表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元社畜さん、異世界で何します?  作者: 木須田ユーマ
20/50

元社畜さん、装備を揃える。(1)


「それじゃあフーマ君の装備を整えに行きましょうか。

 そのままじゃあ心もとないでしょう?」


 フーマ――一度"さん"付けにしたら呼び捨てにしてほしいと懇願された――を引き取った後、裏通りから表通りへ出てすぐにヘレナさんが私達の方を振り返りながら言った。

 確かに。

 今のフーマはイェルクさんのところで支給された、ちょっとボロい服だけしかもっていないみたいだし。

 装備と併せて服も何着か買いたいところだ。


「ええと、それじゃあ装備を揃えることができるお店を紹介していただけますか?

 私、この町の中を出歩いたことがないので……」

「もちろん!ついでにユーナの装備も見ていきましょう!

 今後もお世話になると思うからきちんと道を覚えてね」

「はい」「分かった」


 上機嫌に前を歩くヘレナさんの後について歩く。

 町は活気があふれており、興味がひかれるものも多々あったので私もフーマもしょっちゅうよそ見をしていたけれど、その度にニコルやルーカスさんが軌道修正してくれた。

 うう、誘惑に負けやすい奴で申し訳ない。

 でも気になるものは気になるので、冒険者業が軌道に乗ってきたらフーマとジオと私の二人と一匹で観光しよう。

 うん。楽しみだ。


「着いたわ。ここが冒険者御用達の"メルケルの店"よ」


 そう言ってヘレナさんが紹介してくれたお店は、あまり飾り気のない店構えをしていた。

 でも外から見える店内のレイアウトには革や金属でできた鎧以外にも、普通に町を歩いている人たちが着るような服もディスプレイされていた。


「このお店、普通の洋服も販売されているんですか?」

「ええ。父親のズザネさんが防具を、娘のゲルダが服飾を担当しているの」


 ほへー。そうなのか。

 装備を買った後は服飾店を探しに行こうと思っていたから手間が省けた。

 フーマやアルトゥールさん達もあんまり連れ回すと疲れちゃうだろうしね。

 え?ヘレナさん?

 ヘレナさん、なんか今物凄く興奮してるから大丈夫だと思う。

 現に今も、何故か鼻息荒くお店の中に入ってっちゃったし。

 ヘレナさんに続いてお店の中に入ると、店番をしていた女性がこちらを見て「いらっしゃいませ」と笑って言ってくれた。


「こんにちは、ゲルダ」

「ええ、こんにちはヘレナ。今日も例の子の服を見繕いに来たの?」


 例の子?例の子って誰なんです?

 というかヘレナさん、他人にお金使い過ぎでは……?


「うーん、当たらずとも遠からずかしら。

 今日はその子にここの道案内と、同行者君の服と装備一式を買いに来たのよ」

「え。もしかして今日来てるの?」

「ええ。ほら、あの子がそうよ」


 ヘレナさんが入り口付近でぼけっと突っ立っている私を指さす。

 ……例の子って私のことでしたか。そうですか。

 さっきまでヘレナさんと一緒に喋っていた店番の女性――ゲルダさんがカウンターから身を乗り出して、お店の入り口付近で立っていた私達を見て目を輝かせた。


「ヘレナの影に隠れてて気づかなかったわ!

 初めまして。私はゲルダ=メルケル。

 この鍛冶屋兼服飾店のオーナーの一人よ。よろしくねー」

「は、初めまして。私はユーナ=クドゥーと申します。よろしくお願いいたします」

「……フーマという。よろしく頼む」

「あはははは、かったいわねぇ!もっと砕けた口調でも構わないわよ」


 ゲルダさんは愉快そうに笑うと、カウンターを乗り越えてこちらに近づいてきた。

 ……わぁお。


「……!」

「あはは。ちょっと貴方達の採寸するだけで、とって喰ったりなんてしないからそんなに警戒しないで頂戴」


 ゲルダさんがカウンターを乗り越えてきたことで露わになった下半身を見て、フーマが私を後ろに押しやって警戒モードに切り替わる。

 ゲルダさんは上半身こそ人型の綺麗な女性だったけれど、下半身は巨大な蜘蛛のそれだった。

 おー、アラクネさんだったんですね、ゲルダさん。脚や甲殻が光を反射して綺麗だなぁ。


「フーマ、大丈夫だよ?」

「……だが」

「大丈夫」

「……分かった」


 フーマを宥めて警戒を解かせると、ゲルダさんが珍しいものを見たかのように「へえ」と声を上げた。


「貴女、私が怖くないの?ほら、蜘蛛の脚よ、蜘蛛の」

「蜘蛛は嫌いじゃないです。それに、私の故郷では神の使いと言われてますし」


 小さいころに近所のばあちゃんが教えてくれたんだよね。

 確か朝やお昼の蜘蛛は「生」を象徴していて、夜の蜘蛛はその正反対のものを象徴してるんだっけ。

 ……同級生が朝、修学旅行先のホテルで蜘蛛を見かけた時には不自然なくらい優しい顔で見逃してたけど、夜になった瞬間「貴様の命運もここまでだ!死にさらせええええええええ!」って態度が豹変してたのが印象深かったわ……


「……へー。変わった風習の土地もあるのねぇ」

「そうでしょうか」

「そうよー、人間は普通、こういうものに嫌悪を抱くんものでしょう?」

「人によると思います。私はG以外なら虫も蛇も平気ですから大丈夫ですよ」

「G?……ああ、黒光りするあれね。あれは私もダメだわ……」


 心底嫌そうな顔をしてゲルダさんが身震いする。

 この世界にもGはいるらしい。

 しかも反応を見るにあの生理的嫌悪をわきあがらせる姿は健在のようだ。

 ……で、出会う機会がないことを願おう。


「それはそうと、サイズ採寸させてもらってもいいかしら。

 鎧を作るにしろ服を作るにしろ必要になってくるから、ちょこちょこ測らせてもらうことになると思うけどいい?」

「はい。……フーマは大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ」

「ありがとう。フーマ君は男の子だからお父さんに測ってもらってね」

「………………分かった」


 ……フーマや、その長い間は何ですか……?

 すっごい渋々頷いたよね?もしかして離れるの嫌なの?

 ……とりあえず早く終わるように努力しよう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ