忙しいですなフーマさん。
フーマは目を盛大に泳がせながら「あー」とか「うー」とか唸った後、「悪い」と絞り出すように言った。
「うん、ちょっぴりびっくりしたけど大丈夫だよ。
とりあえず今日はフーマの冒険者登録をして、ベッドが二つあるお部屋に変えてもらえるか確認しよう。
で、時間があったらできそうなお仕事探そう」
「ああ、わかった」
ざっくりとした今日の予定を決めて、身支度を始めた。
……あ、ちゃんと簡易カーテンで仕切ったからね?
時々部屋が足りなくて男女が一緒の部屋になることがあるから、どの部屋にも設置されているってヘレナさんが言ってた。
ぱぱっと服を着て、《クリーン》をかけて身綺麗にする。
《クリーン》は部屋や身体を綺麗に保つための生活魔法の一つだ。
お風呂はないの?って聞いたときに、お風呂は設置するときの工事費が高いから貴族の家くらいにしかないって教わったときに併せて教わった。便利だなぁ。
……でも日本人的には湯船に肩までつかって疲れを癒したいでござる。
……貯金しよう。でもって家買おう。
そんでもってお風呂を設置するんだっ!
よぅし!そうと決まれば今日も頑張ってお仕事するぞー!




